mardidupin

記憶の欠片あるいは幻影の中の真実。

《あの石段》

2014-05-25 04:54:47 | 〈紅緋色の部屋〉
  妖精たちは涙のなかに夢みつつ

  花たちは静けさの中霞んでいく

  限りなく低く細く響きわたる旋律

  白い涙の雫が滑っていく

  花冠の純白のうえを。

それは
  初めての貴女との喜幸なくちづけの瞬間



こんな幻夢が自分を苦しめる
哀しみの光りで立てないほどに酔いつぶれていた
後悔はなかったが
失望の渦の中にいた


摘み取った花は
茶色に枯れようと摘んだ者にあり

摘み取った夢は
摘んだ者の心に残る

私は
その夢の中を彷徨った
眼は
古い石段を見つめていた


そのとき
髪に光りを浴びた貴女が現れた
  この街角に
この黄昏の中
  笑いながら…


私は確かに見た
  あの妖精を

少女の頃
  優しい眠りの中で貴女を取り巻いていた妖精だった
いつも真白な花束から
  その花びらを雪のように降らせながら



貴女の声が聴こえた。

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