
嘗てシティ・フィルの指揮研究員を務めていた経歴のある松本宗利音(しゅうりひと)の東京オペラシティ定期デビューである。名前を聞いてあの名指揮者カール・シューリヒトを思い浮かべるのは私だけではないだろうが、父親が自らが敬愛する大指揮者の苗字にちなんで名付けたそうである。まあそれはともかく、ドヴォルザークの交響詩「英雄の歌」作品111とブラームスの交響曲第2番ニ長調作品73をアーチで結んで、その中にミヨーのスカラムーシュ作品165と逢坂裕のアルトサクソフォン協奏曲(上野耕平委託作品)を据えた長く堂々たるプログラムである。最初のドヴォルザークは珍しい曲で初聞きであったが20分を要する大曲である。さっぱりと美しく奏でつつ必要なときは明確に細部を際立てるこの指揮者の丁寧な音楽が最初から際立った。そしてボヘミヤの音感が聞くものを郷愁に誘う。曲自体ちょっと長すぎる感じはあったが、とても良いスターターだった。次に人気サクソフォン奏者上野耕平を迎えてミヨーと逢坂作品が続いて演奏された。ここでは上野の軽やかな技巧が爆発した。オケもそれに巧みにつけて最良のバランスで盛り上げた。洒脱なミヨーをアクセントとしつつ上野の委託作品がメインだったように聞いたが、これもストーリーを持った30分の大曲。ジョン・ウィリアムスばりの聴きやすいメロディで感性をくすぐるところはあるのだが、オーケストレーションや常に壮大な方向に向かうという展開がいささか一面的で冗長さを感じてしまった。そして最後に置かれたブラームスはなかなか良い演奏であった。明快でキレが良いのだが味気なさはまったく感じない。冷静さを装いつつ心は燃えている。そんなブラームスだった。オケの統率も実に見事で奏者から最良の音楽を引き出していた。そんな風に表現するとそのキリリとした清廉な音楽はどこかカール・シューリヒトの音楽とダブルようにも感じられたのだが、これは刷り込みゆえのことだろう。新たな才能の発見に勝る喜びはない。