象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

不可解な夢〜真夜中の訪問者”その123”

2023年02月11日 07時13分20秒 | 真夜中の訪問者

 夢の中で、私はとある駅のホームにいた。
 何処かで見たような田舎町の駅だったが、終電間際のホームには帰宅するサラリーマンなんて殆どいない。
 私は、ある任務を請け負っていた。
 花屋の奥にある5階建てビルの法律事務所へ行き、そこにいる弁護士を抹殺するという危険な任務であった。
 多分、分け前が良かったのだろう。手付金と銃で微妙に膨らんだ背広の両ポケットを気にしながら、線路に平行に渡る国道に沿って歩いた。

 何処かで見た様な景色だったが、具体的には思い出せない。
 目的の花屋がなかなか見つからず、一度駅の方に戻り、帰り支度をしてる駅長に道を訊ねた。
 ”裏道を通った方が明るいし安全だ。それに近いし、国道は暗くて最近は嫌な事件が重なってるから・・アンタも気付けた方がいいさね”
 駅長は微妙な警戒心を持つ事なく、親切に気さくに教えてくれた。

 裏道は思った程に明るくはなかった。しかし、花屋がなかなか見つからない。
 運良く、地元の住人と思しき初老の男がひとり歩いてたので、道を訊ねた。
 ”花屋はもう潰れちまったね。辛うじて古い看板だけが残ってるけど・・ここら辺も色々あって、移転したんだろう。嫌な町になったもんだ”
 私は軽く会釈をして、その場を後にした。
 ”目的地が分からなければ、仕事になんねーじゃないか。このまま手付金だけもらって逃げさろうか・・”


 そうこう思ってると、目的の弁護士事務所があるらしき5階建ての古く錆びついたビルに出くわす。
 ”こんなオンボロのビルに人が住めるのか・・”
 私は急に不安に苛まれたが、任務は任務である。仕事同様、忠実に冷酷にこなすしかない。
 真っ暗で街灯すらないような怪しい所だったので、よくは見えなかったが、花屋らしき錆びついた看板が確認できた。
 周りを注意深く見渡し、ビルの中へと歩を進める。崩れかけた案内板を見ると、4階まではスナックやクラブのテナントで占められ、5階に弁護士事務所があるらしい。
 エレベータなんて気の利いたものはなく、階段を1つ1つ上がっていく。勿論店は閉まってて、ビルの中は真っ暗である。
 4階まで上がると、階段は途絶えていた。裏口へ周り、非常階段を使って5階へと向かった。がしかし、分厚い裏口の扉には鍵が掛かったままである。

 私は(死体を締め付ける為に用意してた)ロープを屋上のネオンを支える金属製の柱に引っ掛け、よじ登る。小型のハンドガンを構え、屋上の中央に位置する斜め上に突き上がった天窓から事務所の中を何度も注意深く覗った。
 真っ暗で、それに誰かがいそうな気配は全くない。
 用心に用心を重ね、天窓の分厚そうなガラスに業務用のラップを貼り付け、銃の底で軽くガラスを叩き割ろうとしたその瞬間、何と窓が勝手に開くではないか。
 そう、最初から天窓には鍵は掛かってはいなかったのだ。
 拍子抜けした私だが、ロープを垂らし、銃を構え、事務所の中へと静かに降りたった。が、案の定、室内はガラーンとしてて、机も備品も何もない。当然、中には誰もいない。

 ”ハメやがった”
 少し動揺した私は依頼人に電話した。すると、伝言が入っている。
 ”アンタの忠誠心を試させてもらった。ロープも銃の使い方もまずは合格だ。ああ言い忘れてたが、途中で出逢った初老の男。あれが私なのよ”
 伝言はそこで終わっていた。


 私は誰もいない真っ暗な部屋の中で、ひとりポカーンと我を忘れている。
 すると、花屋の前に、けたたましいサイレンを響かせるパトカーがやって来た。
 "ヤバい、付けられてたのか・・"
 私はすぐに5階の事務所から飛び出し、トイレの中で黒いスーツを私服に着替えた。銃とロープともにバッグに入れ、ゴミバケツの中に放り込み、ビルを後にした。
 目の前には、3名程の警官が花屋の中へ入り、慌ただしく現場検証の準備に掛かっている。
 やがて数名の野次馬連中が群がってきた。
 私はこうしたドサクサに紛れ、(怪しまれない様にと)地元の住人を装い、何事もなかったかの様に警官に近寄る。
 ”何か事件でもあったんですか?”
 警官の1人がこちらに顔を向けた。
 ”ああ、これで4件目。決まった様にこの時間帯です。ここ数日、不審者がいないか聞きまわってたんですが、今回も裏をかかれたみたいで・・・”
 私は驚いたふりをした。
 ”まさか、連続殺人事件とかじゃ”
 ”そのまさかなんですよ”
 ”犯人の目星はついてんですか?”
 ”一応はね。でも状況証拠だけで、動機も証拠もない。こういうのが一番厄介なんだ。多分、プロの殺し屋を雇ってるんだろうね”
 ”駅長が言ってた嫌な事件とは、この事だったんですね”

 警官は改めて私の顔を確認する。
 ”失礼だが、アンタ地元の人?”
 ”いや、終電に乗り遅れて、タクシーを呼ぼうと待ってるんですが、中々捕まらなくて・・”
 ”ここは辺鄙な所だから、滅多にタクシーは通らないね。昔は目の前のビルが飲み屋街の中心だったから、そこそこは繁盛してたんだが、スナックで殺人事件が起きて、一気に過疎化しちまった。それからというもの、変な事件ばかりで・・”

 

 私は警官に軽く会釈をして、その場から離れた。他に警官がいないか周囲を注意深く確認し、ビルの裏口に回る。
 薄暗いトイレに潜り込み、スーツと銃とロープをゴミバケツから取り出し、予め用意してたリュックにしまい込んだ。ビルを後にする頃は、結構な群衆で賑わっていた。
 私は再び駅に戻るも、もう誰もいない。
 仕方なく国道沿いを歩いてると、運良くタクシーと遭遇する。
 タクシーを呼び止め、”近くに泊まる所はないか”と運転手に訊ねると、男は背を向けたまま微笑んでいるではないか。
 ”アンタのお陰で助かったよ”
 ”いきなり、どういう意味だ。アンタは誰なんだ?もしかして・・・”
 ”警察は黒いスーツのアンタを徹底的にマークしてたんだ。お陰で花屋の主人を簡単に仕留める事が出来た。今頃警察は何もないビルの中を必死に捜査してるだろうな”
 ”まさか、アンタがあの依頼人なのか”
 ”でも、手を汚したのは私の方だ。アンタは何もしちゃいない。囮になっただけで証拠も何も残っちゃいない”
 ”でも警官も駅長も私の顔は覚えてる筈だ”
 ”慌てなさんな。アンタにはアリバイがある。花屋の主人が殺された時刻には駅にいたんだからね”

 私がタクシーのバックミラーを覗こうとした時、夢から覚めた。


最後に

 実は、事務所に侵入した時までしか夢を覚えてはいない。
 それ以降のシナリオは、勝手に脚色したものである。人を殺さなかっただけマシな夢だったかもしれないが、駅をおりて国道沿いを歩いてた時、すでに嫌な予感がしていた。
 「とっても嫌な夢」といい「ミイラと薬物」といい、今年は何だか嫌な予感がするのだが、そう思うのは私だけだろうか・・・



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