2010-2017年のシーズンに首席客演指揮者を務めたヤクブ・フルシャが振る7年ぶりの演奏会である。チェコ音楽特集でスメタナ、ヤナーチェク、ドヴォルザークという王道が並んだ。スメタナ生誕200年、ヤナーチェク生誕170年、ドヴォルザーク没後120年の記念イヤーにちなんだプログラムか。まずは日本では滅多に演奏されることがないスメタナの歌劇「リブシェ」序曲だ。その愛国的な内容ゆえに冒頭のファンファーレはチェコの国家式典でしばしば奏されることがある。コロナ前2019年5月の「プラハの春音楽祭」でフルシャ指揮バンベルク交響楽団の「我が祖国」を聴いた夢のような体験が脳裏に浮かんで思わず胸が熱くなった。なんとも深い思いが指揮ぶりから感じられ、それを都響が見事に音にしていた。続いてヤナーチェクの歌劇「利口な女狐の物語」大組曲だ。一般にはターリヒやイーレクやマッケラスの編曲が知られているのだが、今回は95分のオペラ全曲を30分に凝縮したフルシャ版だ。これは実によく出来た編曲で、ピットで聴くよりも明快に響くのでヤナーチェック独特のオーケストレーションの面白さが実に良く聞き取れた。もちろん演奏も文句ないもので、都響がヤナーチェク独特の響を見事に再現していたのには驚いた。きっとフルシャの血がメンバー全員に漏れなく伝播していったのだろう。最後はドヴォルザークの交響曲第3番変ホ長調作品10。あまり演奏されないものをあえて取り上げたということだが、これはフルシャがいかに健闘しても、やはり曲の習作的な若さには限界がある。全三楽章でなかなか良いメロディがあるのだが、その展開が何とも物足りないので作品としての充実感がない。しかし真摯に対峙して精一杯の効果をあげていたことは確かで、実演を聞けた意味は大いにあった。
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