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「釜石の奇跡」を生んだ、主体的に生きる力

2012年01月20日 | 「学び」を考える

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 片田敏孝著『みんなを守るいのちの授業―大つなみと釜石の子どもたち』(NHK出版)125日に発行される。

みんなを守るいのちの授業―大つなみと釜石の子どもたち ( )
片田敏孝著
NHK出版

311日、釜石市の小中学生約3000人のうち津波の犠牲になったのは5名だった。釜石市全体では1300人が亡くなっていて、近隣の町でも多くの子どもたちが犠牲になっていることなどを考え合わせると驚異的な生存率だ。釜石小学校では184人の児童全員がすでに下校していたが、一人の犠牲も出なかった。それどころか、子どもたちは幼い兄弟や老人を助け、近所の大人たちに避難を呼びかけて、多くの命を救った。釜石市は、片田敏孝さん(群馬大学大学院教授)の指導のもと、8年前から津波防災教育を行っていた。この本は、釜石の子どもたちが学んできた、この授業と震災当日の行動を同世代の子どもたちに伝えるために書かれているという。 

これまでにマスコミやブログなどで紹介されているところでは、この授業は、避難の3原則を基本にして、子どもたちが自然と向き合って主体的に自らの命を守る姿勢を身につけることをめざしている。

この3原則について片田さんがは月刊『致知』2011年8月号「釜石の奇跡は、かくて起こった」を寄稿されていて、その一部が下記のブログに転載されている。
「防災のプロが説いた“避難三原則”」 片田敏孝(群馬大学大学院教授)

ここでは、その核心部分を、あえて孫引きさせていただく。(『致知』のバックナンバーの入手については出版社の公式サイトを参照されたい)

(以下引用)
・想定にとらわれるな(ハザードマップを信じるな)

「ハザードマップはあくまで想定にしかすぎない。 相手は自然なのだから、どんな想定外のことも起こり得る。先生が大丈夫と言ったから安全だ、といった 受け身の姿勢でいては絶対にダメだ」と伝えた。

・その状況下において最善を尽くせ

・率先避難者たれ

もし“その時”がきたら、他人を救うよりも、まず自分の命を守り抜くことに専心せよ、という意味である。

・・・

ただし、この三原則で述べられていることは多くの子供たちにとって受け入れ難いものでもある。それまで先生の言うことや教科書に書かれてあることは正しいと教えられてきたのに、資料を配られて、いきなり「この地図を信じるな」と言われる。混乱を招いてしまうかもしれないが、想定にしかすぎない資料を見て安易にそれを鵜呑みにしてしまう人間の弱さに気づかせ、災害に向かい合う姿勢というものを持たせるのである。「率先避難者たれ」も、それまで教わってきた倫理観からすると大きく逸脱しているかもしれない。自分だけが助かればよいのかという捉え方になってしまいがちだからだ。

・・・

「人間はいざという時に、逃げるという決断がなかなかできないものだ。例えば、非常ベルが鳴った時に逃げ出す先生を見たことがあるか。ベルの意味合いは分かっていても、『ええ、本当に?』と、誰もその情報をすぐには受け入れようとはしない。皆が疑心暗鬼になってはいるが、いまがその時だとは思えずに、周りをキョロキョロ見ている。“初着情報の無視”とも言うべきこの人間の習性を打ち砕くには、同じことを意味する二つ目の情報を与えなくてはいけない。だから君が逃げるんだ。・・・君自身が逃げるという決断をすることで皆を救うことができるんだ」そして、逃げるという行為がいかに知的で、自分を律した行動であるかを言って聞かせるのである。このように、彼らには地震や津波の“知識”を与えたわけではなく、防災へ向かい合う“姿勢”を与える教育を行ってきた。

 (引用終了)

 

117日に放送されたNHKクローズアップ現代「子どもが語る大震災(2)ぼくらは大津波を生きた」では、311日の釜石小学校の子どもたちの行動を検証しながら「危機を乗り越える主体性」「想定にとらわれない判断力」に焦点を当てていた。番組に出演された片田先生は、言い伝えられている「津波てんでんこ」とは、自分だけが助かればよいということではなくて「自分の命は自分で守るという家族内の信頼関係」のことであること、「主体的な姿勢があってこそ、知識が有効に作用する」ことなどを指摘しておられた。

防災教育にかぎらず、生きる力を育む教育そのものの在り方を問い直すヒントを片田先生の実践に読み取ることができる。

3.11が教えてくれた防災の本〈1〉地震
片田敏孝
かもがわ出版

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