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災害に学ぶ「生きる力」:『人はなぜ逃げおくれるのか』

2011年05月04日 | 「学び」を考える

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災害が起こったとき、どうすれば被害を最小限に食い止められるのか? 311日の東日本大震災では、過去の津波を教訓にして住居や避難所を高台に移していた地域が、大きな被害を免れたという。防波堤の整備状況によっても被害の大きさは違っていた。その一方で、人為が被害を増幅する場合もある。福島第一原発の事故の場合は、自然災害に加えて放射能汚染という二重の被害を受けている。日頃の備えばかりでなく、危険に直面したときの一瞬の状況判断と行動が明暗を分けることもある。今後の防災のために、私たちは3.11も含めた過去の災害から何を学ぶべきか? そんな問題意識をもって、広瀬弘忠著『人はなぜ逃げおくれるのかー災害の心理学』(集英社新書、2004を読んだ。

人はなぜ逃げおくれるのか ―災害の心理学 (集英社新書)
クリエーター情報なし
集英社

読み始めてすぐに、これまで漠然と抱いていた観念がくつがえされる。災害時に人が逃げおくれるのは、パニックにおちいるからではなくて、「たいしたことない」と思う「正常性バイアス」がはたらいて、身を守る行動が素早くとれないからだというのだ。「現代人は安全に慣れてしまった結果、知らず知らずのうちに危険に対して鈍感になり、予期せぬ事態に対処できなくなっている(「BOOK」データベースより)。とりわけ、現代のようにバーチャルな世界に取り囲まれて生活していると、目の前の現実をリアルに感じ取れなくなっているかもしれない。では、どうすればいいか。

まず、「正しく災害リスクを知ることが、正しく災害に立ち向かうための必要条件である」(p.126)。そのためには、ハザードマップをつくるなどして、起こりうる災害の情報を日頃から地域で共有し、より安全な暮らし方を選んでおく必要があるだろう。原子力発電の場合、はたして、そのようなことが十分に行われていただろうか? 福島第一原発の事故が起こったあと、東電や政府、そしてテレビに登場する多くの専門家は、本書の主張とは反対に、「パニックを避けるために」リスクを過小評価し、「大丈夫」「安全」と伝え続けてきた。

実際に災害や危機に直面したときは、事態の危険度を瞬時に見究めて行動することが必要である。「危険が小さい場合には、何もしないで様子見をしていたほうが、あわてて何か大それたことをするよりも安全な場合がある。」そして、深刻な事態の場合には、「タイミングを十分にはかった果断な行動によって、低い生存確率を高めなければならない。そこで重要なのは、事態の危険性を客観的に評価するための知性と、危険度の評価から導かれた結論を、果断に実行するための勇気である。」(p.168)

危険性を評価する知性をもつには、日頃から危機に対する感受性を高め、自分が置かれている状況を客観的に見つめる目を養っておくことが必要であろう。原発事故やパンデミックのように危機を直接的に体感できない場合には、モニタリング・ツールやさまざまなメディアによってもたらされる二次的情報を手がかりにして、今、何が起こっているかを推測しなくてはならない。政府や専門家やメディアが提供する情報を無批判に信じるのではなく、私たち一人ひとりが情報収集力と情報評価力を高め、より信頼できる情報や情報源を求めて、最悪の事態を避ける行動を選び取らなくてはならないだろう。いずれにしても、緊急時にあっては、一人ひとりが自分の判断で行動することが大切なのだ。

危機的状況にあって的確な行動をとるには、何よりも生きる意欲がなくてはならない。生存への意欲を高めるのは、「強烈な役割意識や義務感、そして激しい愛情など」であり、「生きたいという希望と生きなければならないという信念は、生理的に免疫力を活性化し、致命的な状況のなかで、生命の灯をかきたて、生き残る力を与える働きがある」(p.169)という。

だが、311日、目の前に津波が押し寄せるなか、南三陸町の役場にとどまって防災無線で住民に避難を呼びかけ続けた遠藤未希さんは、強い役割意識と義務感、そして地元の人々に対する愛情と責任感によって、自らの退路を断ち、尊い犠牲となった。

これからの防災教育は、「情報評価力」と「タイムリーな意思決定と行動力」を育て「生存への意欲」を高めることはもちろん、私たち一人ひとりが生命について考え、自らの「生き方」そのものを問い直す機会とする必要があるだろう。

本書には過去の災害における事例が豊富に紹介されていて、そのために大いに参考になるだろう。

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