曼珠沙華 あっけらかんと 道の端
夏目漱石の句です...
曼珠沙華は、何よりも血のようなその紅さ、その容姿、咲く場所、そして季節のせいでしょう、あるいは哀しく、あるいは恐ろしく、あるいは淋しく、あるいは妖しく...さまざまな思いを想起させてくれる花です。特に夕暮れ時に、西の空に傾きゆく陽の光りを受けて、畦に並ぶ沢山の緋い花が、いっそう赫赫と耀く姿は、何かこの世のものならぬ不思議な気配を辺りに漂わせます。
しかし、朝の爽やかな光りの中で見る姿は、とても可憐ですし、昼の強い日差しの中で見れば、意外なほどおとなしく、ポツンポツンと、むしろ控えめに咲いているように見えるのです。
漱石のこの句は、そんな控えめで、静かな佇まいの一瞬を、「あっけらかんと…」と見事に切り取って来ています。
妖しく私たちの心をかすかにかき乱すような不思議な魔力がかき消え、嘘のように楚々とした、呆気ないほど素直な素顔が垣間見得る一瞬です。
さて、妖しい魔法の気配を身に纏うのが、本当の姿なのか...それとも、あっけらかんと、何の神秘もなくひっそりと道の端に立つのが、本当の姿なのか。
漱石は、曼珠沙華の見せる意外な顔に驚きながらも、やはりその妖の世界の向こう側に、思いを馳せているのでしょうか...
思わしくない天候が続く中、曼珠沙華が今は盛りと咲きそろいました。