象が転んだ

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加法の交換法則〜2+3=3+2は、果たして当たり前と言えるのか?

2021年09月11日 12時41分01秒 | 数学のお話

 「数の基本」では、”2+3=3+2”という当たり前の命題を数学的帰納法で証明しました。
 しかしこれには厳密には不足の部分があり、完璧な証明が「数の概念」の第1章に書かれてました。
 そこで今日は、”加法に関する交換法則”を厳密な形で証明しようと思います。
 サイトでは、いろんな証明の仕方が紹介されてますが、どれも完璧とまでは言えません。
 先日の「数の基本」で紹介した奴も、加法の定義の部分で少し曖昧な所があります。
 別に間違いでもないんですが、ここは「数の概念」の著者の高木貞治氏のやり方を見習って、”完璧”に拘りたいと思います。


加法における交換法則の存在定理

 まず、φ:N(整数)→N(整数)なる1対1対応(写像)を考え、x⁺=φ(x)をxの関数と見なします。
 因みに、”x⁺”とは整数Nの”順対応”を表し、各点xの右隣の点x⁺がφにより対応する点φ(x)とする。つまり、右に延々と続くこれら点列は整数の集合Nとみなす事が出来る。
 図で示せば、・→・→・・・→となりますね。 

 そこで、x⁺=φ(x)からφ(φ(x))=φ(x⁺)=(φ(x))⁺が成立しますが、これを簡単にしたF(x⁺)=F(x)⁺ー①の条件を満たす関数Fを考えます。
 関数Fを確定する為に、整数Nから任意に1つの数を取出し、それを記号0で表し、加法の基準にする。そこで、aを任意の数とし、付帯(初期)条件:F(0)=aー②とする。
 故に、0⁺=1、1⁺=2、・・・とする時、①により、F(1)=F(0⁺)=F(0)⁺=a⁺となり、F(1)=a⁺、F(2)=(a⁺)⁺、・・・と、Fの値が次々と決まる。

 そこで、F(x)の条件①②を用い、x+aという和(加法)の定義を試みます。
 F(x)はaにも依存するので、Fₐ(x)とかける。
 Fₐ(x)の基本定理として、①②からFₐ(0)=aFₐ(x⁺)=Fₐ(x)⁺ー③の2つの条件に適応するFₐ(x)が一意的に決まる。
 この基本定理の証明ですが、
 仮にF(x)とG(x)が③に適応するならば、F(0)=G(0)=aとなる。
 今、F(x)=G(x)なるxの集合をMとすると0∈Mより、Mは空でない。また、x∈MならばF(x)=G(x)だが、仮定からF(x⁺)=F(x)⁺とG(x⁺)=G(x)⁺より、F(x⁺)=G(x⁺)。
 故にx⁺∈Mとなり、M=Nとなる。
 つまり、全ての数xに対し、F(x)=G(x)が成立。これは(解の存在を仮定しての)一意性の証明となります(証明終)。

 次に、Fₐ(x)の存在の証明ですが、a=0の時のF₀(x)=xと、a=1のF₁(x)=x⁺は明らかですね。
 そこで、aに関する帰納法を使い、Fₐ(x)の存在を仮定し、Fₐ₊(x)の存在を証明します。
 これは、Fₐ₊(x)=Fₐ(x)⁺ー④となるより、④を使い、Fₐ₊を定義すればいい。
 実際に、Fₐ₊(0)=Fₐ(0)⁺=a⁺となり、まずは③の第1条件を満たす。
 また、④よりFₐ₊(x⁺)=Fₐ((x)⁺)⁺。Fₐ(x)の仮定より=(Fₐ(x)⁺)⁺。再び④より=(Fₐ₊(x))⁺。
 故に、③の第2条件を満たし、定理③を満たすFₐ₊(x)が存在する(証明終)。

 最後に”加法”の定義を、a,xからFₐ(x)を定める算法(加法)を”xにaを加える”とし、Fₐ(x)=x+aと書きます。
 F₁(x)=x⁺より、x⁺=x+1。
 また③④によるFₐ₊(x)=Fₐ(x⁺)=Fₐ(x)⁺を和の公式で書けば、x+a⁺=x⁺+a=(x+a)⁺ー⑤
 初期条件はFₐ(0)=a、F₀(a)=aより、0+a=a、,a+0=aとかける。
 以上の定義を使い、交換法則”a+b=b+a”を証明します。
 仮に、b+a=ψ(a)とおくと、ψ(0)=b。
 ⑤より、ψ(a⁺)=b+a⁺=(b+a)⁺=ψ(a)⁺。
 故に、定理③よりb+a⁺=(b+a)⁺の一意性が成り立ち、ψ(a⁺)=ψ(b⁺)⇒ψ(a)⁺=ψ(b)⁺よりψ(a)=ψ(b)となり、b+a=a+bが成立する(証明終)。 

 1対1写像と”順対応”の関数の基本定理と定義を1つ1つ証明し、最後に加法の定義”x+a”に結びつけ、基本定理の一意性を使う事で加法における交換法則を証明しました。
 考える程に恐ろしく抽象的なんですが、これも整数論の本質なんでしょうか。

 本当は、写像や関数の定義を使わずに、アルキメデスの原理と背理法を使っての簡潔な証明も紹介しようとも思いましたが、長くなりすぎるので今日はここまでにしときます。



9 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
unknownさん (象が転んだ)
2022-04-12 01:22:58
加法に関する関数の一意性
⇨その関数の存在の証明
⇨加法の交換則の証明
と、流れ的には単純に思えますが、殆どのサイトでは最後の交換則を数学的帰納法で証明してるのだけを紹介してます。

でも一番最後は一目瞭然なんですが、最初の関数と一対一対応ってのがミソなんですよね。
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Unknown (unknown)
2022-04-11 17:14:45
先ずは
加法の定義を一対一写像を使って
関数を一意性を定義し
その加法の関数の存在を帰納法を使って証明する。
そのあとに
加法(関数)の交換法則をその初期条件を使い、数学的帰納法で証明する。

要するに数学は一見単純に見える事も単純じゃない。
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Hooさん (象が転んだ)
2021-09-15 13:20:26
整数論は数学の基盤ですから
いくら苦手と言っても、全く無視は出来ないですよね。
でも嫌々ながらでも取り組んでみると、色んな発見や驚きがあり、悪魔の学問も悪くはないかな?
コメントなかなか冴えてますね。
感心!歓心!
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数論は苦手 (HooRoo)
2021-09-15 10:51:26
って言ってませんでしたっけ?
でも最近は数論に凝ってません?
悪魔の学問も
色んなトリックが散りばめられ
成り立つのかな
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腹打てサン (象が転んだ)
2021-09-14 16:59:34
わざわざわかり易く解説して頂き、
何とお礼を申し上げていいのか。
高木貞治氏の凄い所は、できるだけ数学的帰納法を使わずに、1対1写像と一意性の定義から関数の存在を示し、その関数を+という記号を使った和算に結びつける所が憎いですよね。
振り返るほどに素晴らしい証明の仕方だと思います。
そういう私も最初は数学的帰納法であっさりと証明できると踏んでたんですが、実際には全然違いました。これには恐れ入りましたね。
コメント有難うございます。
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訂正 (腹打て)
2021-09-14 12:57:15
一番最後は
高木貞治氏が正解です。
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関数と1対1写像 (腹打て)
2021-09-14 12:31:33
大半のサイトがm+nを和の定義として、いきなり扱ってるけど
高木貞治氏はx⁺の定義から始めたんだよな。
x⁺とは、xのすぐ右隣の点(整数)の事だけど、殆どの人はx⁺=x+1とみなし、x+nを数学的機能法で証明しようと試みる。

でもそれではあまりにも暴挙というものであって、
まず、x→x⁺=φ(x)の1対1写像を考え、φ(x)=x⁺と関数φを考える。
この関数φの値は1対1写像により一意的に存在するけど、2つの初期条件が絡み、単純に数学的機能法でとはいかないだよね。

証明には、φ(φ(x))=φ(x⁺)=φ(x)⁺の存在を示すんだけど、初期値に0と任意のaを使うから、φ(x⁺)をF(x⁺)=F(x)⁺に置き換える。すると、初期条件のF(0)=aより、F(1)=a⁺、F(2)=(a⁺)⁺、、、F(n)=aⁿ⁽⁺⁾の形になるから、Fₐ(x⁺)=Fₐ(x)⁺と変形できる。
ここでFₐ(0)=aを初期条件とし、Fₐ(x)の存在を仮定し、aに関する機能法を使い、Fₐ₊(x)の存在を証明するんだよな。
ようやくここで、xとaとFₐ(x)を使い、加法の記号を使って、x+a=Fₐ(x)が和の定義ができあがる。

殆どのサイトはここから以降を証明してんだけど、整数論を厳密に歌えば、ここまでややこしくも抽象的になるんだよな。
高木停止氏と転んだくんにカンパイ!
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tomasさん (象が転んだ)
2021-09-11 17:22:22
数学の世界では、”明らか”って言葉をよく使いますが、これを証明するのが異常なまでに厄介なんですよ。
1+1=2なんて数学的帰納法で簡単じゃないかって思ってましたが、全く勘違いしてました。
これこそが整数論の末恐ろしさですね。
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当たり前って (tomas)
2021-09-11 15:55:24
当たり前じゃないんですね。

大谷もなに食わぬ顔で二刀流やってますが
当たり前じゃないんですよね。
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