わが輩も猫である

「うらはら」は心にあるもの、「まぼろし」はことばがつくるもの。

つつましい老人医療=野沢和弘

2008-06-03 | Weblog

 国民医療費33兆円のうち11兆円が高齢者、1人当たりの高齢者の医療費は若年世代の4倍以上--といわれると、病院でチューブやセンサーの管を体中に付けられているスパゲティ症候群のような過剰医療を思い浮かべる人がいるかもしれない。高齢者の医療費を抑制するための世論形成に使われそうだが、それはちょっと違うのではないか。

 死亡するまでの一定期間の医療費を年齢別に比較したところ、高齢になるほど低いという調査結果がある。その分介護に費用がかかるケースもあるが、医療も介護も手が届かずに孤独死する高齢者だって毎年多数いる。最近は高額な先進医療を対象にした民間医療保険が人気だそうだが、後期高齢者はそうした潮流からも取り残されている。

 高齢になるほど病気にかかることが多くなり、その高齢者が猛烈な勢いで増えているのだから医療費も増えるのであって、むしろ一人ひとりの高齢者を見れば、つつましく医療を受けている人が多いのではないか。さらに抑制すればどのような現実をもたらすだろう。

 たしかに後期高齢者医療制度を廃止しただけでは医療保険そのものが破綻(はたん)するのは目に見えている。空からカネが降ってくるわけではないから、どこかを削って財源を確保しなければならない。

 特別会計や行政の無駄を徹底して見直せば既得権益を失う人々が抵抗し、消費税を上げようとすれば庶民は猛反発するだろう。だからといって何もやらないのは、戦中戦後のこの国を支えてきた人々に「早く死んでください」というようなものではないか。(夕刊編集部)




毎日新聞 2008年6月1日 東京朝刊

コメントを投稿