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まさおレポート

樹木の声を聞く 

「聖なる木の囁き」(フィクションです)

バリ島のとある小さな村には、古くから「聖なる木」として知られる一本の大木があった。この木は村の入り口にそびえ立ち、太くねじれた根が大地をしっかりと捉えている。幹には白黒のボレンが巻かれ、村人たちはこの木に宿るとされる霊を深く敬っていた。

この木には一つの伝説がある。かつて村を襲った洪水の際、木の根がまるで村を抱きしめるかのように隆起し、村人たちを守ったという。それ以来、木は村の守護神とされ、村人たちは日々、木の前で祈りを捧げ、花や果物を供えるようになった。木に巻かれたボレンは、善と悪、光と闇の象徴であり、木の神聖さを示すためのものだ。

ある日、都会から訪れた若い旅人がこの村を訪れた。都会の喧騒から離れたくてバリ島を訪れた彼は、村人たちの優しさに触れ、この木の話に興味を持った。旅人は親しくなった宿の主人に導かれ、木の前で耳を澄ませた。さらに木を抱き抱えて耳を木につけて声を聞こうとした。

静かな瞬間、彼の心にそっと響く声があった。「ここに留まり、自分自身を見つめ直しなさい。」その声は穏やかでありながら、確かな存在感を持っていた。そしてあたりを見回したがバリの人々に何事も聞こえなかったようだ。気のせいか、いやそうではない確かに聞こえた。

旅人はその言葉を受け止め、自分が何を本当に求めているのかを考えるようになった。

数日間、彼は村に滞在し、自然と共に暮らす村人たちの姿に心を開いていった。都会で追い求めていたものが、実は自分にとって最も大切なものではないことに気づいた彼は、「シンプルな生活」と「心の静けさ」を手に入れたいと思うようになった。

村を去る日、旅人は木の前で静かに頭を下げた。「ありがとう。」その一言を残し、彼は日本へと帰っていった。

都会に戻った彼は、以前と同じ仕事や日常に戻りながらも、心のどこかで何かが変わっていることに気づいた。忙しい日々の中でも、彼は意識的に立ち止まり、心を整える時間を持つようになった。都会の生活に溶け込みながらも、時折自然の中で過ごし、心の静けさを取り戻すことを忘れなかった。

そして、彼は毎日少しの時間を使って、自分自身に問いかけるようになった。「今日も心が穏やかでいられるだろうか?」その問いかけが、彼にとって新しい生活の指針となった。

村の聖なる木とボレンは、遠く離れた都会でも、彼の心の中で優しく揺れ続けていた。そして彼は、静かに微笑みながら、日々を過ごしていくのであった。いつかバリ島にもう一度訪れる日を楽しみにして。

 

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