
ヴェルディの作品を上演することを目的として指揮者出島達夫によって2011年に立ち上げられた「アリドラーテ(黄金の翼)歌劇団」が世に問う11番目の演目はヴェルディ五作目のオペラ「エルナーニ」である。私自身語り草になっている若杉弘によるびわ湖ホールでのヴィルディ初期オペラシリーズを全演目制覇した身として、その懐かしさに昨年上演された「シチリアの晩鐘」に出向いたのがこの歌劇団との出会いであった。誠に失礼な言い方になるが、そこで思いの外の質の高さに驚き今年も初台の中劇場に出向いたというわけである。そして結果は期待通り、いやむしろ期待を大きく上回る感動をもらって帰路についた。その理由はまず何より生え抜きの歌手陣を揃えたことである。エルナーニ役の石井基幾、国王にしてエルナーニの政仇ドン・カルロ役の 井出壮志朗、エルナーニの恋敵シルヴェの加藤宏隆、シルヴァの姪にしてエルナーニの恋人エルヴィーラ役の中村真紀、その侍女ジョヴァンナ役の米谷朋子、王の従者リッカルド役の工藤翔陽、シルヴァの従者ヤーゴ役の奥秋大樹、この全員がヴェルディのスタイルをきちんと身につけた実に立派な歌役者だったという驚異的な事実があったのだ。これは歴史ある日本のオペラカンパニーの公演でも稀有なことである。そして指揮の山島達夫の丁寧な統率は昨年の「シチリア」を上回り、無難な交通整理を超えて本格ヴェルディを醸し出していた。 木澤譲の演出は装置こそ極めて限定的であったが、新国のステージエレベーション機構を存分に使い尽くし、さらには大人数の合唱や石井竜一振付のバレエを随所に登場させる等、大技小技を取り混ぜて少ない経費の中でイタリアを感じさせつつ最大限に説明効果を発揮させていたと思う。つまり賢い頭で引き算をしていった結果、そこにヴェルディが浮かび上がって来たのだ。大きな経費を投入して的を外した読み替え演出を繰り返す有名カンパニーに爪の垢でも煎じて飲ませたいくらいである。プログラムに載せられたイラスト付きの筋書きは、装置の少なさを補って聴きての想像力を膨らませドラマへの没入を助けてくれた。ヴェルディの音楽を愛する者の一人として、様々な苦労の中でヴェルディ愛を強く貫き良い結果を出し続けている出島氏とその周りに集まるこの歌劇団の方々に心からの敬意を表したい。そして来年の「アッティラ」を楽しみにしたい。