Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

父親たちの星条旗

2006-10-29 | 外国映画(た行)
★★★★★  2006年/アメリカ 監督/クリント・イーストウッド
<梅田ブルク7にて>


「あまりの完成度の高さに呆然」


見終わった後、ため息が漏れた。この作品に何の不満もない。あそこがこうだったら、とか、あれはないんじゃないの、なんてツッコンだり、そういうことが一切ない。本当に全く隙のない作品だった。そう、まるで伝統工芸の職人が作り上げた逸品のような趣きである。

私個人的には戦争映画というジャンルが非常に苦手だ。そこには、戦争はいけないというメッセージしか浮かび上がらないし、お涙ちょうだい的な演出や偽善的なヒューマニズムの香りをどうしてもかぎ取ってしまう。しかし、この作品をそのような観点で論ずること自体、恥ずかしい。それほど、すばらしい作品である。

硫黄島の擂鉢山に星条旗を掲げた兵士たちは、母国で英雄となった。しかし、戦場の恐ろしさ、悲惨さとは全く無縁の政治家や実業家たちにどんな言葉をかけられようと、彼らは虚しいだけだ。国債を売るために傷ついた彼らを徹底的に利用しようとする政府のエゴイズムをクリントは声高に叫ばず、徹底的に兵士の苦悩を通じて描いている。だから、我々は感情的に戦争を否定するのではなく、その虚しさ、つらさを心の内側から揺すぶられるのだ。

クリント・イーストウッドの作品には常に「静かで力強い視点」がある。今作でもそれは変わりない。誰もむやみに泣き叫んだり、大声で訴えたりはしない。なのに、これほど大きな訴えかけができるなんて、本当に驚くべきことだ。アメリカはあの時、彼らを利用して国債を売った。体も心も疲れ果てた兵士をツアーなるものに駆り出して、国債を売らせた。それがどんなに馬鹿げた行為で間違ったことであったかをクリントは告発している。その勇気とゆるぎない意志は、ストレートに見る者の心を打つ。

硫黄島での戦場シーン。爆発、そして絶え間ない銃撃。だが、今まで見た戦争映画とは明らかに違う。リアルだとか、そんなことではない。私はなぜこの映画の戦場シーンがこれほどまでに訴えかけるのか、未だに自分でもわからないでいる。そこに「嘘」を感じない。「偽善」を感じない。一体なぜなのだろう。暗めのコントラストが効いた、粒状感のある画面。無惨な死体。兵士たちの会話。全てのものが完璧に融合しているからだろうか。

脚本は「クラッシュ」のポール・ハギス。ほんと、毎回すごい脚本を書きますね。中盤からもう胸がいっぱいだったんだけど、ネイティブ・アメリカンである兵士アイラがヒッチハイクでハワードの両親に真実を告げに向かうところで、もういろんなものが心の中から滝のようにあふれてきた。

さて「硫黄島からの手紙」が本当に待ち遠しい。というか、「お願いだから見せてくれ」という心境ですらある。本当にクリント・イーストウッドはすごい。齢75を過ぎてもなお、これほどのクオリティの作品を作ることができるそのエネルギーと才能に驚嘆するばかりだ。そうそう、音楽まで自分でやっている。これがまたすばらしい。


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