象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

ゼレンスキーへの称賛と誤算〜長期政権の野望と戦争の長期化と、その先に

2024年05月28日 05時36分09秒 | 戦争・歴史ドキュメント

 ”彼は愛されない事が運命づけられている”との呪いのコメントは、今でも語り草になっている。
 5年前の大統領選挙で73%の得票率で大勝利を収めたゼレンスキー氏に浴びせられたテレビ出演者の発言は、”彼には下り坂しかないだろう”との推測だった。
 推測通り、支持率は下がった。それでもゼレンスキーは安定を望む声を背景に、自身の尽きる事のない魅力を利用し、任期を延長している。

 平時であれば、任期満了により選挙が実施されていた筈だった。だが、ロシアの本格侵攻を受けて戒厳令が出された為にそうはならず、国民も広くそうした状態を支持している。
 つまり、ウクライナ人にとって戦争に勝つ事が最優先であり、指導者の選挙はそれからなのだろう。
 確かに、ゼレンスキー氏の支持率は1昨年のロシアの侵攻直後に90%まで達し、現在も国民の約65%がゼレンスキーを指導者として信頼している。 

 因みに、ウクライナ憲法の第83条では、”戒厳令下、有事下での選挙は、戒厳令(又は非常事態)の解除後に議会が招集する日まで延長される”と規定されてる。だが、大統領の権限については同種の規定は存在しない。
 推測に過ぎないが、大統領選挙の延期を憲法で明記しないのは、戦争と戒厳令を長期化させ、独裁者として居座る事を警戒しての事だろうか。


戒厳令下での大統領

 一方で、2015年制定の法律「戒厳令の法体系」の第19条では、戒厳令下での以下の5つが禁止事項となる。
 ①ウクライナ憲法の改正②クリミア自治共和国憲法の改正③ウクライナ大統領選挙、ウクライナ国民議会選挙、クリミア自治共和国国民議会選挙、地方自治選挙の実施④ウクライナ全土および地方の住民投票の実施⑤ストライキ・大集会等の行動、の5つである。
 勿論、憲法と法律の違いもあろうが、前者は国家権力に向けられた法規範であり、後者は国民に向けられた法規範である。例え、法を改正し、大統領選挙が可能になったとしても、戦時中に選挙を行うのは現実的に見て不可能にも思える。

 一方、こうした憲法に触れる事なく、”戒厳令中だから選挙をしないのは合法であり、当然だ”と主張する報道や有識者の声も目立つ。
 但し、戒厳令の発動と延期には議会の承認が必要だ。が、ゼレンスキーは批判的な野党を解散させ、ウクライナの国会議員は定数を100人以上も割りこみ、批判的なマスコミも解散させている。
 故に、政権内ではゼレンスキー大統領はまさに”裸の王様”状態だが、そんな彼も、戦争当初は”ウクライナの領土を犯す者は誰一人許さない”と言い放ち、”最後の1人になっても戦う”とも語り、国民の多くの支持と信頼を勝ち得た。
 が、結果的には、拉致に近い不条理な動員までをも行い、戦争を続け大統領に居座っている。これじゃ、裸の王様どころか、プーチンと同じ”狂ってしまった”独裁者である。

 事実、2024年2月24日から始まったロシアによるウクライナへの全面侵攻後、ウクライナは同日付で戒厳令を開始。その後、戒厳令は何度も延長され、同年5月6日には大統領令により、戒厳令は5月14日から90日間延長された。この延長により、ゼレンスキーは大統領の座にしばらくは居座る事が可能となる。
 ただ、繰り返される戒厳令を理由に、民主的な選挙が成されないというジレンマが国民を不安にさせてるのも現実だろう。

 一方でプーチンは”任期切れとなったゼレンスキーを大統領と見なすのか?”との疑問を提示し、”これはウクライナの政治・法制度そのものに問題がある。そして、それは評価の問題だ”と答えている。
 まさしく、プーチンの言葉は正論である。つまり、ウクライナに民主主義は存在しないとプーチンは見ている。もっと言えば、西側に真の民主主義はありえないと。
 確かに、今のままでは和平協議や停戦よりも戦争継続への動機や誘引が働き、戒厳令を継続する事でゼレンスキーは大統領に居座るだろうし、軍隊の損耗や民間人の犠牲は増え続けるばかりである。

 2023年1月まで大統領府上級顧問だったアレクセイ・アレストヴィッチ氏は同年11月、大統領選に出馬すると表明し、”大統領選挙の延期は権力の簒奪(さんだつ)とみなされる”と明言した。彼の主張は、ロシアの政権交代までの間に、クリミアやドンバスといったロシアによる占領地をロシアに明け渡す一方、NATOに加盟し、政治・軍事的保証を受け、挽回する機会を得る事を提案するものだ。
 こうした彼の主張は”クレムリンのエージェント”と呼ばれる原因となってるが、”全領土を奪還するまで戦う”というゼレンスキーの主張よりもずっと現実的である。
 もう一人は前大統領で、ゼレンスキーとの決選投票で敗れたペトロ・ポロシェンコ氏も大統領選への出馬を明言している。他にも、2024年2月に軍総司令官を解任され、3月に駐英ウクライナ大使に任命されたヴァレリー・ザルジニーが候補者になる可能性も取り沙汰されている。


ゼレンスキーの誤算

 こうした状況にも拘らず、ゼレンスキーは選挙には後ろ向きの姿勢である。事実、2023年にゼレンスキー率いる与党の一部が、憲法裁判所に大統領権限の判断を仰ぐよう大統領府に迫ったが拒否された。また、西側諸国の議員らの中にも”戒厳令下でも選挙をすべきだ”との声は少なくなかった。
 が今年に入り、5月の大統領の任期が近づいても、ゼレンスキー自身この問題について語ろうとしない。また、米国や欧州諸国からも”大統領選を実施すべきだ”とする声が殆ど聞かれなくなった。
 これが今の民主主義国家の現状だと思うと、こんな状況下のどこに民主主義があるのだろうか・・・ 

 確かに、選挙を実施するには現実的なハードルが非常に高い。国土の1/5はロシアに占領され、国民の少なくとも700万人が外国での生活を余儀なくされている。前線で戦っている兵士も数十万人に上る。
 ”だが、代わりとなる大統領はいない”
 ウクライナの著名な作家アンドレイ・クルコフ氏はそう話す。
 以下、「ゼレンスキー氏、任期満了後も政権を継続・・」より簡単に纏めます。

 ほんの数カ月前には、前述のザルジニー氏がゼレンスキー氏の対立候補として注目されていた。が、今では政治的には静観している。  
 クルコフ氏は”ショービジネスの様なやり方で大統領になり、戦争の真っ只中に置かれるというのは、簡単な事でも面白い事でもない”とも語る。
 2022年にロシアがウクライナに侵攻した解き、避難を拒否し国の為に戦う姿勢を示したゼレンスキーをクルコフ氏はジェイムズ・ボンドになぞらえた。
 だが今は”とても疲れて老けた様に見える。もし明日選挙があったとしても、またゼレンスキーが選ばれるだろう。つまり戦争が終って初めて、人々の態度は変わり、戦時にはなかった質問をするようになる”と語るクルコフ氏だが、人々が大統領を支持し続けてるのは、多少の不満はあるにせよ、安定を求めている事が大きいと考えている。

 ”とても興奮した日だった”と、当時の新大統領チームの一員だったオレクサンドル・ダニリュク氏は振り返る。同氏は後に、大統領補佐官を務めたが、1年で退任。以降、かつてのボスであるゼレンスキー氏と対立する立場となる。
 ”私たちの誰もが何が待ち受けてるのか知らなかったし、僅かな考えすらなかった”
 ダニリュク氏とゼレンスキー氏の間では、政治的な意見の相違が深まっていった。その1は、ロシアのウクライナ侵攻にどう対抗するのが最善かについてだった。ゼレンスキーはプーチン大統領と”交渉できる”と信じていた。一方ダニリュク氏は、避けられない”戦争に備えるべきだ”と考えていた。
 一方で同氏は、ウクライナへの国際的な支持を集めるのに、これ以上優れた人物は殆どいないと認める。

 ゼレンスキーは昨年、選挙について語るのは”無責任”だとし、団結を呼びかけた。国民の殆どが同じ考えを持っている様にみえる。 政治的な審判の解きはやがて来る。ただ、それは今ではないようだ。
 以上、BBCNEWSからでした。
 

最後に〜信じ過ぎる者はバカを見る?

 ネタニヤフとプーチンは同類だが、ゼレンスキーは少なくとも彼らとは、同類でも等価でもない様に思える。
 しかし、ここまで追い詰められ、徹底抗戦を死守するウクライナ軍を見てると、太平洋戦争末期の旧日本軍とダブって見える。
 あの時も”一億総玉砕””最後の1人になっても戦う”が合言葉だったし、日本国民もそれを信じた結果が、”鬼畜”ルメイによる大都市無差別空爆であり、トルーマンによる広島・長崎の原爆投下である。
 ウクライナの明日を考えれば、”一致団結・徹底抗戦”というのは無差別なる惨劇を生むだけなのは、道義的にも歴史的にも火を見るより明らかであろう。

 そういう私も、ロシアがウクライナへ侵攻した時は(ある種の直感だが)ゼレンスキーはすぐに白旗を上げ、一旦は国外へ退避した方がいいと感じた。が、ロシア軍の初期始動の躓きもあり、ゼレンスキーはキーフに留まり徹底抗戦を訴え、一時は国民的ヒーローになった。
 これは、1941年12月の真珠湾の奇襲で一躍英雄となった山本五十六と殆ど同じケースである。
 しかし、”私たちはもっと上手く準備すべきだった。だが本格侵攻の後では、そうした初期対応の時間は失われてしまった”と、前述のダニリュク氏が悔やんだ様に、成功したかに思えた徹底抗戦はプーチンを本気にさせただけである。これも真珠湾攻撃と非常に似通っている。
 まさに、ウクライナ軍の初期の徹底抗戦は、1941年の真珠湾攻撃の韻を踏んでいる。この先、アメリカの支援で息を吹き返したウクライナが勢いづいてロシアに攻め込めば、プーチンは戦術核を使うだろうし、戦術核でダメなら、広島・長崎の様な大規模な核投下もありうる。

 ロシアに追い詰められた形となったウクライナだが、国民の65%は未だにゼレンスキーを信じている。
 勿論、”信じる者は救われる”という諺もあるが、”信じるものはバカを見る”というケースもよくある事だ。
 つまり、国家の大統領だからと、全て疑いもせず、確かめもせずに信用してしまうと後々に後悔する。言い換えれば、西側の正義や民主主義を鵜呑みにし、疑いもせずに受け入れた結果が今回の惨劇を生んだとも言える。
 ゼレンスキーも、アメリカを信じすぎたが故にバカを見たの最悪のケースに陥ろうとしている。

 5年前の晴れた日、コメディアンから大統領に転身したゼレンスキーはフレッシュな顔をして、群衆の声援に応え、興奮のあまり人々の中に飛び込み、男性の額にキスをした。今の様に無精ひげも厳しい表情もなく、興奮した笑みだけが見えていた。
 しかし今や、国民の歓声は彼の耳には届かない。聞こえるのは、民衆が泣き叫ぶ悲鳴だけである。それでも、ゼレンスキーはアメリカの正義と自由を信じ、団結と徹底抗戦を貫くのであろうか?
 少なくとも、日本はそうであって欲しくはない。



4 コメント

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プーチンの尤もな指摘 (腹打て)
2024-05-31 09:20:55
ロシアはゼレンスキーの大統領権限の継続を疑問視してるけど、ウクライナ憲法では認めてられないが、2015年に別途定められた法律では戒厳令下の大統領はその継続が認められている。
憲法か?法律か?の微妙な問題だけど
ゼレンスキーを失脚させる為のプーチンの策略とまでは言えないと思う。
それ以上に、西側民主主義の限界とも言えるが、汚いやり方でプーチンは再選に成功した。ゼレンスキーの場合、普通に選挙をしても当選は確実だったろう。

他方でウクライナ側の初期始動の失敗が言われてるけど、キューバ危機だってケネディは初っ端で失態を犯し、その反省の下、何とか最悪を免れた。   
ゼレンスキーの交渉可能との読みは満更外れてはいないし、他方で十分にプーチンの侵攻に備えてたら、もっと強くロシア軍を叩けてたら、と思う所もある。
タラレバ論になったが、歴史を振り返る時はどう評価するかによっても、意見が分かれるのだろうね。 
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腹打てサン (象が転んだ)
2024-05-31 14:51:05
多分ですが
ゼレンスキー以外の者が大統領であったら、ここまでの徹底抗戦はあり得なかったし、ここまで西側が支援する事はなかったでしょうね。
つまり、アメリカにとって最も都合の良い大統領は、プーチンにとっても結果としてみればですが、都合がよかったのかもです。

言われる通り、歴史って評価の仕方で全然変わるんですよね。
コメント何時も勉強になります。
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Unknown (tokotokoto)
2024-05-31 19:21:55
ネットではゼレンスキーの総資産が80億円を超えるとか?
色々と噂されてますが、実際にはForbesによればですが、多く見積もったとしても26億円程らしい。
内訳は、彼が所属してた劇団の株式25%が14億で、全不動産が5億、夫婦の貯金や国債が2億6千万で、後は車2台と宝飾品で1億3千万で合計すると23億円を超えるくらいです。

ロシアのプロパガンダは、高級ヨット5隻とプライベートジェット3機に、サウジアラムコやメタ、テスラの株式約77億円相当を保有してるという情報を流してますが、Forbesはその証拠はないとしてます。
勿論、ウクライナがロシアに勝利し、プーチンが牛耳るロシアの富豪から大金を奪いとれば、世界長者番付に入る可能性はなくはないでしょうが、戦後復興の事を考えるとそんな余裕はないでしょうね。 
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tokoさん (象が転んだ)
2024-06-01 05:50:32
それでも、23億円ですか
庶民には大統領というのは高嶺の花ですかね。
少なくとも、数十億という持参金がなければ、出馬すらできないという事でしょうか。
戦争は”金持ち同士の喧嘩”とも言われますが、金持ちだけで部屋を締め切って殺し合いをしてくれれば、我ら庶民には(金持ちが数人減るだけで)全く被害はないのですが、砲身は悲しいかな庶民の方へと向けられるんですよね。
コメントとても参考になりました。
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