波士敦謾録

岩倉使節団ヨリ百三十余年ヲ経テ

外国系団体による米国報道媒体界の調略 Washington Timesの例 其の2

2005-07-06 03:05:13 | メディア

 時間的制約の関係で前回触れた雑誌記事については,次回に触れることにして,何故WTを取り上げることにしたか,について述べてみたい.当網誌の「めざまし艸 図書篇」に載せている佐々木隆氏の『日本の近代 14 メディアと権力』を読まれると分かるのだが,新聞発行を実業として成功させるためには,何はともあれ潤沢な資金力に勝るものは無い.明治時代に発刊した新聞の多くが購読料金と広告では維持できず,新聞によっては政府の機密費という資金注入によって成り立っていたものもあった.このような厳しい商売を住み慣れた自国でなく他国で展開しようとするならば,潤沢な資金力は言うまでも無く,新聞の廃刊ないし売却という選択はない,という不退転の意志が不可欠と想像される.統一教会のWT発行という事業については,この2条件が満たされているに違いない.WTの唱道する共和党政権擁護路線に共感する個人経営者による広告の入稿も十分あると思われるが,統一教会の持ち出し状態になっていても,常に「声を上げる」事の重要性を理解している彼等のことであるから,赤字補填の覚悟で新聞発刊を続けるだろう.米国でも洗脳等で社会問題を起こして批判を受け,基督教界の主流からは海外からの邪教集団と見做されながら,宗教団体持ち前の組織力と継続性によって,米国の保守系政治家・団体に食い込み,今では主要保守系媒体として米国政界にWTの名を轟かすまでになったことについては,彼等の実行力を認めざるを得ない.
 これと比較して,日本の対米報道媒体に対する働きかけはどうであったか.世界第二の経済と胸を張るだけの経済力を持ちながら,その資金を有効に使ってきたのであろうか.北東亜細亜3カ国から最近繰り出されてきた情報調略や,米国内,特に加州における反日的諸活動の出来について,日本政府の対米ないし対外情報戦略が盛んに問われている.金はあるが,不作為で結構,そのうち何とかなるさ的な慢心が今日のような状況の出来を許したのではないか.統一教会のようなやり方は日本は真似出来ないという弱音が聞こえてきそうだが,何故諦めてしまうのか,少なくとも何らかの試行も挑まずに.国民党の戦前における米国での政治家向け調略は,日本からすれば,下品極まりない遣り口だったかもしれないが,彼等は少なくとも米国の政治家を反日に向かわせることに成功したのではなかったか.数年前,米連邦捜査局の幹部職員が中共の間諜の色仕掛けに遭い機密漏洩で逮捕されるという事件があった.日本の政治家でも中共に行き色仕掛けに遭い,以後中共の言いなりになっているのではないか,という人物がいる.背後の経緯はどうあれ,女性が自分の体を武器にしてまでの国家への挺身ぶりには脱帽するしかない.色仕掛けも厭わぬ相手に対して,日本の座して相手の変心を待つというような他力本願的対処法では,いざという時に米国の世論を日本側に引き寄せることは無理なのだ.
 今日の多く区の日本人に欠けているもの,それは幕末から明治末年にかけての帝国主義真っ盛りの時代に,外交上の無知で欧米に屈服し,何とか独立国としての地位を回復するために粉骨砕身努力した,あの直向さではないか.亡国もあり得るという厳しい国際情勢の中で,欧米の属国になることを拒み,独立国として生きぬこうとした逞しい意志が,今の日本には欠落しているのではなか.それは国という段階だけでなく,現在多数の自殺者が出ているのも,個人の段階でも,生き抜くことに価値を見出せなくなった,自分という人間をこの世に送り出してくれた御先祖様との文化等まで含めた紐帯を見失い,次の世代に命や文化を渡さんとして生き抜くという継続の意志を忘失した我儘的状況が同様に出来しているのではないか.


註:本文で触れた米FBIの防諜職員に対する中共の色仕掛け攻勢については,米公共放送局PBSの老舗報道番組Frontlineが昨年1月"From China with Love"という番組を放映している.当該番組は以下の網站で視聴可能:

http://www.pbs.org/wgbh/pages/frontline/shows/spy/

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