ウイーン古典派プログラムの模範のような選曲の定期を振るのは古楽界を代表する指揮者(チェロ奏者)鈴木雅美だ。オケはティンパニとトランペットにピリオドスタイルの楽器が用いられ、フルートは木製。弦のビブラートは抑制されてスッキリした響で統一されていて、全体に嘗て流行ったような変に刺激的な炸裂は控えた落ち着いた響だ。こういう穏当なスタイルでウイーン古典派を聞くと、一時は反動的なブームのように広がった”古楽スタイル”も落ち着くところに落ち着いたなという気がする。最初のモーツアルトの歌劇「ドン・ジョバンニ」序曲は、まあスターターとしての腕試しのような感じ。整った響が心地よく、独立して演奏されるために尻切れトンボ的なオペラ版のコーダに加筆が施されていた。続いて小山実稚恵を迎えてベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番ハ短調作品37。小山の独奏はダイナミックレンジを広くとった実にこの時期のベートーヴェンらしい演奏で、モーツアルトからの時代的進化を明確に印象づけるものだった。オケもそれに機敏に反応してこの曲としては理想的な仕上がりであったと思う。大きな拍手にアンコールはシューベルトの即興曲D.899第3番。小山の紡ぎ出すの深淵な世界が、前半の古典派の世界を後半のロマン派の夜明けの世界に美しくつなげた。そして「トリ」はシューベルトの交響曲第8番ハ長調D.944「ザ・グレート」だ。これは現在のシティフィルの強みが鈴木の指揮の元で全面に押し出された稀に見る名演だったのではないか。ニュアンス豊かな木管、力強くメリハリのある金管、シャープなティンパニ、そして機動力豊かな弦楽群が総力を上げてシューベルトの晩年の大作を歌い上げた。特に今回目立ったのはこの曲では大活躍するトロンボーンのニュアンスの豊かさだ。ナチュラルのトランペットも健闘。こうした適正なスタイルの秀でた演奏で聞くとこの曲も冗長さをほとんど感じない。
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