わが家の食育…「お家で作ろう! 食べよう!」

家族の健康づくりは、わが家で作る食事から…。信濃毎日新聞発行「週刊さくだいら」「週刊いいだ」特集掲載をまとめます。

信州の伝統野菜「ひしの南蛮」が旬! 

2010-09-11 | 農と食をつなぐ…産地の歴史と未来

農と食をつなぐ…産地の歴史と未来 Part3 
                 信濃毎日新聞社「週刊さくだいら」
                  <2010.8/19号掲載>

                                   

明治時代に農業振興が進み、野菜の栽培品種は第二次世界大戦後にF1品種が登場してから、全国どこでも栽培できる品種へと改良し続けられてきました。一方、京野菜や江戸野菜に代表される日本各地で受け継がれてきた地方品種には、特有の個性があり、希少価値があります。
長野県では県内各地で伝承されてきた種を守るために、「伝統野菜」として認定し保護と普及に力をいれています。
夏真っ盛り…、東信地域で旬を迎えている伝統野菜「ひしの南蛮」を紹介します。

ひしの南蛮   小諸市(菱平地区)
ひしの南蛮は、ピーマンを小さくした形状のナス科トウガラシ属の野菜。昨年、信州の伝統野菜伝承地栽培に認定されました。

栽培地は、浅間ビューライン沿いにある眺望一番ひしの直売所を拠点とする地域。
この地は、浅間連峰・八ヶ岳連峰・北アルプス、そして富士山までも見渡せる標高800~1000mの高原地帯で、その名の通り抜群の見晴らしです。
小諸市景観100選に載る「不動滝」があり、豊富な湧き水が地域の畑を潤し、作物は自然の恩恵を受けて実ります。朝夕の霧と、昼夜の寒暖の差がトウモロコシやブルーベリーを甘くしています。

ひしの南蛮は、1943(昭和18)年頃、朝鮮から持ち帰った種が地域の育種によって今に伝わります。
早めに収穫し、軟らかい種が入ったまま、ヘタも丸ごと食べるのが地域で伝えられてきた食べ方。辛みは少なく、風味と食感を楽しむ南蛮です。

生産組合では、この食べ方を地域に伝えたいと、今年は栽培面積を30aに広げ、32名の生産者による栽培をしています。 
伝承地のこの思いを受け止め、「ふるさとのスーパー」として地元に本社をおく「ツルヤ」が販売協力。農工商連携の取り組みが始まっています。

緑色のほおずきを思わせる可愛い実です。菱平地域では、水を使わず丸ごと甘辛く煮含めますが、焼き物、天ぷら、カレーにも。この夏、この味は“必見”です。

【ひしの南蛮の佃煮】  ヘタ付きで丸ごと鍋に入れ、酒・しょうゆ・みりんだけで煮る。南蛮の水分が出るので、フタをして薄味で煮含める。
(ひしの南蛮の販売は、眺望一番ひしの直売所、スーパーマーケットツルヤ小諸店・小諸東店・みかげ店・軽井沢店)
                    
                           
   菱平地区農産物出荷施設利用組合のひしの南蛮生産者さんたち
   眺望一番ひしの直売所  TEL0267(22)1451

                                 
信州の伝統野菜
作物の品種の育成で求められるのは、品種特性の保持と整一性です。
そして、現在の品種改良は、“そろう”という「均一性」や「多収性」、「障害抵抗性」「耐病・耐虫性」などを目的に急激に進められています。

気づいてみれば、現在食卓に上がっている野菜のほとんどは外来種になり、日本原産はセリ、ミツバ、フキ、ウドなど極わずか。
1950(昭和25)年には全国で150種のナスが栽培され、1958年にはダイコンが120種栽培されていたそうですが、これらは1965年にかけて次々に無くなり、現在に至っています。

画一化したものは同じダメージでの被害が大きくなり、人工的な管理を必要とする栽培は予期せぬ事態に弱いという危険性をはらんでいます。
地域の気候や風土に適応して種をつないできた地方品種は、食糧の危機管理の面からも護(まも)り伝えたい品種です。  
長野県の「信州伝統野菜認定制度」は、伝統野菜の継承と地域振興を図るだけでなく、様々な側面を持つ取り組みです。


         

信州の伝統野菜認定制度
・信州の伝統野菜   
昭和30年代以前から栽培されている品種で、品種特性が明確で、地域の行事食・郷土食として伝承されているものを選定。

・伝承地栽培      
選定された伝統野菜のうち、伝承地で継続的に栽培されている伝統野菜、および生産基準(種子・栽培方法・生産体制)を満たした生産グループを認定。

東信地域の伝統野菜
東信地域の伝統野菜は少なく、ひしの南蛮のほかに「山口大根」と「御牧いちご」が選定されています。
山口大根は、上田市山口で栽培されていた漬物、おろし用の大根で、昭和10年代を最盛期として種が伝承され、一時は栽培者がたった一人になったことも。近年は有志によって栽培が広がっています。


一方、御牧いちごは明治30年代にアメリカから種が導入され、ジャム用の品種として品種改良されました。
昭和10年代にはジャム加工工場ができるほどでしたが、昭和30年代から工場の閉鎖により衰退。現在も「いちご平」の地名は残っていますが、希少な品種になっています。



山口大根は辛さも絶品、甘さも絶品。おろすと辛く、火を通すと甘い大根です。てんぷらなどで揚げると格別のおいしさ。

地域で食べ継がれた食文化を未来へ
先人にとって作物は生命維持の源であり、種の伝承は次世代の食の確保への思いが込められたもので
ありました。
受け継がれてきた地方品種には、その地に生きた人々の歴史に脈々とつながれた「命への心」と「食文化の伝承」があります。
   
新たに現在の食べ方を加えるのも、また食文化の伝承。そこには、時代に生きた人々の暮らしが、反映しています。


農工商連携で地域の個性を生かす

農作物の画一化は、食文化も画一化にしてしまいます。
「食は材にあり」の言葉のように、地方にある個性豊かな食材を流通することで、地域には独特の食文化が生まれます。
農業生産は一次産業、商品加工は第二次産業、販売は第三次産業。この三者を連携で行うのが、第六次産業化で「農商工連携」を意味します。
地方の食材は新しい産業を生み、地域の活性化につながりますが、その継続も発展も、すべては消費にかかっています。


六次産業化で地域の個性を生かす
千曲市に本社のある宮城商店。信州の新鮮な食材を漬物や佃煮で販売したいという思いから、木の花屋ブランドを立ち上げ、「信州の伝統野菜シリーズ」を製造販売しています。
輸入原料によるコストダウンが当たり前だった漬物等の加工品に、ようやく国産原料が増え始めた昨今。
小ロットで季節も限られ、流通に乗りにくい伝統野菜の加工に着手し、製造メーカーが店舗の直売店を持つことで、今までの流通に欠けていた「生産の情報提供」と「消費者の声のフィードバック」を叶えています。



「戸隠大根味噌漬」(左)は、パリッとした歯ざわりが持ち味。
「ぼたごしょうの佃煮」(右)は、晩夏が最盛期。どちらも季節限定販売です。
  

「ひしの南蛮の佃煮」は、ひしの南蛮を丸ごと佃煮にした味の逸品。甘南蛮の風味と種付きの食感は必見。
        宮城商店(木の花屋) TEL026(274)3001

互いに共生する地元の生産と消費を
「信州を食べよう」キャンペーン
県民公募で選ばれた名称「旬ちゃん」を地産地消キャラクターにし、地域で生産したものを積極的にその地で消費することを推進する、「顔が見える」「話ができる」消費活動です。

■作り手と売り手が力を携えて…
地産地消が旬ちゃんの印がのぼり旗。
農業生産、商品加工、そして販売…、信州産の食材を地域で加工し、地域で消費することは、地産地消としても理想の流れです。
作る人も、売る人も、買う人も、お互いが必要な関係にあり、誰もが必要とされる存在です。
信州の自然が育む豊かな恵みを求めて、旬ちゃんののぼり旗のあるお店に行ってみましょう。


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