波士敦謾録

岩倉使節団ヨリ百三十余年ヲ経テ

外国系団体による米国報道媒体界の調略 Washington Timesの例 其の1

2005-07-05 03:25:49 | メディア

 米国首都Washington,D.C.近辺が主な購読者領域になっている主要日刊紙が2つある.老舗にあたるWashington Postは,経済欄はNY Timesと比較して明らかに見劣りするが,首都の官界情報欄の充実ぶりはNYTと雲泥の差がある.米報道機関全体から判断すると,WPは左右混合という無難な路線を選択していると言える.共和党は右で保守,民主党は左で革新,という構図が米報道機関の判別法に役立たないのは,それなりの購読者規模を持つ日刊紙の場合,特定政党の御用新聞に成り下がると広範な購読者及び広告主獲得に支障をきたすので,殆どの新聞が左右双方の記者や専欄作家(columnist)を揃えて玉虫色の紙面を構成し何らかの均衡を取るというのが,編集方針の王道となっているためだ.
 このような玉虫色的紙面構成の王道に対し,富裕な広告主の多数獲得や親団体の強力な資金力を背景に特定の政治的立場に立脚して旗幟鮮明な紙面構成方針を貫徹した日刊紙も少なからず存在する(資金面等の制約で,保守系紙に限られる).其のうち一番有名であろうと思われるのが,首都圏のもう一つの主要日刊紙Washington Timesである.何を隠そうWT紙の社主は,日本で霊感商法や信者洗脳等で悪名高い文鮮明の統一教会であり,紙面構成は共和党の御用新聞という趣になっている.
 WPやNYTのような玉虫色的編集方針の主流報道機関は,大抵報道内容と事実の乖離に対し最大限の注意を払い,もし乖離すれば謝罪訂正する,というのが原則となっている.一方,WTのような宣伝系の新聞の場合,宣伝記事で読者を意図した方向に説得することに新聞発行の本義があるので,資金提供者に危害を与えない限り,記事や論説の内容が事実と乖離していても全く問題ない,恥じるところが無いということになる.
 問題は,非宣伝系紙に誤報があった場合,宣伝系紙は声高に報道機関に有るまじき行為という趣で激しく攻撃するが,其の逆の場合,宣伝系紙の報道内容が事実に反していても,非宣伝系紙は,元々の存在意義が「特定の立場からの宣伝」である以上,あれこれ批判しても無駄という感じで,余程の事が無い限り,相手にせず無視で終わる.このような非対称性を把握できない情報の受け手達は,保守系の十八番の調略囃子である"liberal Media"の連呼を無批判に受容することになる.
 例えば,最近起きた米週刊雑誌Newsweekの記事に対する共和党政権御用達系報道媒体による「誤報」攻撃も,注意深く過去の報道を辿れば,問題になった記事で言及されていた事件は従来複数情報源によって報道されていたもので,今更否定するようなものではなかった.このような共和党政権御用達系の「誤報」批判の誤りを指摘する後続報道が多数なされたが,当該「誤報」批判側が誤りを認めて訂正・撤回するようなこともなく,従前の通り,何時のまにか報道機関の関心は別の話題へと移っていった.結局,この一件が一般的読者の脳裏に残したことと言えば,Newsweek誌は"liberal Media"の一つ,という誤認でしかないだろう.
 最近ある米月刊誌にWTの社主とみなせる統一教会の教祖文鮮明と北朝鮮の金正日との密着関係を報じた記事が掲載された.当該記事の内容については次回で触れたい.

註:米報道媒体の報道姿勢の問題を日々指摘している網站として以下のものは必見:
The Daily Howler
http://www.dailyhowler.com/

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