”望月教授とタイヒミュラー理論”でも少し述べたんですが、「ABC予想」と「フェルマーの最終定理」の”蜜な関係”は、実際にフェルマーの定理を解いてみると判りやすいです。
そこで今日は、高校生でも解ける?多項式を使ったやり方で挑戦してみます。
「フェルマーの最終定理」と言えば、360年も証明されなかった、人類が生み出した超難題の一つです。
ピエール•ド•フェルマー(1601−1665)が予想した定理で、この定理もラマヌジャン予想がなかったら、リーマン予想と同じく、未だに証明されなかったろうとも言われてます。
因みに、このフェルマーの(最終)定理を証明した人が、アンドリュー・ワイルズ(英 1953−)で、1995年に証明がなされました。
さてと、フェルマーの定理とは、皆さんもよくご存知だとは思いますが。”nが3以上の自然数で、a、b、c(>1)が互いに素な整数ならば、aⁿ+bⁿ=cⁿは成立しない”というものです。
但し、”互いに素ならばaⁿ+bⁿ=cⁿが成立しない”事は、別途証明が必要です。
丁度、「リーマン予想の今」(黒川重信 著)に簡単?な証明が載ってたので、紹介します。
高校生でも解る?多項式バージョン
まずこの証明を、複素数の多項式(ヴァージョン)に置き換えて考えてみます。
故に、”a(t),b(t),c(t)が複素係数の1次以上の多項式とする時、互いに素でかつn≥3ならば、a(t)ⁿ+b(t)ⁿ=c(t)ⁿは成立しない”となりますね。
因みに、1879年にR•リュービルという人がこのやり方で証明に成功してます。このリュービルという人は”リュービル超越数”などで有名なJ•リュービルとは別の人です。
但し、反例として、1ⁿ+1ⁿ=(ⁿ√2)ⁿがあるが故に、1以上の素なる整数という条件が付きます。
ここで、”a(t),b(t),c(t)が互いに素”とは、互いに割り切れないという事で、共痛恨を持たない事を意味します。
この証明ですが、a(t)の微分であるa’(t)=(a₀+a₁t+・・・+aₙtⁿ)'=a₁+2a₂t+・・・+naₙtⁿ⁻¹、a₁・・・aₙ:定数、を使います。
そこで、n≥3ならば、a(t)ⁿ+b(t)ⁿ=c(t)ⁿ―①と仮定し、この矛盾を導きます。
まず①の両辺を微分します。
na'(t)a(t)ⁿ⁻¹+nb'(t)b(t)ⁿ⁻¹=nc'(t)c(t)ⁿ⁻¹。
この両辺をnで割ると、
a'(t)a(t)ⁿ⁻¹+b'(t)b(t)ⁿ⁻¹=c'(t)c(t)ⁿ⁻¹―②
ここで①を、
a(t)a(t)ⁿ⁻¹+b(t)b(t)ⁿ⁻¹=c(t)c(t)ⁿ⁻¹―③と変形し、③×b'(t)−②×c'(t)を作り、a(t)ⁿ⁻¹とb(t)ⁿ⁻¹とc(t)ⁿ⁻¹に注目し、②と③の連立方程式を解きます。
すると、{a(t)b'(t)−a'(t)b(t)}a(t)ⁿ⁻¹={b'(t)c(t)−b(t)c'(t)}c(t)ⁿ⁻¹―④を得ます。
この両辺の{}内が0でない事は、もし0ならば、(a(t)/b(t))’=(a'(t)b(t)−a(t)b'(t))/b(t)²=0であり、a(t)/b(t)=定数となり、互いに素である事に矛盾する事から明らかですね。
互いに素とは、共通根がない(互いに割り切れない)事から、④よりa(t)ⁿ⁻¹は右辺の第1因子であるb'(t)c(t)−b(t)c'(t)を割り切る事から、a(t)ⁿ⁻¹d(t)=b'(t)c(t)−b(t)c'(t)ー⑤と書けます。
これは、A(=a(t)ⁿ⁻¹)がB(=b'(t)c(t)−b(t)c'(t))を割り切る時、割り切る多項式をD(=d(t))とすると、AD=Bとなる事から理解できますね。
ここで、⑤式の両辺の次数(degree)を比較し、矛盾を引き出すんですが。
ここでまず、⑤の両辺の次数を見ると、
(n−1)deg(a)+deg(d)=deg(a(t)ⁿ⁻¹d(t))=deg(b'(t)c(t)−b(t)c'(t))≤deg(b)+deg(c)−1、及び、(n−1)deg(a)≤(n−1)deg(a)+deg(d)から、n•deg(a)≤deg(a)+deg(b)+deg(c)−1<deg(a)+deg(b)+deg(c)を得ます。
bとcも同様に考えると、
n•deg(b)<deg(a)+deg(b)+deg(c)
n•deg(c)<deg(a)+deg(b)+deg(c)となります。
ここで補足ですが、a(t)の時と同様に、b(t)(=b₀+b₁t+・・・+bₙtⁿ)及びc(t)(=c₀+c₁t+・・・+cₙtⁿ)もその両辺の微分をとり、それぞれの連立方程式を解きます。
この導き出された結果から、b(t)ⁿ⁻¹とc(t)ⁿ⁻¹は共に、それぞれの右辺の第1因子を割り切る事から、b(t)ⁿ⁻¹e(t)=c'(t)a(t)−c(t)a'(t)、c(t)ⁿ⁻¹f(t)=a'(t)b(t)−a(t)b'(t)と書けますね。
故に、上記の2つの不等式が導き出せます。
これは、a→b→cの巡回性に注目すれば容易に理解できますね。
以上の3式を足すと、n<3となり、n≥3に矛盾する。故に、n≥3ならば、a(t)ⁿ+b(t)ⁿ=c(t)ⁿは不成立となり、フェルマーの方程式(多項式版)は成立しないから、フェルマーの定理が成立する(照明終り)。
この様に、整数論では厄介な予想も多項式に置き換えると、その次数(deg)だけを考え、多項式の和から不等式が導き出され、簡単に反例を引き出す事が可能になります。
ABC予想も同じ様に、複素数の多項式である楕円曲線に置き換え、不等式を導き、反例を引き出したんですね。
因みに、黒川重信教授によれば、「ABC予想」とは、a+b=cを満たす互いに素な自然数a,b,cに対し、cを積abcの素因子成分により”上から抑える”という不等式を導く予想だと語ってます。
つまり、望月教授のやり方は黒川氏が唱える”絶対数学”の一環で、数論における影響はとても大きいものとされます。
数論では困難なものも、上でやった様に関数体(有限体上や複素数体上)では困難を伴う事なく証明できますね。
リーマン面を使ったやり方
因みに、「代数幾何学」(河井壮一著 1979)のもう1つの多項式版のやり方はとても簡単です。
以下、”hiroyukikojima’s blog”さんのブログより紹介(中盤の辺りに載ってます)です。
まず、リーマン面の大雑把な説明ですが。リーマン面(の形)とは”円盤にg個の穴を開けた形状”となる。このgの事を専門用語で”種数”といいます。
一方数学的に言えば、リーマン面とは、代数曲線(2変数の多項式=0で定義される複素空間の曲線)とその特異点を解消した”非特異モデル”となりますが。ここは深く考えんようにです。
著者の河井氏は、種数の定義と性質を、”代数方程式→重複点での分岐→分岐被覆→多角形の張り合わせ→穴の個数”とわかりやすく説明されてます。
とにかく、”種数=穴の個数”と覚えてて下さい。変な意味じゃないですよ(笑)。
さてと、リーマン面を使った証明ですが、河井氏は僅かに9行で済ませてます。
”f(t)ⁿ+g(t)ⁿ=1(n≥3)”を満たす定数でない有理式f(t),g(t)があったとして、その矛盾を導くというものですが。フェルマーの多項式版は、a(t)ⁿ+b(t)ⁿ=c(t)ⁿですから、両辺をc(t)ⁿで割り、a(t)ⁿ/c(t)ⁿ+b(t)ⁿ/c(t)ⁿ=1としたんですね。
そこでまず、xⁿ+yⁿ=1で定義される曲線C(リーマン面)を考えます。この曲線Cの種数(穴の個数)は、その定義により(n−1)(n−2)/2となります。
ここで、”(f(t)ⁿ+g(t)ⁿ=1(n≥3)”との仮定から、f(t)とg(t)はリーマン球面(複素平面に無限遠点を加え球面にしたもの)から曲線C(リーマン面)への正則写像、つまり、tの有理式でパラメーター表示できる。
この時、一般的な種数の公式を利用すれば、2−2×(リーマン球面の種数)=m×(2−2×(曲線Cの種数))−(分岐指数から1を引いた総和)が成立するべきだが、リーマン球面の種数は0だから、この等式は成立しない。
簡単に言えば、リーマン球面には穴がないが、曲線Cには穴があるのでこの等式は成立しない。故に、パラメーター表示する写像がある筈がない。
よって、矛盾が生ずるより、証明終わり。
最初の黒川氏の証明が、微分という解析的性質や多項式の約数や倍数という代数的性質に依存してるのに対し、河井氏の証明は、”穴が複数個開いた円盤”(リーマン面)の”形”、つまり位相幾何的性質に依拠している。
つまり数論とは、”モノの形状”から相当な情報を引き出せるらしい事が理解できますね。
望月教授のABC予想の証明も、全く同じ様な道どりを辿ってる事もよく理解できます。
最後に
どうしても抽象的になりますが、ガチの数論よりもモヤモヤとした幾何学や代数学の方が証明には適してんですかね。
現代思想 2016年3月の臨時創刊号「リーマン予想のすべて」の中で、加藤文元氏は以下のように述べている。
”リーマンは、関数を扱う上で非常に直観的です。複素関数論で球面上の正則関数は定数しかない。その意味では、リーマン球面上の関数は特異点の位置で決まる。
つまり、目で見て理解できる幾何学的な状況で関数を書こうした訳です。そして彼は、「関数は面と同じだ」と言った。リーマンには関数を本当に見えるものとして捉えようとしていた訳です(略)”
これと全く同じ事を、望月教授はやろうとしてる様に思えます。「ABC予想」というモノをハッキリと目に見える形で捉える。IUT理論をモノとして捉え、手で掴む様に解読する。
つまり、数学とはモノの形状なのかもしれない。
つまり数学はモノであるという事を古代ギリシャの哲学者は既に気付いてたんだろうか。
ガウスが驚嘆したのも頷けます。
数という絶対的なものを抽象的なものとして捉え、神学や哲学として発展させたんでしょうか。
ナイスなコメントどうも有難うです。
これこそがリーマンでしか解けない、リーマンのトリック。まさにリーマンショックですね。
とにかく、今は用心が第一ですね。
堅苦しい数式の中に散らばりつめられた宝石
数学はものというより宝石よ👅
見事な例えです。
”数学は美しい”というよりもずっと直感的で判り易いですね。
この絶対数学とは数学を1元体(=F1)という根底から考えたものですが、2元体(F2)が{1,0}の体として考えると少しは理解できるんだが。
望月教授のABC理論もF1の幾何学上の楕円曲線のモジュライ空間やF1上のフロベニウスの実現(ガロア圏にフロベニウス構造をつける)が重要となっている。
しかしこうした黒川教授のスケッチは我々凡人では簡単に理解できるのもではない。
余りにも求めるモノが高すぎるんですかね。コメントどうも有難うです。