波士敦謾録

岩倉使節団ヨリ百三十余年ヲ経テ

波士敦,それとも波士頓?

2005-04-28 16:58:10 | 江戸
 明治4(1871)年から同6(1873)年にかけて欧米を歴訪した岩倉使節団の記録である米欧回覧実記では,米国のBostonの漢字訳を「波士敦」としている.現在米国で発行されている支那語新聞等での漢字訳は「波士頓」を使っている.喜劇俳優の故 益田喜頓氏を覚えている世代の日本人にとっては,後者の方が馴染み易いかもしれない.米野球のファンには,毎年アメリカン・リーグ東地区のペナント・レースで常勝NYヤンキーズの後塵を拝してきたレッド・ソックスの本拠地として知られているに違いない.ベイブ・ルースを新興NYヤンキースに放出して以来,90年近くワールド・シリーズで優勝出来なかったレッド・ソックスも昨秋このジンクスを遂に破り,昨年まで贔屓チームの不甲斐無さを酒の肴や日々の会話の枕詞に頻用していた自虐的かつ熱狂的地元レッド・ソックス・ファンも今年は何か自信を持ってレッド・ソックスの帽子やジャケットを着用しているような印象を街角で受ける.
 この自虐的かつ熱狂的なファンという点では,数十年に一度という頻度でしか日本シリーズで優勝できない日本の阪神タイガースに通じるものがある.漫画家西原理恵子の『できるかな』シリーズの中で面白可笑しく描かれている大阪は梅田出身の阪神タイガース・ファンの新保信長氏(同シリーズの編集者)のようなファンが波士敦には沢山いて全米にその名を轟かせているのだ.後から来た者に先を越されてしまったという非対称的に屈折した精神風景が,大阪対東京,波士敦対新約克(上記の実記中でのNew York漢字訳,現在の一般的な漢字訳は「紐約」)の間に平行して存在しているように思われてならない.抜き去った者は抜かれた者を歯牙にも掛けていないのだが,抜かれた者は分を弁えず,在りし日の事を思い出しては,ごまめの歯軋りを繰り返している.「週刊アカシックレコード」の或る号で,この非対称的屈折感情の分析枠組みを日韓関係に適用していたが,正鵠を射たものだった事を今でも覚えている.