象が転んだ

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「ABC予想」がとうとう証明された(前半)〜前人未到の超難問に挑んだ日本人数学者〜

2020年04月08日 05時40分31秒 | 数学のお話

 ブログ友のコメントで、21世紀の超難問の1つである”ABC予想”が証明された事を知った。それも日本の数学者が、である。
 ”ABC予想”というのは聞いた事はあったが、中身は全くだ。超のつく数論嫌いの私としては、目と耳を覆いたくなる。
 そうでなくとも、世界の著名な数学者でも背を向けたがる様な難題に挑戦し、証明に漕ぎ着けた京大•望月新一教授には、同じ日本人として、そして一数学ファンとして、その勇気と誠意と卓越なる才気に、神の領域を超える賞賛を送りたい。
 そこで、この21世紀の超難問「ABC予想」について語りたいと思います。当然長くなりますので、2回に分けて紹介です。


”ABC予想”って?

 そこでまず、”ABC予想”ってなんなの?って事になるが。予想自体はリーマン予想やアインシュタインの相対性理論みたいに、とても単純なものだ。
 A+B=Cを満たす、互いに素(1以外に共通の約数を持たない)な自然数の組(A,B,C)に対し、互いに異なる素因数の積をDと表すと、任意のε>0に対しC>D¹⁺ᵋを満たす組(a,b,c)は、積abcを除き、高々有限個しか存在しない”

 例えば、3つの数の組が(2,7,9)の時、2+7=9を満たし、d=2×7×3=42より、だから1+ε>1の範囲で累乗すると、その積はcよりも大きい。
 こういう数の組が圧倒的に多いが、(1,8,9)の組では1+8=9を満たし、d=1×2×3=6となる。このd=6をκ=1.2として累乗した積は9よりも小さい。故に、「ABC予想」は”稀にあるケース”(反例)という事になる。
 現在、κ>1.6となる数の組は3個だけ見つかってるが(1.5<k<1.6は2個)、κ>2なるものは見つかっていない。
 因みにc<10¹⁸にて、κ>1.2では24013個、κ>1.1では449194個らの、合計2310万個の組が発見されてる(2012/9現在)。

 このABC予想(オステルレ=マッサー予想)は、1985年にジョゼフ・オステルレとデイヴィッド・マッサーにより提起された数論の予想だ。これは多項式に関する「メーソン•ストーサーズの定理」の整数における類似であり、"互いに素であり、かつ a+b=cを満たす様な3つの自然数a,b,cについて"予想したものです。因みに、a,b,cの組を"abc-triple"と呼ばれます。 

 ABC予想は、この予想から数々の興味深い結果が得られる事から有名になった。つまり、数論における数多の有名な予想や定理がこの予想から直ちに導かれる。
 ドリアン・ゴールドフェルドはABC予想を、”ディオファントス解析で最も重要な未解決問題”であるとした(1996)。
 因みにディオファントス解析とは、ある数(実数)を別のより単純な構造を持つ数(有理数など)で近似する方法を研究する数論の一分野で、数論の最も難解な未解決問題と言ってもいいですね。

 そこで2012年8月、京都大学数理解析研究所教授の望月新一氏は、ABC予想を証明したとする論文を発表した。望月氏は、証明に用いた理論を宇宙際タイヒミュラー理論(IUT理論)と呼び、スピロ予想とヴォイタ予想の証明などを含む応用を必要とした。
 因みにスピロ予想とは、楕円関数の判別式に関する予想で、”弱い”ABC予想とも呼ばれる事があります。
 故に、望月氏の論文は専門家にとっても難解である為、査読は難航したが、5年越しの2017年12月、専門誌に掲載予定である事が報道された。そして今回、2020年4月3日に査読を通過し、(京大の)専門誌「PRIMS」に掲載される事が決定した。
 以上が、大まかな「ABC予想」の概略です。
 

本当に完全証明できたのか?

 京都大学は3日、”数学の未解決難問「ABC予想」を証明した”とする望月教授の論文が専門誌に掲載されると発表した。
 故に京都大は、”論文の正しさが証明された”と説明してるが。ただ数学の難問は、論文掲載後数年かけて、世界の数学者の検証を受けて初めて証明されたとされる。
 つまり、論文発表から約7年半、本格的な証明に向けたスタートラインに立った事になる。
 以下、”数学の超難問ABC予想、京大教授が証明”から一部抜粋です。

 前述した様に、ABC予想は1980年代に欧州の数学者らによって提唱された理論。整数AとBと、その2つを足し合わせた整数Cの間で、それぞれの素因数を考えた際、ある特別な関係が成り立つ事を示す。
 整数を扱う数学理論の分野では、”最も未解決の難問”ともいわれる。

 望月教授は2012年8月、4本の論文をネット上に公開した。この論文により、ABC予想など複数の難問を証明できると主張し、世界の数学界の注目を集めた。
 ただ、飛躍しすぎたこの新しい理論(いや、宇宙理論)を理解できた数学者は世界で数少ないとされ、査読には時間がかかった。
 前述の様に望月教授の論文は、京大数理解析研究所が編集する「PRIMS」の特別号に掲載される予定だ。

 ただ世界の数学者の間では、”完全に証明”とはなってはいない。
 2018年に「数学のノーベル賞」といわれるフィールズ賞を受賞したピーター•ショルツ独ボン大学教授は、”論文は証明になっておらず、今回の論文が受理されたと聞いて驚いてる”と語る。別の数学者も”論理に飛躍がある事は複数の数学者が指摘してきたが変わっていない”と釘を刺す。

 解決に350年以上もかかった「フェルマーの最終定理」や世紀の難問といわれた「ポアンカレ予想」では、複数の数学者チームが検証した上で証明との結論が出た。
 つまり、望月教授の論文の検証手続きはこれからで、世界の数学者が認めるにはまだ時間がかかりそうだ。
 因みに、グレゴリー•ペレルマン(露)が解決した”ポアンカレ予想の証明”には、査読に1年と検証に2年掛ったとされる。そのペレルマンもネット上に公開した論文が噂を呼び、3つの研究チームの検証により、完全証明に至った。
 ペレルマンは、”自分の証明が正しければ賞は必要ない”と、フィールズ賞を辞退した。

 以上、日本経済新聞からでした。


突然現れた謎?そして望月氏の登場

 2015年12月初旬、3年間に渡り注目を集めていた”ミステリー”の新たな進展を目当てに、オックスフォード大学に世界中の数学界の目が向けられた。
 "ABC予想を証明した"と噂された望月新一教授の研究のカンファレンスが行われた。  
 彼は2012年8月に難解かつ重要な4本の論文を発表し、それを”宇宙際タイヒミューラー理論(IUT理論)”と称した。論文には、整数論において未だ解かれてない超難問の1つ「ABC予想の証明」が含まれてた。
 以下、”異世界から来た論文を巡って”から抜粋&編集です。

 望月教授の主張する証明は、数学界に対する前例のない独特な挑戦であった。彼は20年近くの歳月をかけ単独で研究を行い、この”IUT理論”を構築した。だが、彼が発表した4本の論文はほぼ理解不能な上に、500頁を超える論文は全く新しい形式で書かれ、多くの新しい用語や定義がなされていた。

 より問題が深刻化したのは、望月教授が日本国外での講演依頼を全て拒絶していた為である。故に、論文を読み解こうとした数学者の大半がこの新たな理論を理解できず、諦めてしまう事になる。
 それから3年もの間、この新しい理論はずっと放置されたままだったが。ついに15年12月、オックスフォード大クレイ数学研究所に世界中から高名な数学者たちが集まった。
 望月教授の理論を理解する為に”最大の試み”が行われたのだ。オックスフォード大の数学者キム•ミヒョンと、このカンファレンスの3人のオーガナイザーによれば、ついに“機が熟した”のだ。
 ”私や望月も含め、皆もう待ちきれない。数学界の誰かしらが行動を起こす責任がある”とキムは語った。


大半の数学者が諦めた論文とは?

 カンファレンスでは、3日間の予備講義と2日間の”IUT理論”に関する講演が行われた。
 勿論、ABC予想証明の根拠となるとされる4本目の論文に関する講義も含まれてた。
 しかし実は、望月教授の主張する理論の解明を期待して参加した者は殆どおらず、その研究がどの様なものかをまず把握する事を期待した人が大半だった。
 多くの参加者らは、望月氏の証明に更なる研究対象となる新しいアイデアが含まれてるかどうか?を単に確かめたかっただけであった。
 この”IUT理論”に関しては、「宇宙と宇宙をつなぐ数学(加藤文元著 角川書店)」をお薦めです。因みに、私も借りて読みましたが、サッパリでした(悲)。

 「ABC予想」とは、単純な等式”A+B=C”を満たす3つの自然数A,B,Cに関し、3つの数の関係を説明するものだ。
 3つの数字が互いに素である場合、A,B,Cの互いに異なる素因数の全ての積を、1よりも僅かに大きい値(1+ε、例えば1.001)で乗じた結果は、有限個の3つの自然数の組み合わせを除いては、Cより大きくならない。
 また、この様な”例外的”な組み合わせの数は、素因数の積を乗ずる時の値に依存する。

 この自然数同士の”和”と”積”という一見無関係な値の間に、”予想外の関係性”が見出される事をABC予想は仮定してる為、整数論を大きく進展させる可能性がある。
 つまり数が3つの場合、AとBの素因数がCの素因数を制限するという明らかな理由はないのだ。
 ここら辺が数論のとても厄介な所ですね。当り前の様で当り前ではない。数論を解析に融合させたリーマンや、数論を群論で表現しようとしたガロアの偉大さが身に滲みます。

 実は、望月教授が論文を発表する2012年まで、1985年に提起された”ABC予想の証明”は殆どなされてこなかった。
 だが、このABC予想が数学における別の大きな問題と絡み合ってる事を数学者たちは早くから理解していたのだ。
 例えば、ABC予想が証明される事で、整数論によって導かれた従来の結果は大幅に改善される。

 1983年ゲルト•ファルティングス(独)は、特定の法則をもつ代数方程式には有限個の有理解しかない事をしめす「モーデル予想」を証明し、更にそれを発展させ、86年にはフィールズ賞を受賞した。これは「ファルティングスの定理」と呼ばれてる。
 その数年後、ハーヴァード大ノアン•エルキーズにより、ABC予想の証明によってそれらの方程式が解ける事が示された。
 ”ファルティングスの定理は素晴らしい定理ですが、有限解を発見する方法は提示されていない。故に、ABC予想が正しい形で証明されれば、「ファルティングス定理」が拡充される事にもなる”とキムは語る。


最後に

 少し長くなったので、今日はここでオシマイです。とにかく数論は数学の中でも非常にややこしい分野で、書いてて混乱しまくりです。

 かつて”数学の巨人”と称されたガウスが、「フェルマーの定理」を解決する様に友人から誘われた時、”反例を挙げれば証明はできるさ、でもそれはケチをつけるやり方に過ぎない”と言って、証明を避けたという。
 しかし、悲しいかなフェルマーの最終定理は、ガウスが嫌う背理法によって解決されたのだ。

 次回は、望月教授の論文のこれからについて書きたいと思います。



7 コメント

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まだまだ先が (#114)
2020-04-08 07:40:57
あるんだな
でもここまで来て
ヤッパリ解決出来ませんでした
って事はないだろうから

身内の刊行誌で発表するという事は
京都大学主体で検証を行うのかな

アーベルもヤコビも
クレルレの数学誌のお陰で
あれだけの存在になったから
本当はもっと著名な刊行誌に
載せたかったろうね

でもIPS細胞のコボ方晴子さんの
偽論文で日本のイメージ悪いから
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#114さん2 (象が転んだ)
2020-04-08 09:29:31
本格的な証明への大きな前進と言えますね。
様々な指摘もありそうですが。
長年誰もが取り組もうとしなかった難問だけに、理解に時間は掛かるかもですが、そういう意味においてはフェルマーの定理とよく似てます。
フェルマーの最終定理の場合、難問というより誰もが背を向けた結果でしたから。

でも、今回のABC予想は宇宙論と数論が結びつく壮大なる論文のようですね。期待しましょう。
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未来から来た論文 (paulkuroneko)
2020-04-08 09:59:26
と呼ばれるほどに世界で理解できるのはも数人といわれる難解さだとか。発表から7年以上たった今でも十分に受け入れられたとは言えません。

ABC予想とは、整数の足し算と掛け算の間の密な関係を単に予想したものです。
足し算と掛け算を”対称群”の概念を使い、量的に自在に変形すれば、整数に関する諸問題を解決できるのではというコンセプトでもあります。

つまり整数論を群論を繋ぎにし、代数学の上に立脚させる事で、普通の足し算や掛け算が成立する世界とそうでない世界を繋ぎ合わせ、整数論を拡張したパラレルワールドと捉えれば解りやすいですね。
その折に”宇宙際”という概念が加わる訳ですが、そこら辺が理解に苦しむんでしょうか。
 
何だか解ったようで解かんないような補足で失礼します。
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宇宙際タイヒミュラー変形 (UNICORN)
2020-04-08 11:01:24
従来の数学は一つの世界(宇宙)で行われてたが、IUT理論(宇宙際タイヒミュラー理論)では複数の数学の世界が存在する。

つまり、足し算と掛け算がもつ”正則構造”を一旦分解し足し算を固定したまま、掛け算だけを伸び縮み”タイヒミュラー変形”させ、それを”対称性の群”を使いテータをリンクさせ相手方の宇宙に伝達し復元させる。

その復元の手段として”遠アーベル幾何学”を援用する。群の言葉に翻訳された対象を復元する際に生じる”ひずみ”を定量的に計測&評価する手段がある。

このIUT理論に較べれば、”ABC予想”はその一適用例に過ぎないと語られてるが、”ABC予想の解決”だけでも非常にインパクトがある凄い結果なのだ。
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paulさんとUNICORNさんへ (象が転んだ)
2020-04-08 12:08:05
二人纏めていきます。

IUT理論とは、Inter-universal”タイヒミュラー”Theoryの事ですかね。オズワルド•タイヒミュラー(1913-1943)とは、ドイツの数学者で”タイヒミュラー空間論”で有名です。

簡潔に言えば、掛け算と足し算を分離する為に、”環”をベースにした理論ですね。

ABC予想自体は、素数や素因数分解を知ってれば簡単に理解できますが。ABC予想内の自然数の足し算的性質と素因数分解の掛け算的性質との組合せが証明を困難にしています。

専門的用語には、「p進タイヒミュラー理論(正則構造変換理論)」や「遠アーベル幾何学(複雑な群により図形を復元する幾何学)」や「ホッジ-アラケロフ理論(楕円曲線の深遠な構造の理論)」などが出てきます。勿論、私わかりません(悲)。

掛け算と足し算を分離する為に、2つの数学的舞台(宇宙)を考えるとあるが。具体的には、足し算を固定し、掛け算だけを"伸び縮み"させる(タイヒミュラー変形)ですね。これは1つの舞台では実現出来ず、もう1つの舞台が必要です。
この2つの舞台には情報共有(データリンク)が必要で、これを対象性の群(環)を用いた通信で対処します。IUT理論の肝は、この”群を用いた対称性通信で2つの舞台のの壁を越える”事です。
しかし、数学における通信の意味及び群が2つの数学を自在に行き来出来る理由の説明が、大幅に欠如してるとの指摘もありますね。

これこそがIUT理論が良い意味で飛躍してると称賛され、悪い意味では理解不能とされます。一部には説得力がないとの声も聞かれますが。

判りやすく言えば、”堅苦しい世界の”整数論を対称性の群(環)を繋ぎにして、”抽象的な世界の”代数学と結びつけ、2つの世界を行ったり来たりさせるんですが、世界の数学者はどう見るんでしょうか。

貴重なコメントととても有難いです。
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凄い発見なのはわかるけど (腹打て)
2020-04-08 14:48:07
リーマン予想とよく似てて、リーマンも素数公式(素数定理の強い証明)の発見の途中にリーマン予想がある。素数公式はリーマン論文の発表後40年ほどでアダマールやマンゴルドにより証明された。しかしその途中にあるリーマン予想は未だに解決してはいない。

宇宙際タイヒミュラー理論も同じようなもので、その途中にABC予想がある。ただこの2つの理論は突飛なものでどんな数学者も関わろうとはしなかった。
一方でリーマンの素数定理の方は誰もが血眼になって追いかけた。リーマン予想なんて、素数公式が証明されればすぐに解決できるとされた。しかしうまく事は運ばなかった。それでもその過程で数多くの重要な事が発見され証明されたんだ。

俺的にはタイヒミュラー理論とABC予想は切離して考えたほうがいいと思うけど、突飛な理論が凄い理論だと安易に決めつけるのも少し危険すぎると思うね。
だってアダマールやマンゴルドがリーマン予想の解決なしに素数定理を証明したように、タイヒミュラー理論なしにABC予想を証明する事も不可能じゃないんだから。

「宇宙と宇宙をつなぐ数学」の著者の加藤教授によれば、ガロアやリーマンに匹敵する理論とベタ褒めだが、だったらもっと多くIUT理論に紙面を割いてほしかった。

結局、日本だけで大騒ぎしてるようで少し心配なんだが。転んだサンに言わせれば、何でアーベルは出てこないんやって怒鳴られそう。
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腹打てさん (象が転んだ)
2020-04-08 17:41:04
別世界の対称性通信によって生じる不定数やひずみを元の世界に戻し、定量的に評価する事で不等式を導く。つまり、定量的に評価して正解を出すという新構造がIUT理論だと言えば、ロマンをも感じますが。
でも実際にはどうなんでしょうか?

夢を持たせるのが数学なら、失意のどん底に突き落とすのも数学です。
加藤文元教授とあろう人がアーベルを忘れるなんて、クリープを入れないコーヒーって事か。

コメントとても有難いです。
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