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象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

鏡張りの部屋、その7。〜娘との出会い〜

2018年06月12日 21時50分30秒 | 鏡張りの部屋

妻シルフィーの意外な激白に、

男はうろたえた。

”オレは最初から用無しだったのか”
男は、妻の言い分が、
全く理解できなかった。


男は再びテーブルを強く叩く。
”なんて言い草だ”

何で分かってくれないんだ
オレはここに幽閉されてるんだ
あるホテルに監禁されてるんだ
これは、立派な誘拐事件なんだ
警察も探偵もホントに動いたのか?

オレは罠にハメられただけだ
オレが監禁される様なことをしたか?
何でオレだけがこんな目に
全く可笑しいじゃないか


仕事だって、オレは人一倍こなしてきた
周りが目を背けたくなる仕事も
オレは逃げずに、引き受けた
あれは会社の為、家族の為でもあったんだ

会社は些細なミスを冒したこの俺に、
ある難題を背負わせた

僅かな賄賂を噛ませ、
オレを追い出そうとした
そうに決まってる

その上、家族に追い出されたら
俺の生きる術は、全く亡くなってしまう
俺の住む場所は、何処にもなくなってしまう
オレは、誰を何を頼りにすればいい?
俺は、誰を頼りに生きればいい?
答えてくれ、シルフィー!


妻は、しばらく黙っていた。
そして、沈黙が破られた。
それは、妻のトドメの一言だった。

つまり、そういう事なのよ
貴方と私は、
出会ってはいけない運命だったの
運命って残酷よね
でも、その運命が
互いの新しい人生を用意してくれたのよ
悪い事ばかりじゃないわ、ダーレム
今、貴方は新しい運命を切り開く時なの
お互いにね


男は妻を遮った

ああ、そうか、そうだったんだ
これは、最初から用意された罠だったんだな
シルフィー、お前もグルだったんだ
親友のラウンダーズとグルになって
最初から、俺を追い出そうとしてたんだな
何時から、ヤツとデキてたんだ?
俺と付き合う前か?


妻は、少し熱くなった。

バカ言わないでよ、全く
アンタのその嫉妬深い負け犬根性が
私と家族とその周りを、
不幸に巻き込んだのよ
いい加減に目を覚ましたら、ダーレム
少しくらい、私や家族の事を考えてよ
ラウンダーズだって、
ずっと貴方の事を心配してたのよ
それが分からないの?


男は何を言っていいのか、
全く解らなくなった。

”今のオレは何を誰を頼りにしろっていうのか”

男はいきなり叫んだ。
怒りと失望が頭をもたげた。

娘の声を聞きたい、
とにかく話がしたいんだ
それくらいいいだろう?
スージーもルーシーも俺の娘だ
これは、互いの運命が変わっても変わらない
すぐに電話に出してくれ、二人共だ
無理な要求じゃない筈だ


妻は二人の娘を呼ぶ為に、
二階へと上がっていく。
その間に、親友のラウンダーズが
電話を取り次いだ

俺だ、わかるね、ダーレム?
ずっとずっと心配してたんだぜ、
皆、ずっとお前の事を心配してたんだ
お前は俺の親友だ
今でもこれからも、それには変りはない
シルフィーも色々あって
今はとても疲れてんだ
俺は彼女の支えになりたかっただけなんだ
誤解しないでくれ、ダーレム


男は親友の声を無視した

ゴタゴタ言わず、
娘二人をすぐに出せ
今すぐにだ、
時間稼ぎなんて、お前らしくないぜ


親友は次女のルーシーを抱きかかえ
電話口に引き寄せた。

ルーシーは声を震わせた。
期待と不安が、娘の小さな心を締め付けた。

ダディ?ダディ?私のダディ?
パパは生きてるの?
皆パパは死んでると言ってるけど
アタイは信じてる
パパは生きてるって
パパが私達を見捨てる筈ないもん
ねえ、ダディ、そうでしょ?
アタイはパパの味方よ
パパもアタイの味方よね?


男の目に涙が溢れた。

”俺は一人じゃない、今の俺に必要なのは、
運命でも妻でも錆び付いたホテルでもない、
二人の娘の存在そのものなんだ”

ルーシー、パパは生きてるよ
パパは簡単には死なないさ
お前ら二人を残して死ぬなんて
絶対に絶対にありえない
ルーシー?パパも今はツライが
絶対に迎えに来るからね
それまでは、いい子にしてるんだぞ


ルーシーの目にも
真珠の様な涙が溢れた。
無垢な感情が、
様々な感傷を呼び覚まし、
僅か5歳の娘の心を、大きく躍動させた。

パパ?アタイは負けないよ
だから、パパも負けちゃ駄目だよ
パパはアタイの宝物
アタイもパパの宝物でしょ?
絶対に迎えに来てよ、約束よ


男には、僅か5歳の娘の言葉が、
神の訓示に聞こえた。

”俺はまだまだ、終わっちゃいない”


ようこそ、我がホテルカリフォルニアへ
🎵素敵な場所でしょ
🎵素敵な人達でしょ



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