象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

運も確率も実力のうち〜オッズとツキから眺めたWBC

2023年03月26日 10時49分27秒 | スポーツドキュメント

 大谷に始まり大谷で終わったような大会だったが、勝負にはパワーよりも緻密さ、理性(データ)よりも感性、そして必然よりも偶然(ツキ)の大切さを感じた大会にも思えた。

 メキシコ戦で村上が決めた一撃は、“信念の野球”が輝いた瞬間だ。だからこそ魅力的で価値がある。”顕微鏡野球”と呼ばれるほど緻密な分析に長ける日本野球が”理性よりも感性”に基づいて選択した結果だったからこそ、観ていてなおさらシビれた。
 これは韓国メディアの言葉である。

 確かに、人は追い詰められると、知能よりも本能が優先し、思考よりも感情が優先する。
 データで見れば、冷静に考えれば、送りバンドの選択もあっただろう。オッズで言えば、村上が打とうと送ろうと、メキシコには勝てた試合だった。
 しかし、ここで村上を潰してしまっては、アメリカ戦での同点ホームランはなかった。
 つまり、栗山監督は明日の決勝を見据えて若き三冠王と心中したのである。
 事実、1.38倍(勝率=1/1.38=72.5%)という試合前のオッズで見れば、どっちに転んでも日本が有利だった。勿論、メキシコも予選でアメリカを破り、優勝オッズは開幕前の100倍から8倍に跳ね上がってたから、日本が苦戦するのも当然ではある。
 それでも日本は(ツキを静かにたぐり寄せるが如く)冷静に試合を進めた。村上を初めて5番に下げたのも、栗山監督の理性と感性が融合した結果であろうか。
 今大会、日本が13年ぶりに世界一に輝いたのも、監督の冷静さとツキに負う所が大きいと感じた。


オッズから眺めたWBC

 寄せられたコメントにもある様に、今大会をオッズという視点で眺めるといろんな事が見えてくる。
 1月末のオッズは、ドミニカが3倍で1位、アメリカの3.5倍と日本の4.5倍が続いた。その後、開幕直前の3月7日では、ドミニカ(2.1倍)、アメリカ(2.6倍)、日本(2.8倍)と接近し、日本が1次Rを4連勝で通過した15日は、日本が2.1倍でトップに返り咲き、アメリカの3.5倍とドミニカの3.9倍と続いたが、優勝候補とされたドミニカがベネズエラに破れ、まさかの1次ラウンド敗退。
 因みに、1/31の開幕前の優勝オッズは、プエルトリコが12倍で4位、ベネズエラが17倍で5位、以下、メキシコが19倍(6位)、キューバと韓国が23倍(7位)、オランダ50倍(9位)、コロンビア60倍(10位)・・イタリア80倍(13位)、オーストラリア175倍(15位)。
 更に、3/15の開幕中の優勝オッズでは、ベネズエラが4.2倍で4位、メキシコが10倍で5位、以下、キューバが18倍(6位)、プエルトリコが24倍(7位)、イタリア50倍(8位)、オーストラリア65倍(9位)、コロンビア75倍(10位)。
 つまり、(世界ランクとは異なり)リアルタイムに変動する信憑性の高いオッズで見れば、中南米の強豪が揃った”死のプール”で不運な結果となったドミニカだけが想定外で、あとはほぼ順当な結果とも言える。

 しかし、ベスト8の組み合わせ(上図)を見れば明らかだが、オッズ上位の強豪国は日本(プールA)を除き、全てプールCとDに集中した。つまり、この時点でツキが味方してたと言える。
 更に、この準々決勝でアメリカとベネズエラ、メキシコとプエルトリコと強豪同士が潰し合いをしてくれたお陰で、(イタリアに圧勝した)日本は余力を持って準決勝へと駒を進める事が出来た。
 その上、本来なら日本は準決勝でアメリカと当たる予定だったが、組み合せが不公平すぎる為か、相手がメキシコに変更された。
 今から思うと、これもラッキーだった。メキシコ戦での激闘あってこその決勝での際どい勝利を考えると、準決勝でアメリカと当たってたらフルボコにされてたかもしれない。

 一方で、キューバを軽々と圧倒したアメリカは本来の勢いを取り戻し、決勝直前のオッズでは、1.57倍と日本の2.62倍を逆転。
 勝率で言えば、64%対36%程だが、ブックメーカーはアメリカの勢いが日本の投手陣を打ち砕くと見たのだろう。
 しかし、野球の7割から8割は投手力で決まる。それは決勝でも実践された。つまり、オッズも投手力もウソをつかない。
 そうは言っても、打撃戦になればアメリカが勝つのは明白で、6対4のオッズを4対6にひっくり返すには、日本は何としてでも投手戦に持ち込む必要がある。
 つまり、オッズとツキは自分で引き寄せるものなのだ。
 これも大方言われてた事だが、勝負のカギは栗山監督の投手陣の継投策に全てが掛かってるとされたが、全くその通りになってしまった。
 特に、2番手の戸郷と4番手の伊藤はMVPに匹敵する投球で、ツキも大きく引き寄せたように思える。確かに、大谷の頑張りには頭が下がるが、大谷やダルでなくとも最後の2回は抑えられたと思う。

 アメリカも戦力的には(オッズ同様)日本よりもやや上な筈だが、チームの纏まりと投打のバランスでは日本が上回った。打撃戦になってたら危なかったが、慎重にリスクを回避し、投手戦という理想通りの展開に持ち込んだ結果の、ツキも味方につけた完全優勝と言える。
 一方で、(やや弱いとされた)アメリカの投手陣だが非常に制球が良かったし、打者は選球眼が良かった。しかし、思った以上にその攻撃は淡白に映り、得点機での凡フライが目立った様にも思えたが、これも”顕微鏡”と揶揄される(見栄えの悪い)緻密な野球が、見栄えのいい豪快なパワー野球を上回った証拠かもしれない。


最後に〜WBCの未来と課題

 ただ、”世界一!世界一!”と今は浮かれまくってる日本国民だが、MLBが主催する春先のちっぽけな大会で野球が(サッカーの様に)世界中の隅々にまでに認知されたスポーツになり得るのだろうか?
 パリ五輪(2024)では競技から外れる野球だが、東京五輪(2021)でも出場国は僅かに6カ国。少なくとも日本では盛り上がってる野球だが、本場アメリカでは悲しいかな時代遅れのボールゲームに過ぎない。
 日本との惜敗を”野球の勝利”と胸を張ったメキシコも、野球はサッカーとルチャリブレ(プロレス)の次に来るスポーツに過ぎない。
 一方で、卓越したニグロリーガーらの子孫を多く残すドミニカやキューバ、プエルトリコやベネズエラらの中南米の強豪は(スタメンの殆どをMLB選手で占め)今やアメリカを凌駕する勢いである。

 勿論、今回のアメリカチームは言われてる程に弱くもなかったし、油断した訳でもない。いつも以上に準備をし、日本を研究し、ピークを決勝戦に合わせてきた。
 多分、総年俸270億(推定)のMLBのスター軍団と今回の(WBC史上最強とされる)侍ジャパンが162試合をフルに戦えば、(春先は調子いいかもだが)6割は負けるだろう。
 少なくとも7試合制でやっても最後は(投手陣が踏ん張れず)押し切られるだろう。
 野球というスポーツは僅か1試合で優劣が決まる競技ではなく、何十試合と戦ってその結果で優劣が決まる。
 故に、今回日本がアメリカを下したからとて”日本が強くてアメリカが弱い”という事はありえない。
 ベースボールに詳しくないアメリカ人は、”驚くほど弱かった”とか罵るが、今回のアメリカは若くてとても強かった。スプリングトレーニングの時期にこれだけの若手の主力級が揃う事もMLBの本気度を感じた。

 一方で、新たな課題も残った。
 参加国は前回よりも増えたが、オランダ、イタリア、ドイツ、イスラエル、スペインなどのヨーロッパの野球新興国とても、所詮は欧州を祖国(ルーツ)に持つマイナーリーガーらで構成されたアメリカのサブチームに過ぎない。
 故に、彼らが活躍しても彼らの祖国で野球が盛り上がる事はない。
 唯一例外だったのは、殆どを地元のアマリーグでプレーする選手でまかない、侍ジャパンと堂々と渡り合ったチェコだが、国内の野球人気を博する役割を果たしたと言える。
 更に印象深いのは、チェコのメディアが死球を詫びに宿舎まで選手を訪ねた佐々木朗希を”人間の顔をしたスーパースター”と評した。この”人間の顔をした”とのフレーズは、東西冷戦下にて、当時のチェコ(スロバキア)が推し進めてした社会主義下における民主化”人間の顔をした社会主義”を思い起こさせる。
 この民主化運動の”プラハの春”は、旧ソ連により踏みにじられるが、このフレーズが使われた事に、野球により世界が繋がってる事を実感する。

 そのひたむきさで言えば、中国も素晴らしいチームを送り込んできた。私が常々思ってるアジアンリーグ構想の夢が叶いそうな錯覚に襲われたほどだ。
 私はメジャーとの世界一決定戦よりもアジアンリーグの構築を急ぐべきだと思う。日本、韓国、台湾、オーストラリア、中国らの国々を総括したリーグを作るべきだ。
 世界一選手権は(WBC同様)3年に1度で、シーズン中にアジアは勿論、アメリカやカナダや中南米の国々とホーム&アウエイの交流戦を行い、オフにベスト8が出揃った決勝ラウンドを行う。準決勝は2試合で、決勝は3試合で決着を決める。
 スケジュール的に無理があるが、プレーオフに進めなかったチームや若手を主体に代表を選べば、何とかやっていける筈だ。それに、アメリカは西/中/東と3地区に分ける必要がある。

 勿論、様々な課題はあるが、以下で述べるWBCの根幹をなす致命的な問題に比べれば、アイデアの1つとしては悪くないと思う。


追記

 「WBC狂騒曲」でも少し触れたが、WBCを主催するのは各国が加盟する世界野球ソフトボール連盟(WBSC)ではなく、MLB機構とMLB選手会が2005年に50%ずつ共同出資して設立した事業会社WBCIである。
 独立した統括団体でない以上、MLBの事情が優先されるのは当然で、選手の派遣もビジネス面でも、この構造が大きなネックとなる。
 以下、「WBCはW杯にはなれない・・」より一部参考です。

 例えば、FIFAでは選手の派遣が義務付けられてるが、WBCでは球団の意向が優先される。同じく、W杯では各国の代表スポンサーやグッズの商品化権を認めてるが、WBCではWBCIがスポンサー収益やグッズ収入の全てを吸い上げ、最終的な総収益を分配するシステムを取ってきた。
 第1、2回大会でWBCはスポンサー収入だけで1800万ドル以上の利益を生み、その70%ほどがジャパンマネーとされた。WBC側は”運営リスクを取ってる”と主張するが、東京ラウンドについては読売に運営権を、放映権料などは広告代理店に売却し、大会売上の半分を早々に確定させた。つまり、日本に”負担を強いて”いたのは明白な事実だったのだ。
 更に、その収益配分の不平等さ(米国66%、日本13%)に、第3回大会(2013)の前にプロ野球選手会が異議を唱え、”スポンサー権などが認められない限り不参加とする”と決議。
 これまで、NPBの12球団と選手が全面的に協力し、連覇を達成するなど大会の主役として盛り上げてきた一方で、日本の持つべき権利を差し出す形でWBCは運営されてきた。
 因みに、今大会の優勝賞金は僅かに100万ドルとされてたが、実際に日本チームが得た賞金は4億円ほどだったとされる。これは、第3回大会優勝のドミニカが獲得した340万ドルとほぼ同じと言える。

 NPBは”侍ジャパン”を常設化する事で通年スポンサーを募り、WBCIと交渉で、大会期間中の日本代表のスポンサー権やグッズ収入などを日本側に帰属する事を確認した。更に2014年末には、NPBとプロ野球12球団の出資で侍ジャパンを統括する「NPBエンタープライズ」を発足させる。
 事実、今大会では多くのメーカーが”侍ジャパン”とパートナー契約を結んだ一方で、グローバルスポンサーとなった企業も少なくない。しかし、日本側に利益を還元できる仕組みが作った事で、サッカーW杯や五輪では当り前だった事が、野球でも形になりつつあるのは、1つの前進とも言える。

 MLBの選手派遣もWBCの運営と同様に大きな問題がある。スター選手の相次ぐ不参加は、世界一を決める大会の権威を保つのは難しい。つまり、ドリームチームの実現なくして、”世界一決定戦”という認識が米国で浸透する筈もないのが現状だ。
 更に、放映権料も同時期の全米大学バスケットボール(NCAA)が1000億円近いのに対し、その1/10ほどの規模で主要な放送局での中継はない。故に、常に大会の存在意義が問われてきた。
 しかし、前回の初優勝もあってか、今大会は大手FOXTVが米国での独占放映権を獲得し、地上波やネットにより全米で簡単に視聴が可能となった。また、トラウト(LAA)が早々と主将として参加を表明し、若きスター選手もそれに続いた事で、米国内での注目も高まってはいる。事実、アメリカが日本に敗れた後の酷しい野次がそれを物語る。

 WBCはW杯になれるのか?
 1930年に始まり22度開催の歴史を持つサッカーW杯や1896年にスタートし夏季だけで32度開催の歴史を持つ五輪野球に対し、WBCは2006年に始まり今回でまだ5大会目。
 権威の面でもビジネス面でも、それらに追随していけるのか?
 確実に機運が高まりつつある中で迎えた今大会だが、日本が優勝した事で、更にその機運が高まるのだろうか・・・



6 コメント

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Unknown (aki)
2023-03-26 20:17:27
日本有事危機と中国の国防動員法の怖さを、恐縮ながら今どうか皆様に知って頂きたいです

日本存亡に関わる台湾有事危機が高まる中、
隣国が望む改憲阻止の為、中韓と連携し野党メディアが倒閣へ扇動をかける状況にどうか気付いて頂きたいです(09年は扇動が成功)

国防妨害一色の、メディアが全力で守る野党は、北と韓国政府から資金投入の朝鮮総連、殺人の革マル等反社勢、大炎上中のcolaboとの連携は一切報じぬ裏で、

中朝は核の標準を日本に向け、尖閣への侵犯を激化、進行形で侵略虐殺を拡げる中、有事の際、外国勢の国防動員法に対抗出来ぬ現憲法では、

多くの日本人を銃殺した韓国の竹島不法占拠、北の日本人拉致、中国の尖閣侵犯にも、9条により日本は国を守る為の手出しが何一つ出来ない事が示しています。

中韓の間接侵略は、野党が法制化を目指す外国人参政権や日本人のみ弾圧対象ヘイトスピーチ法、維新道州制等、多様性と言う"中韓の声反映"に進んでおり、

野党メディアが09年再現へ世論誘導をかける今、中韓浸透工作は最終段階である事、
日本でウクライナの悲劇を生まぬ為、一人でも多くの方に目覚めて頂きたいと切に思っております。
長文、大変申し訳ありません。
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Unknown (象が転んだ)
2023-03-27 11:26:33
はじめましてです。
最悪の事態にならない事を願うだけですね。
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読売とアジアンリーグ (腹打て)
2023-03-27 13:55:23
パリーグならアジアンリーグに加盟するメリットはあるかもしれないだけど
セリーグは読売が主導する日本で独立したリーグ構想というものがあるかもしれない。
中国はともかく、パリーグが主導する形でまずは韓国と台湾を加えたアジアンリーグを作るべきだろうな。
もし成功すれば、オーストラリアや中国も視野に入れる。
でも今の日本のスポンサー力からすれば、成功の確率は高くはないと見る。
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腹打てサン (象が転んだ)
2023-03-27 17:03:01
そ~なんですよね。
日本も今は経済力もないし、スポンサーがつくかどうか・・甚だ疑問です。
韓国メディアは大負けしても、結構盛り上がってますが、台湾も一時の勢いがないですね。
WBCも大会期間が短すぎて、世界的イベントには程遠いですが、負けたアメリカチームは少し気の毒でした。
せめて決勝は3試合制で決着を見たかったです。
貴重なご指摘ありがとうです。
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85億円の男 (tomas)
2023-03-30 14:36:23
大谷の今季の総収入はMLB史上最高額の85億円に達すると予想されてます。
年俸が39億でスポンサー料が46億円。
名実ともにメジャーNo.1の存在になりました。
WBCの放映権を牛耳ってたFOXも最初から大谷が目当てだったんですよ。MLBのオールスターなんて今や誰も見ませんから
メジャーで3度MVPに輝いたトラウトも昨季のHR王のシュワーバーも大谷に比べると地味でした。
ここまで来ると野球選手が金融財閥になるって感じですかね。 
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tomasさん (象が転んだ)
2023-03-30 15:31:58
過去2年間の活躍からして、妥当な稼ぎでしょうね。
でも時代遅れのスポーツにしては、大物メジャーの年俸が高すぎるとも思うんです。

ただ、今年の大谷は動きに少し陰りが見えるような気がします。
過去2年間のニ刀流ではいい意味で裏切ってくれましたが、この3年目、期待と不安が入り交じるシーズンとなりそうですね。
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