怖いエアコン内部のかび
日経プラス1に掲載されていた記事です。
東京都内のマンションで一人暮らしの二十代ワーキングウーマンのAさん。蒸し暑い日が続き、エアコンを利用し始めた頃から咳が出るようになった。梅雨時の風邪かなと思って風邪薬を飲んだが効果がなく、やがて呼吸時にひゅーひゅーという音がして息苦しくなった。驚いて病院で受診したところ、診断は主にカビが原因で起こる「夏型過敏性肺炎」だった。
「激しい咳をもたらす病気には、マイコプラズマ肺炎、百日咳、結核などがあるが、最近では、五月から十月にかけての咳は、まず夏型過敏性肺炎を疑うようになった」というのは順天堂大学付属順天堂医院でも診療をしている小林暁子メディカルクリニック院長。病気の原因は、トリコスポロンという種類のカビ。多くの人は風呂場の黒ずみなど目立つカビについては積極的に除去する。問題は天井や押し入れ、家具のすき間などで繁殖する「隠れカビ」で、その代表格がトリコスポロンだという。胞子などを知らず知らずのうちに吸い込むことでアレルギー性の肺炎の原因となる。細菌やウイルスなどの感染性肺炎のような高熱は出にくいが、熱がないからと市販の風邪薬でごまかしていると、冒頭のような症状のように突然症状が悪化し呼吸困難に陥ることもあるから要注意だ。さらに「むしろ症状が穏やかな人ほど気をつけた方がよい」と指摘した。軽い咳をがまんしていると次第に慢性化していく。診断や治療を受けないでいると、炎症によって肺の粘膜が厚くなり、やがては最近話題になっているCOPD(慢性閉塞性肺疾患)のように呼吸機能全体が低下してしまう場合もある。
では、夏型過敏性肺炎を早期発見するにはどうしたらよいか。「医療機関での診断には血液検査、肺機能検査、コンピュータ断層撮影(CT)などの画像診断も用いるが、いつから咳が出始めたのか、どんな生活環境下などの問診でかなりのことがわかる」と話す。例えば旅行に行くと咳がおさまってしまう人など、環境を変えることで症状が異なってくる場合にはカビの影響を疑う。職場のカビが原因の場合は、同じフロアに何人も咳に悩まされている人がいることもある。表には夏型過敏性肺炎に特徴的なポイントを挙げておいたので、このような咳では、症状が軽い場合でも、一度内科で相談してみることをおすすめする。
治療方法としては、アレルギーによる炎症を抑えるステロイドが有効だが、あくまでも対処療法でしかない。やはり根本的な改善法は住宅内のカビの発生を抑えること。まずは室内の換気。カビは室温20度湿度60%以上で発生しやすくなり、80%以上で爆発的に増殖する。最近の機密性の高い住宅では積極的な喚起を怠ると簡単にこの条件になってしまう。「近ごろこの病気が若い人の間で増えているのは、共働きや一人暮らしの人が増え、日中の喚起ができないせいだと考えている」と小林医院長。
現代の住宅事情の中で増え続けるカビ。カビが原因の病気は、肺炎以外でも増える傾向にあるという。例えばアトピー性皮膚炎の患者の場合夏に症状が重くなる理由の一つが住宅のカビによるアレルギーであることがわかっている。「原因不明のじんましんで受診した患者さんの抗体検査をしたところ、カビが原因であったことも」と小林医院長。
・こんな咳に要注意
1.旅行などで数日外泊すると治る
2.そういえば去年の夏も咳が止まらなかった
3.同じ職場で何人も咳をしている
4.最近引っ越しをした
5.風邪薬の効果があまりない
6.熱がないのに咳だけ激しくなった
7.症状が進み呼吸しにくくなった
エアコンは部屋の湿度を下げるためには有効だが、カビの発生原因でもある。エアコンを冷房状態から急に切ると中に水滴がたまりやすいからだ。エアコン使用開始10分で、エアコンの吹き出し口から平均250個最大1000個のカビ胞子が飛散しているという結果が出た。「カビの増殖を防ぐためにはエアコンを切る1時間前に送風状態にするとよい」という。同様に加湿器や空気清浄機、カーエアコン、全自動洗濯機などもカビの温床になることがある。
・隠れカビ対策のポイント
1.調理中は必ず換気扇を使い調理後もしばらく回す
2.エアコンは冷房後、1時間ほど除湿や送風にしてから停止
3.家具の裏側に5センチほどのすき間をあける
4.帰宅後すぐに窓を開け喚気をする
5.洗濯物はできるだけ部屋干ししない
6.梅雨寒の時窓が曇ったらすぐ換気をする
7.風呂から上がったらすぐ排湯する