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読書録

2006-10-31 | ●Reading ・・

カポーティの『冷血』を少し前に読み終え、今の通勤のお供は
サン=テグジュペリの『人間の土地』。

『人間の土地』は何年か前に一読したけど、そのときには
「これが男の浪漫てやつ?」
なんて偏見を持ちながら読んだため、内容をあまり読解できなかった。

ここにきて、「男の浪漫」てやつに、少しでも触れてみたい。
そんな好奇心が芽生えつつ。
それに、もしかしたら「男の浪漫」的な作品と決め付けてるけど
そもそも、そうじゃないのかも。
というワケで再読中。


―『冷血』を読み終えて。

今から50年ほど前に、実際に起きた一家4人惨殺事件。
著者カポーティは5年余りもの歳月を、この取材に費やしたという。

その綿密な取材によって、登場人物すべてに、性格や感情が宿り
殺されてしまった一家でさえも、まるで、蘇って息をしているかのよう。

けれども、本に蘇った幸せで平和なその一家は
本の中でふたたび惨殺される。

犯人は、窃盗の目的で侵入した男2人。
「自分達の問題」で、何の罪もない一家を至近距離から散弾銃で射殺。
犯行の動機の軽薄さ。自己中心的で、全く罪悪感を感じていないさま。

特に犯人の一人である、ペリー・スミスの、感情の欠落。
幼少期の複雑で過酷な環境、家族への愛憎。優劣の執着。
強いコンプレックス。それらからなる、複雑な性格。
至近距離から散弾銃で顔を打ち飛ばし、惨殺した一家は
「自分の人生の尻拭いをする運命にあった」と言ってのける冷酷さ。

犯人の処刑に立会ったカポーティ。
この作品を完成させる、そのために、2人を殺したとも言われている。
(取材で親しくなったペリーに、絞首刑を延期するため、弁護士を
 紹介してほしいという願いを断ったとの事)

犯人、そして著者カポーティに見る、『冷血』。

相反する、様々なかたちの愛情の温かさ。

犯人の処刑が終わり、物語も終わる。
あとに残る、虚しさ。
そんな中で、若者にみた輝きと希望。

それぞれのコントラストが、余韻となってしばらく残った。
表現の難しい感情とともに。