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東響第729回定期(2025年4月5日)

2025年04月05日 | 東響

2014年4月から11年の長きにわたって東京交響楽団の音楽監督をつとめたジョナサン・ノット。彼が音楽監督として最後のシーズン幕開けに選んだ曲は今回が二度目となるブルックナーの交響曲第8番ハ短調WAB108である。就任2年目の2016年7月定期で取り上げた時には実にスマートな力感に溢れた演奏で、所謂巨匠たちの堅固で厳かな演奏とは明らかに一線を隔したとびきりの新鮮さを感じたものだった。今回は初稿ノヴァーク版(1972)による演奏ということで、9年を経たノットの解釈と初稿使用という二つの「違い」を楽しみに桜満開のサントリーホールに足を運んだ。果たして演奏は前回とは全く趣を異にしたものだった。ノットといえばいつもは快速調なのだが開始からテンポが遅いことに驚いた。それはあたかも去る時間を慈しむようだった。初めは最後のシーズンに臨み11年間の自分のオケの進化を確かめているようにも聞こえたのだが、その丁寧な歩みによりこの第一稿の特徴である作曲家のナイーヴな感性が次々に浮き彫りにされ、今までに聞いたことのないような新鮮な世界が展開しだしたのには全く驚いた。丁寧にジックリと、しかし決して鈍重でなく柔軟に音符に向かい合うことで、周囲の助言により劇的効果が付け加えられる前の第一稿の極めて純粋な美しさが尊いまでに音化されたといったら良いだろうか。これまで実演をも含めて幾度か聞いて来たがどうしても馴染み難かったこの初稿の価値、ひいてはブルックナーの音楽の本当の価値を初めて思い知った貴重な時間だった。グレブ・ニキティン、小林壱成、田尻順のコンマス3人体制で臨んだこの日の東響は最適なバランスを保ちつつ、このノットの音楽にピタリを追従した美しい音でこの世界を描き尽くした。夢のような95分、前回のような突飛なブラボーの蛮声に妨げられることもなく美しく得難い印象として心に刻めて本当によかった。


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