まさおレポート

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ザ・グレート・ギャツビーは緑の灯火(志とアメリカ紙幣)を求める物語 2

2021年06月04日 20時09分10秒 | 小説・映画・音楽・写真・動画

ザ・グレート・ギャツビーは緑の灯火(志とアメリカ紙幣)を求める物語 1

緑の灯火、このテーマは奥が深い、まだまだ書くことは一杯あるのにちがいないが、とりあえずほんの序章を書いてみた、先は長い。

と記した。以下はその続編です。


銀行業とクレジットと有価証券についての本をひと抱え買い込み、書棚に並べた。その赤と金色の背表紙は、鋳造されたばかりの新しい貨幣のようで、ミダス王やモルガンやマエケナスしか知らなかった光り輝く秘密を、もれなく解き明かしてくれるように見えた。 「グレート・ギャツビー」村上春樹訳p15 

ニックの上記の行動は資本主義と金へのあこがれの強さと輝きを語っている。緑の灯火はこのあこがれの強さと輝く対象の象徴と理解できる。

「彼女の声には何か無分別なものがあるね」と僕は指摘した。「あの声には」、そのあとの言葉を僕はためらった。 
「彼女の声にはぎっしり金かねが詰まっている」とギャツビーはあっさりと言った。まさにそのとおりだ。でも彼に言われるまでそのことに思い至らなかった。そう、そこには金が詰まっていた。p218

緑の灯火はデイジーの声にも重なる。「彼女の声にはぎっしり金かねが詰まっている」

その願いのあまりのつつましさに、僕は言葉を失ってしまった p147

緑の灯火はギャツビーの巨万の富とデイジーに重なる。そしてギャツビーの巨万の富はデイジーへ見せた邸宅に比べると金額では比較にならない。ではデイジーへの愛着はそれに比例するのかといえばそうではない。

ギャツビーは一山のシャツを手にとって、それを僕らの前にひとつひとつ投げていった。薄いリネンのシャツ、分厚いシルクのシャツ、細やかなフランネルのシャツ、きれい に畳まれていたそれらのシャツは、投げられるとほどけて、テーブルの上に色とりどりに乱れた。

僕らがその光景に見とれていると、彼は更にたくさんのシャツを放出し、その 柔らかく豊かな堆積は、どんどん高さを増していった。縞のシャツ、渦巻き模様のシャ ツ、格子柄のシャツ。珊瑚色の、アップル・グリーンの、ラヴェンダーの、淡いオレンジのシャツ。どれにもインディアン・ブルーのモノグラムがついている。p171

緑の灯火で象徴する富の輝きをビジュアルに見せるシーンだ。映画でも見せ場になっている。

「ロング・アイランドのウェスト・エッグ在住のジェイ・ギャツビーは、彼自身のプラトン的純粋観念の中から生まれ出た像 なのだ」p181

緑の灯火もプラトン的純粋観念の中から生まれ出た。

巨大な橋を渡るとき、梁を抜ける太陽の光が、進んでいく車の上にちかちかと絶え間なく光った。そして河の向こう側に、純白の大きな山となり、砂糖の塊となって、 都市にぽっかりと浮かび上がる。

嗅覚を持たぬ金の生み出す願望によって築き上げられたものがそこにある。クイーンズボロ橋から街を俯瞰するとき、それは常に初見の光景として、世界のすべての神秘とすべての美しさを請け合ってくれる息を呑むよう な最初の約束として、僕らの目に映じるのだ。p128

緑の灯火をクイーンズボロ橋からみた街に投影している。

「霧さえ出ていなければ、湾の向かいにあなたのうちが見えるんだが」とギャツビーが言った。

「お宅の桟橋の先端には、いつも夜通し緑色の明かりがついているね」 
デイジーはふいに、彼の腕に自分の腕をからめた。しかしギャツビーは、自分が口 にした言葉に深く囚われているようだった。その灯火の持っていた壮大な意味合いが、今ではあとかたもなく消滅したことに、自分でもおそらく思い当たったのだろ う。

デイジーと彼を隔てていた大きな距離に比べれば、その灯火は彼女のすぐ間近に 彼女に触れるくらい間近にあるものとして見えた。月に対する星ほどに近い ものに思えたのだ。しかし今ではもう桟橋の先端についた、何の変哲もない緑色の灯火に戻っていた。彼が魅了されていた事物が、またひとつ数を減らしたわけだ。p172

象徴だった緑の灯火もデイジーが手に入ると思ったとたんに魅了されていた事物リストから外される。

「彼女にあまり多くを要求しない方がいいんじゃないかな」と僕は思い切っ て言ってみた。「過去を再現することなんてできないんだから」 
「過去を再現できないって!」、いったい何を言うんだという風に彼は叫んだ。「すべてを昔のままに戻してみせるさ」と彼は言い、決意を込めて頷いた。p202

プラトン的純粋観念の持ち主であるギャツビーはすべてを昔のままに戻してみせるという信念を持っている。

「ちょっとのあいだくらい、あの男を愛したこともあったかもしれない。結婚した当座はね。でもその頃だって、あいつなんかより私の方をより愛していたことは確かだ。そうとも」

そして、こう言う。「ともあれ、それはただの私事にすぎない」

プラトン的純粋観念のゆえにそれ以外は「ただの私事」にすぎなくなる。

貧農の生まれであるギャツビーが経歴を詐称して手段を選らばずに巨万の富を得ることはプラトン的純粋観念のゆえに何ら問題にならない。目的が純粋だから許される、そんな神がかりな信念が見えてくる。ここでもカラマゾフの兄弟のイワンが顔を見せる。(賢い人は何をしても許される)

彼は緑の灯火に導かれて手段を選らばずに巨万の富を得る。この成功は強固な信念のゆえだろう。しかしその信念のために最後はデイジーにも裏切られて、トムの愛人で飛び出して死んだマートルの夫に撃たれて死ぬ。

信念は世間とのずれを乗り越えて目的をかなえる突破力を持つ。一方では世間とのずれが蓄積して破滅をももたらすリスクをも併せ持つ。作者スコット・フィッツジェラルドがこの作品で言いたかったことではなかろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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