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まさおレポート

バリのトランスの先に輪廻観を見る

跳ねば跳ね 踊らば踊どる 春駒の 乗り(法)の満ち(道)をば 知る人ぞ知る

一遍

バリのサンヒャン・ドゥダリは二人の少女が踊るもので一種の幻覚状態を引き起こすとされる香(penudusan)をかぎながら、次第にトランスに陥り、歌にあわせて踊り始める。(ドゥダリは精霊を意味する)

バリでは至る所でトランスに接する。例えば日常に食するトウガラシ、バリではチリをドライバーのRは毎食に唐辛子10本を食べると言う。私は一本もたべられない。せいぜいチリ醤油にしてたらすくらいで、それで充分においしい。

しかし多くのインドネシア人は10本程度を平気で食べる。単に辛い物が伝統的に好きという事ではない。ドライバーRが唐辛子を食べると多幸感に襲われると説明してくれた。自らもカプサイシンオイルで経験し、またどこかで聞きかじったことはあったが実際にRからその効果について聞くのは初めてであり、なるほどそうかとおおいに納得できた。

かつてタイでカプサイシン入りのマッサージオイルを体に塗ったことがある。猛烈に刺激が強く痛いので驚いたが数分後には痛みが完全に引き、そのあと確かに体が軽くなり多幸感ともいうべきものを味わった経験がある。

唐辛子は単に食物を超えた存在なのだ。βエンドルフィンを放出するメカニズムが唐辛子の辛み成分カプサイシンにはある。カプサイシンが体に入るとカプサイシン受容体が火傷とおなじシグナルととらえ体がエマージェンシー信号を出す。このカプサイシンによるエマージェンシーは一時的なものである。わさびも似たように一時的だが唐辛子はやや長い。

火傷と異なり実際には体を損傷していないので身体に実害はなくすみやかにエマージェンシー信号は消えるが、体温の上昇や快感物質βエンドルフィンのみが残り多幸感をもたらす。この価格が上がるとインドネシア人は大騒ぎするのは単なる食べ物の域をこえた重要なものだからだ。

似たようなメカニズムを足裏マッサージでも経験する。足裏や足指の間に痛点がありそこをぐりぐりやられるともうやめてくれと言いたくなるほど痛いが、すぐに快感に変わる。これも同じように理解することができる。痛点はカプサイシン受容体と同じく実際には身体に危害はないのだが痛みを感じる点が足裏周辺にはあり、そこを刺激することでβエンドルフィンを出すのだろう。

われわれの体は騙しの痛点や受容体をもっている。じつに不思議で神秘なメカニズムだと思う。

カプサイシンによって体に異常を来したと感じた脳が、ついにはエンドルフィンまで分泌してしまうのである。

エンドルフィンは、脳内モルヒネとも呼ばれ、麻薬のモルヒネと同じような鎮痛作用があり、疲労や痛みを和らげる役割を果たしている。つまり、カプサイシンによる痛覚の刺激を受けた脳は、体が苦痛を感じて正常な状態にないと判断し、痛みを和らげるためにエンドルフィンを分泌するのである。そして結果的に私たちは陶酔感を得る。

さらに匂いだ。

サンヒャンの舞は祈祷師の儀式上の行為で、悪魔、病気、その他の悪影響から村を追い払うために用いられている。供物、祈る人々、線香の匂いと煙、歌と詠唱のなか、踊り子はトランスに入り神あるいは精霊(ドーダリ)が若い純潔な女性に入り込む。ガムランの旋律で踊る。

この線香の匂いはトランスに有効に働く。

痛みや火傷も同様にトランスへと働く。

ケチャダンスあるいは単にケチャ、ケチャックと呼ばれる。これは男だけの舞踏で大勢の男たちが胡坐をかいてすわり、チャ、チャ、チャという声を連続して発する。その声の中を男あるいは女のダンサーが踊る。周りは必ず男で必ず座位だ。
踊り手はチャ、チャ、チャの高音を含む極めてテンポの速い発声と舞踏で徐々に陶酔状態に入っていく。若者たちは皆、特殊な訓練を受けたものではなく、普通の農民でとりたてて真剣にやっているわけでもない。なかには隣同士でにやにや笑いあってふざけているものもいる。しかし全体として巧みにリードし会いプロデュースすることで完成度を増し、音楽脳、感性脳を最大限まで刺激し周りと自らを陶酔に高めていく。
陶酔が深くなってきたころ、ヤシガラに火をつけて床一面を火にする。ヤシガラは燃えてる。ふれればやけどは間違いのないところだ。その燃え盛るヤシガラのなかに男は飛び込み、裸足の足で踏みつけていく。踏みつぶして火の手が収まるころに男は失神する。僧がこの男を抱きかかえていく。これでダンスは終わりを迎える。
このダンスで驚くのは二つある。陶酔に入り熱さを感じなくなっているばかりか、やけどをしていないことだ。目の前で火の中に入り、直接燃えるヤシガラに触れているのに誠に不思議な現象だ。

あるいは火傷そのものがトランスへと導くのか。

もうひとつは言葉ともいえない音の発声だけで深い陶酔に入り、火の恐怖と痛みを克服している点だ。酒も麻薬も使っていない単にリズミカルな連続した発声だけでトランス状態になっていけるものなのだ。

ガムラン

高音域の効果
ガムランgamelanたたかれるものの意。インドネシアの器楽合奏音楽。木製、竹製、金属製の打楽器を用い、儀式、演劇、踊りの伴奏とする。青銅に金をまぜて鋳造することも多く、秘伝の配合によって絢爛たる響きや重厚でダイナミックな響きがうまれる。
平均律を採用して、可もなく不可もない等質な音階を作るよりも、多少歪んではいても個別的な偏りを好むという傾向がバリ人にはある。音階に限らず、法則やシステムを統一したり平均化するという方向性は、芸能というものにとって進歩ではないと彼らは考えているように思われる。


デジタル化できないニスカラの世界観をそのままガムランに表現したことをシュピースは肌で知っていたに違いない。
映画のリアリティとの類似性がすぐに思い浮かぶなら、静止画を使用して動きのモンタージュを作成する手法にシュピースが完全に精通していることを考えると、これは驚くに値しません。それでもシュピース自身は、二次元の表面に時間を描く問題に対する彼の最終的な解決策を説明するとき、西洋とガムランの両方の音楽との類似性を求めました Chytry 1989

ガムランは青銅楽器でバリの祭礼、ウバチャラにはバリ島特有の楽器の演奏と舞踏が伴う。
バリ・ガムランはテンポ、強弱の変化が激しく、ひとつの旋律を2人で分担して入れ子で演奏するコテカンと呼ばれるずらしを多用する。通常の倍のスピードで演奏でき速いパッセージをやすやすと弾け音楽脳を刺激し陶酔へと導く。
ガムランには楽譜がなく指揮者もいない。クンダンという太鼓からの合図が指揮棒の役割をする。

ガムランの演奏が止まり、人々はお祈りの準備に入った。境内は、お香の微かな匂いで包まれた。僧侶の鳴らす鈴の音が境内に響くと、人々は両手を額の前で合わせて、お祈りを始めた。南国の暑い陽射しの中ではあるが、お祈りの神聖な行為が暑さを静寂の隅に追いやった。人々は静かにお祈りを続ける。
数分後、それは何の前触れもなく始まった。お祈りの群衆の中から、静寂を切り裂く「ワーッ」という奇声がした。

ケチャ

バリにはレゴンと並ぶもう一つの舞踏がある。ケチャダンスあるいは単にケチャ、ケチャックと呼ばれる。これは男だけの舞踏で大勢の男たちが胡坐をかいてすわり、チャ、チャ、チャという声を連続して発する。その声の中を男あるいは女のダンサーが踊る。周りは必ず男で必ず座位だ。
踊り手はチャ、チャ、チャの高音を含む極めてテンポの速い発声と舞踏で徐々に陶酔状態に入っていく。若者たちは皆、特殊な訓練を受けたものではなく、普通の農民でとりたてて真剣にやっているわけでもない。なかには隣同士でにやにや笑いあってふざけているものもいる。しかし全体として巧みにリードし会いプロデュースすることで完成度を増し、音楽脳、感性脳を最大限まで刺激し周りと自らを陶酔に高めていく。
陶酔が深くなってきたころ、ヤシガラに火をつけて床一面を火にする。ヤシガラは燃えてる。ふれればやけどは間違いのないところだ。その燃え盛るヤシガラのなかに男は飛び込み、裸足の足で踏みつけていく。踏みつぶして火の手が収まるころに男は失神する。僧がこの男を抱きかかえていく。これでダンスは終わりを迎える。
このダンスで驚くのは二つある。陶酔に入り熱さを感じなくなっているばかりか、やけどをしていないことだ。目の前で火の中に入り、直接燃えるヤシガラに触れているのに誠に不思議な現象だ。もうひとつは言葉ともいえない音の発声だけで深い陶酔に入り、火の恐怖と痛みを克服している点だ。酒も麻薬も使っていない単にリズミカルな連続した発声だけでトランス状態になっていけるものなのだ。
酒も麻薬も外部からの薬物効果だが、このケチャは音声のみによるトランス効果だ。体をむしばむことのない方法の一つだろう。もうひとつは北アフリカやエジプトで見る旋回舞踏だろう。これは音声ではなく、ひたすらクルクルと旋回することによりトランス状態に入る。

冒頭に一遍の句を掲げたが、日本でも仏教で室町以来のトランス重視の伝統がある。さらにさかのぼれば卑弥呼がいる。日本ではトランスの宗教的意義はすたれたがなお阿波踊りや河内音頭にその名残を見ることができる。しかしバリでは歴史的なものになるどころか現役バリバリの宗教行為であり、その先に彼らはガベンに代表される輪廻転生観を具体的に持っている。

改めて宗教とは教義ではなく行為なのだと思い知らされる。

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