建築弁護士・豆蔵つれづれ

一級建築士・弁護士・豆蔵自身の3つの目線で、近頃の建物まわりネタを語ります。

山崎、夏の建築まつり。

2017年07月18日 | 見たもの雑感

建築弁護士の豆蔵です。

「山崎」は、京都府と大阪府の境目にある、天下分け目の「天王山」のふもとの町です。現在の住所としては、京都府になります。
サントリーの山崎醸造所、安藤忠雄が増築を手掛けた大山崎山荘美術館(こちらはアサヒビール所有)で有名ですが、
古くから淀川の水運の要所、灯明に用いるエゴマ油の生産地として栄えていた町だというのは、今回、妙喜庵の和尚さんから教えていただいた話です。

余談ですが、かつて、サントリーのCMを見て、山崎醸造所がものすごい山奥(秘境)であると思い込んでいたところ、後にJRの駅前で発見し、非常に衝撃を受けました。
ただ、鉄道の開通の方が、工場の場所決めより後なんですね(朝ドラの「マッサン」に出てきました)。
1500年頃から続く妙喜庵などは、駅前にお寺があるのではなく、お寺の庭先に近代になって鉄道が通った、というのが正しいようです。

さて、今回、山崎で訪問したのは、利休さんの残した唯一の現存と言われる国宝の茶室「待庵」と、
日本初の環境共生・実験住宅シリーズの集大成、昭和3年築、藤井厚二作の自邸「聴竹居」です。

その1 待庵(妙喜庵)

秀吉が明智光秀を討つ天王山の合戦の際に、千利休が秀吉を慰労する為に作ったといわれる茶室です。
元々、建っていた場所ではないそうですが、一度、解体されて、江戸初期に現在の妙喜庵に再築されたとのこと。
屋内での映画のセットや実物大模型は体験したことがありますが、実物は初めてです。

 ←間取り図・拝観案内より引用(クリックして拡大)。

茶室は2畳、軒は低く、客は「にじり口」から出入りする等、茶室のイメージの典型例ともいえますが、それは我々が、利休が創った「茶」しか知らないからです。
当時は、さぞ、革新的(非常識)だったかと。
中の土壁は、粗く墨のような色をしています。その上、黒一色の「樂」茶碗が用いられたかもしれません。
小さな窓から差し込む外光、周囲の木々や抹茶の色との、強い対比がうかがえます。
また、入隅を丸くしたディテールや天井の組み合わせ、床や棚のしつらいなど、建築的にも美しく、楽しい。

凡人の豆蔵でも、先人たちの評を頼りに、そこに「宇宙」の広がりを想像することができました。

見学には、1か月以上前に「往復はがき」で申し込む必要がありますが、静かに、丁寧な説明を伺いながら、色々な発見を楽しむことができます。


その2 聴竹居(藤井厚二自邸)

こちらは、山崎の小高い山の中腹に位置し、周りを紅葉などの木々に囲まれた、昭和初期の住宅です。

アールデコ調デザインの面白さを期待して行ったところ、この住宅の価値はそれだけではない!
環境共生住宅の原点であり、風を通し夏を涼しく過ごすための、数々の仕掛けがあるというのです。

 ←入口部分。左手に庭、眼下に淀川の景観が広がっています。

ちなみに、見学時の京都市内の気温は、35℃。
邸内には20人ほどの見学者がいましたが、風が抜けて、ひんやりと気持ちいい。

とても面白かったのは、住宅の近代化を目指した京大教授・藤井厚二の数々の実験の話。
山崎の山を一つ買占め、沢山の住宅を設計し、造らせ、自らも何棟も造っては住み替え、最後の集大成が聴竹居。
斜面の中腹から地中管で床下に空気を送り込み、天井裏には開閉可能な通気口を設けるなど、究極のエコ住宅と思いきや、
オール電化で巨大なコンプレッサーを備えた電気冷蔵庫や電気鍋、4か所給湯の電気ボイラーを装備し、電気代が月に20万(現在に換算)。

すっかり凝り性・頑固な建築家というイメージになってしまいました。

もちろん、家具や照明のデザイン、材料の選び方、ディテールも徹底しています。
大工と材料(を吟味する目)がよいので、90年経った今でも、建具や家具・照明に至るまで、全く「狂い」が生じていないらしい。
驚くべきことです。

藤井厚二が竹中工務店のOBとのことで、昨年から竹中工務店が所有していますが、ガイドをしてくれたのは、近隣のボランティアガイドの方々。
非常に分かりやすく、面白い説明でした(お屋敷町ですから、皆さんのご自宅もすごいです)。

こちらの見学も、予約制です。ネットで予約ができますが、曜日に限りがあり、早めに予約した方がよさそうです。

今回の日程は、三連休かつ祇園祭と重なっており、かなり早い時期からの事前予約が必要でした。
醸造所見学やランチまでの一連を手配してくれた友人に感謝です。

さて、今回の建築まつりの番外編には、サントリー山崎醸造所と、山崎ではありませんが「京都迎賓館」があります。
長くなりましたので、次の機会に。


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