鏡張りの部屋。その１２〜女の過去と男の真相と〜

　リーマンの謎ブログのバックナンバーを読んで下さった方､ありがとうです。解析接続をクリアするのにもう一息です。ここを過ぎれば後は比較的簡単で楽しいです。これからも宜しくです。

　
　さてと､約一ヶ月ぶりの鏡張りの部屋ですが。前回はとうとう男が若い女を追い詰めます。脅しが効いたのか､スンナリと本性を白状するんですが。
　この若い女の正体と男が抱える真相とは？

 

女は何とか冷静さを取り戻した。
何かを悟ったみたいに､過去を話し始めた。

実は私もね
とある組織に追われてる身なの
付き合ってた彼氏が､一応元旦那なんだけど､
シャブの運び屋だったって言ったでしょ？
実は私も彼とグルだったの
夫婦揃って
シャブの運び屋をやってたというわけね
全くイカれた二人だわ､笑っちゃうわね

男はニコリともせずに､すかさず言い放つ。

それが俺に何の関係があるんだ
アンタと元旦那の過去に過ぎんだろう？
誰だって過ちはあるのもんさ
アンタに過去があるのは当り前だろ？
アンタが何かしくじったとしても
足を踏み外したとしても
俺には関係のない事さ
なぜ俺に纏わりつく？
なぜ俺と関係を持ちたがる？
何故俺に心を寄せたがる？何故だ？

女は少し微笑んだ。

単純よね男って､幾つになっても
貴方は何も分かってないのよ
だから貴方が羨ましいのよ
アタイと貴方は共通点がありすぎるの
お互いに追われてる身なのよ
私､旦那を追い出したって言ったわよね
正確に言うと
旦那がアタイを売ったのよ
あるシンジケートに
私を売り飛ばそうとしたの
私を娼婦にし､シャブ付けにし､
一儲けしようと企んだのよ
それで私は追われ､
ここに辛うじて逃げ込んだというわけ

男は若い女をじろりと睨みつけた。

誤解しないでくれ､お嬢さん
俺はアンタらみたいに”汚れ”ちゃいない
真っ当な人間なんだ
アンタらみたいに一攫千金とはいかないが
それでも何とか家族を養ってきたぜ
シャブを売って生活してる連中と
真面目に仕事してる俺を一緒にしないでくれ

今度は女が男を睨み返した。

ちょっと待ってよ
好きでシャブを売ってたわけじゃないわ
私達､最初は真っ当な商売をしてたのよ
お得意さんの頼みで
ある危険な仕事を引き受けたの
私達の商売を何時も陰で支えてくれたから
断れなかったのよ
それでそのお得意さんがドロンしちゃって
私達に多額の借金だけが残ったの
高価なマリアナを売って稼ぐ為には
巨大で危険な組織に入り込む必要があったの
勿論､夫婦揃って逃げる事も考えたわ
お腹の中に子供も出来てたし

男は若い女に憐れみを感じ始めていた。
男は静かに言い返す。

それでアンタは危険な道を選択したんだな
毎日が綱渡りの人生を
それで､お得意さんはその後どうなった？
追い出した､元旦那はどうなった？
弁護士には相談しなかったのか
サツには報告しなかったのか
探偵事務所とかには相談しなかったのか
西海岸には優秀な探偵がいるだろ？

女は嘲笑うかの様に男を見つめた。

何言ってるのよ
弁護士も警察も私立探偵も
巨悪な大組織の前では猫みたいなものよ
この国に正義はないの､あるのはお金だけ
そう､お金が唯一の正義なのよ
この国はお金の為なら､何でもする国なのよ
弁護士も警察も探偵も
全てはお金で動くわ
アナタ何も分かっちゃいないのね
真っ当な人生だけが全てじゃないのよ
いや､それ以外の人生が大半なのかもね
私達も例外じゃないわ
そういうアナタだって
娼婦を囲ってるじゃない？
レオニーとか言ったわね
でもアタイ彼女を知ってるの
実は､彼女は娼婦以外に
危険な仕事をして､大金を稼いでいたの
客の情報を組織に売ってたの
娼婦というのは表向きの仕事なのよ

男は少し狼狽した。

アンタにレオニーの何がわかる？
あいつはそんな汚い女じゃない
俺はあいつの全てを知ってるつもりだ
あいつは慈悲深く､常に弱いものの味方だった
彼女を悪く言う奴の事は信じきれないな
アンタと彼女じゃ､種類が違うのさ

女は刺々しく言い放つ。

ちょっと､フザケないでよね
少し甘い顔すると直ぐに付け上がるんだから
アンタも元亭主と同じね
人生を踏み外して当然の男だわ
そういうのを社会の沈殿物というのよ
娼婦に頼って生きるのがさ､
真っ当な男のする事なの？
家庭を持ち､
真面目に働いてる人間のする事なの？
何にも言えないわよね
言える筈ないわよね
アンタも私も､所詮同じ人種なのよ
いや私以下かもね､元亭主とおんなじだわ
シャブ売って､恋人を娼婦に突き出すのが
お似合いだわ､オ・ジ・サ・マ
何か文句あんの？ある訳ないわよね

男は何も言えなかった。
実をいうと､
レオニーの事は何も知らなかった
ただただ肉体に惚れ込み､
お金で巻かれただけだった。
レオニーが客の秘密を漏らしたとしても
俺を裏切ったとしても
当然あり得る事ではあったのだ。