ガウスはどうやって正17角形を描いたのか?
(私もウッカリでしたが)実は、ガウスは実際の作図法を思いついたのではなく、数学的に作図が可能である事に気がついた。
つまり、正17角形の頂点を示す式であるx¹⁷−1=0の17個(自明なx=1を除けば16個)の解が2次方程式を有限回(3回)解くだけで導ける事でした。
そして、この事はcos(2π/17)が四則とルートのみで表せる事と同義である。
「近世数学史談」(高木貞治著)によれば、ガウスは”正多角形の中で3角形、5角形、15角形及びこれら変数を2倍して生ずるものの作図が可能である事は、幾何学の初歩を学んだ者は誰でも知っている事で、既にユークリッドの時代に判っていた事だが、初等幾何学ではそれ以上は出られ得ない・・・
例えば、17角形などの作図が可能である事の発見は注意に値するもので、実に一層広汎なる或る理論の系題に過ぎないのだが、その理論はなお少し未完成の所があるから完成の上で速やかに発表するであろう”と控えめに語っている。
つまりガウスは、作図ではなく作図可能性に注目し、”円周等分理論”という(更なる)壮大な理論の一場面に過ぎないと見ていたのだ。
では、「前回」で保留した、cos(2π/17)の値をガウスはどうやって求めたのか?
cos(2π/17)を解き明かせ
ガウスは、まずφ=2π/17として、a=cosφ+cos4φ、b=cos2φ+cos8φ
c=cos3φ+cos5φ、d=cos6φ+cos7φとおき、定数a,b,c,dを指定した。
これは、aはφとその4倍の余弦の和、bも2φとその4倍の余弦の和ですが、cの場合、3φの4倍は12φだが、17φ(=2π)より、cosnφ=cos(17−n)φ(=余弦の対称性)が成立つので、n=12の時はcos12φ=cos5φとなり、4倍の関係が成り立つ。同様にdの場合も、4×6φ=24φ=(17+7)φとなり、17φ=2πから、cos(17+7)φ=cos7φとなり、dにても4倍の関係が成り立つ。
故に、a,b,c,dはφと4φ,2φと8φ,3φと12φ,6φと24φの余弦の和となる。
更に、a+b=e、c+d=fとおき、e+f=cosφ+cos2φ+・・・+cos7φ+cos8φをcosnφ=cos(17−n)φに注意すれば、cosφ=(2cosφ)/2=cosφ+cos16φ)/2を繰返し、=(cosφ+・・・+cos8φ+cos9φ+・・・+cos16φ)/2と変形できる。
そこで、”cosの和公式”より、cosθ+⋯+cos16θ=−1となるので、e+f=cosθ+⋯+cos8θ=(cosθ+⋯+cos16θ)/2=−1/2ー①を得る。
因みに、”cosの和公式”ですが、これは複素数zにて、z=eⁱᶿ=cosθ+isinθとすると、「ド・モアブルの定理」により、zᵏ=coskθ+isinkθとなり、また、θ=2π/nである事から、zⁿ=1となる。
故に、上式の両辺にΣₖ[1,n]を被せると、左辺=Σₖ[1,n]zᵏ=1+z+・・・+zⁿ⁻¹=(1−zⁿ)/(1−z)=0となり、右辺=1+Σₖ[1,n-1]coskθ+iΣₖ[1,n-1]sinkθとなり、実部のみ比較すれば、1+Σₖ[1,n-1]coskθ=0を得る(証明終)。
次に、efを求めるが、
ef=(a+b)(c+d)=ac+ad+bc+bdより、cosの「積↔和の公式」を使い、それぞれの項を順に求めていく。
因みに、”積→和”の公式はcosαcosβ={cos(α−β)+cos(α+β)}/2で、”和→積”の公式はcosx+cosy=2cos((x+y)/2)cos((x−y)/2)です。
ac=(cosφ+cos4φ)(cos3φ+cos5φ)=cosφcos3φ+cosφcos5φ+cos4φcos3φ+cos4φcos5φ=(cos2φ+cos4φ+cos4φ+cos6φ+cosφ+cos7φ+cosφ+cos9φ)/2=(2a+b+d)/2。但し、ここでは”積→和”の公式を使った。
他も同様にして計算すると
ad=(b+c+2d)/2、bc=(a+2c+d)/2、bd=(a+2b+c)/2を得る。
故に、ef=(4a+4b+4c+4d)/2=2(e+f)=2(−1/2)=−1ー②が求まる。
①と②により、2次方程式の解と係数の公式から、e,fはx²+x/2−1=0の解=(−1±√17)/4となる。
ここで、θ~4θは第1象限の角で、5θ~8θは第2象限の角より、前者の余弦は+で後者は−となるので、e>0,f<0とみなせる。
故に、e=(−1+√17)/4,f=(−1−√17)/4ー③を得る。
cos(2π/17)を解き明かせ〜その2
ここで、最後の仕上げに掛かります。
まず、e=a+bの値が求まったので、”積→和”の公式を使い、上と同様に、abの値を求めます。
ab=(cosθ+cos4θ)(cos2θ+cos8θ)=cosθcos2θ+cosθcos8θ+cos4θcos2θ+cos4θcos8θ=(cosθ+cos3θ+cos7θ+cos9θ+cos2θ+cos6θ+cos4θ+cos12θ)/2=(cosθ+cos2θ+⋯+cos8θ)/2=(−1/2)/2=−1/4となり、(解と係数の公式から)a,bはx²−ex−1/4=0の解になり、それらの解はx={e±√(e²+1)}/2となる。
ここで、上と同様にa>bとみなせるので、③より、a={−1+√17+√(2(17−√17)}/8とb={−1−√17+√(2(17−√17)}/8ー④を得る。
故に、a=cosθ+cos4θの値が求まったので、次にcosθcos4θの値を求めます。
”積→和”の公式より、cosθcos4θ=(cos3θ+cos5θ)=c/2となる。更に③からf=c+d=(−1−√17)/4を得たので、cdはabを求めた様に計算すれば、cd=−1/4になる事がわかる。
従って、2次方程式x²−fx−1/4の解として、c,dを求める事が出来、上と同様にして、c={f+√(f²+1)}/2={−1−√17+√(2(17+√17)}/8ー⑤を得る。
以上より、cosθ,cos4θは2次方程式x²−ax+c/2の解(={a±√(a²−2c)}/2)であり、cosθ>cos4θより、cosθ={a+√(a²−2c)}/2を得る。
一方で、2cosφcos4φ=cと2cos²φ=1+cos2φ(半角の公式)により、2a²=2+b+2cの公式を得る。
これをa²−2c=1+b/2−cと変形し、cosφに代入し、更に④⑤で得たa,b,cの値を代入すると
cosφ={a+√(1+b/2−c)}/2={−1+√17+√(2(17+√17)}/16+√{17+3√17−√(2(17−√17)−2√(2(17+√17)}/8と、cos(2π/17)を求める事が出来た。
以上を大まかにまとめると、
((17等分ー1)/2=)8個の弧の余弦をa,b,c,dの4つに組分けし、a+b=e,c+d=fとして、e+fとefを求め、2次方程式の解と係数の公式からe,fを求めた。更にa+bとabを求め、上と同様にa,bを求め、同じくc,dを求めた。
すると、cosφは2次方程式x²−ax+c/2の解となり、一方で2a²=2+b+2cを得る。これをcosφに代入すれば、、四則とルートの形をしたcos(2π/17)の値を得る。
”単に正17角形の作図可能性を証明するだけなら簡単明瞭である”として、天才ガウスはこの結果を得たのだが・・・正17角形の作図可能性は、この様に作図なしても証明はできる。
しかし、こうした正17角形の作図可能性を代数的可解性と呼ぶとするのなら、それは古代ギリシャ時代の幾何学が代数論や解析学や関数論という、新しい現代数学の領域に足を踏み込んだ瞬間と言えやしなだろうか。
そう思うだけで、私の胸は張り裂けそうになるのである(ウソ=_=)。
少し長くなったので、今日はここまでです。
次回は、ガウスを怒らせた?作図法と作図可能であるという事を数学的に説明したいと思います。
ガウスは自ら発見した偉業の”足場”を消すことで有名ですが、若き日のガウスはオイラーやラグランジェの影響を強く受けていたのは明らかでした。
オイラー積分やラグランジュの分解式、無限級数や2次形式の理論などは、ガウスの数学日記から明確に読み取れます。
しかし、楕円関数(レムニスケート関数)の発見や、転んださんが紹介した円周等分方程式の代数的可解性の発見、そして平方剰余の相互法則の本質と原理が円周等分方程式論や二次形式論に秘められてる事の発見、更に超幾何級数(今で言う関数)の探求や考察などはガウス独自の創意でありました。
数論や代数や解析におけるガウスの大発見を目の当たりにする度に、彼が夢見た壮大な数学の景色に圧倒されそうである。
その後の天才数学者たちにも大きな影響を与え、色んな形で継承され、発展&進化していくんですね。
例えば、数論と楕円関数論の確率にては、アーベルやヤコビ、アイゼンシュタインにクロネッカーが
数論の簡易化と代数的整数論の成立では、ディリクレやクンマーやデデキントらの名が挙がります。
更に、ガウスが”解析学の新しい領域が開かれた”と思わず叫んだ4次剰余の相互法則の確立と発見では、数域の拡大という体の拡大論としてガロアが継承したと言えます。
つまり、古代ギリシャ時代の幾何学や数論が、後の代数学や解析学に形を変えて継承され、更に群論という新しい現代数学の領域を生んだ
とも言えますね。
色々と教えてくださて感謝です。
代数学的な可解性にって
出来すぎのようでなんだか魅惑的ね
数学って絵画であり音楽でもあり
そして芸術でもあるの
転んださんのガウスネタに
私の胸も張り裂けそうだわ〜👅
アイデアマンでもあったんですよ。
ドラえもんみたいに、お腹の中から色んなアイデアが次々と現れてくる。
天才クラインが”自らを祝福し、熱狂的な叫びをある”とガウスを絶賛する様に、まるでカーニバルを存分に楽しむかの様に数学と戯れてたのでしょうか。
ガウスの魅力を少しでも解って頂いて、私も恐縮ですよ。
では・・・
”・・・熱狂的な叫びをある”ではなく、”・・・熱狂的な叫びをあげる”でした。