フツーの見方

フツーの論理で考えれば当然だと思うことが、なぜかマスコミでは出てこない。そんな意見を書き残しておきたいと考えてます。

FMチューナーはオワコンか KT1編

2021-03-22 | Weblog

Twitterの方に注力して、ずっと長文Blogを書いてなかったため趣味の記事でリハビリ始めてみる。Twitterと違い、延々修正が続き投稿までやたら時間掛かってしまった。

 昨年、長い間使ってきたFMチューナー(30T)から遂に音が出なくなってしまった。改めて調べた所、
・Technics ST-9030T '77頃発売 定価80K円
 幅450x高さ92x奥行370mm 7.0kg 歪率:0.08% SN:80dB(mono) 周波数帯域:20Hz~18kHz(+0.1 -0.5dB) Separation:50dB FM専用8連バリコン PLL方式MPX
(参考)オーディオの足跡 https://audio-heritage.jp/TECHNICS/tuner/st-9030t.html

確か数年落ちの現品処分を買ったと思うが、かれこれ40年も使ってきたことになる。日常BGMとして毎日ほぼ付けっ放し。途中でランプが切れ、SWも効かなくなったりしたものの誤魔化して使ってきたが流石に寿命か。
という事で買い替えを考えネットショップで探したら、今やFMチューナーの新製品はほぼ出ていないことにショックを受けた。もう音楽もコンポで聴く時代じゃないということか。量販店でも高級オーディオ製品はまず置いてないし、多数競合していた日本のオーディオメーカもほとんど撤退してるしなぁ。数十年でこんなに社会が変わってしまうとは。
しかしFM放送自体は自動車ではまだ必須な上、帯域も14MHz程度だから敢てデジタル化するメリットも小さく、当分は無くならないだろう。
それでオークションで探したら往年の名機が格安で多数出品されていた。ネット上でチューナーの調整法を公開している「ひろくんのホームページ」「BLUESS Laboratory」があり、調整すればまだ使えそうだ。
測定器はテスター位しか持ってないので完全な調整は無理っぽいが、失敗しても安いなら諦めも付くかという事で自前の調整に挑戦してみることにした。高価な測定器が無くてもこの程度の調整はできるという実例として記録を残しておきたい。

いくつか入札した内で TRIO KT-1010 が数千円で落札できた。出品写真でランプが点灯してないしボタンが一部欠損しているという事で人気が低かったようだ。趣味の品だから確かに外観も重要だ。しかし私の場合は実用重視だから問題なし。
ネットで調べた主要Specは、
・TRiO KT-1010 '83.11発売 定価59.8K円
 幅440x高さ64x奥行317mm 3.8kg SN:88dB 歪率:0.0095% Sep.:68dB 帯域:20Hz~15kHz±0.5dB 5連バリキャップ PLL検波方式
(参考)
オーディオの足跡 https://audio-heritage.jp/TRIO-KENWOOD/tuner/kt-1010.html
BLUESS Laboratory https://bluess.cocolog-nifty.com/labo/2015/07/trio-kt-1010-2-.html
ひろくんのホームページ http://nice.kaze.com/av/kt-1010.html

 なお以降の記事でも標準として、Specに関しては「足跡」、調整法に関しては「ひろくん」「BLUESS」各氏のHPを参考にして詳細は省略している。載っていないものに関しては私の調べた範囲での情報を記述している。

TRIOは元が通信機メーカーだったのでチューナーの評価は全般に高く、本機は中級機ランクの価格ながら高級機並Specで音質も高評価されていた。これの後継機 KT-1010F はオーディオ評論家の長岡鉄男氏が絶賛していたらしい。ちなみに 30Tも長岡氏が推奨してた記事を見て買った覚えがある。実際いい音だった。

さて到着時の状態は、AutoTuningが効き Sメータ感度も十分出た。しかし音はノイズ混じりで歪感あり、音楽鑑賞には全く適さない音質。
出品時のコメントではFM受信を確認とあったので嘘は無かった。ひろくんが繰返し記してる通り「10年も経てば必ず調整がずれている」と覚悟してたので音質もまぁ想定内。ということで調整実行。

チューナー調整に必要な工具類は、
・カバーを外すためのドライバー(主に太めの+)
・潤滑スプレー…堅くなったネジやコネクタの錆を落とすのに活躍。接触不良のスイッチにも有効。
・±100~200mVレンジのあるテスター…今や千円以下で買える。
・時計ドライバーセット…製品によってVR等のサイズが色々なのでセットが必要。本来絶縁型が望ましいが金属製でも大体間に合う。但し回路に影響を与える可能性もあり、調整のたびにドライバーを外して値の確認を繰り返す等ちょっと手間を掛ける必要がある。チューナー回路は全般に電圧低めだが一部は100Vが来てる部分もあるので感電には注意。最近100円ショップでコストダウン目的だろうけど軸をプラスチックにした絶縁型を売ってた。6本組で110円は買いだ。但し先端は金属なので場所によっては多少影響あり、外しての値確認は必要。
・コアドライバー…この時点では持ってなかった。後にRF部の調整で必要になり購入した。RFコアの穴は六角や四角と様々なので、現物を見てから選ぶか、絶縁型ドライバーも入っているセットを買った方がベター。セットでも数百円だし。
・FMトランスミッタ…セパレーションや歪調整に有効。しかしセパレーション調整はしなくても多くの場合問題はないと思うから必須ではない。私のは88MHz近傍しか出せないが、今調べたら2千円位で76-90MHzを出せる物もあるようだ。これならトラッキング調整にも使えるかも。12V電源も必要だが外付HDD等の使わなくなったアダプタがあれば利用可。
・ノートPC…WaveSpectraでスペアナ観測すると調整に役立つ。PCにLINE入力があればアンプのREC OUTからそのまま繋げば良いが、MIC入力しかない場合、普通はモノなので片chずつ差替えて観測する。ステレオミニプラグで両chを繋ぐとMICバイアス電圧がチューナーやアンプにかかるので危険。テスターで電圧測れば分かる。
・エアダスター…基板上に埃があると邪魔だしショートの危険もあるので清掃は大事。
・ピンセット…無くてもいいけど落とした部品やゴミを取るのにあれば便利。
・小型のLEDライト…基板上の文字は小さくて照明がないと判読できない。
・デジカメ…調整過程は逐一記録しておいた方が良い。
・部品交換もするならハンダゴテ等も必要だが、経験のない人は部品交換が必要なレベルの故障品はすっぱり諦めて別の獲物を探した方が早いかも。

さて、主にひろくんのHPを参考に、RF部は現状Okとみなしてスルーし、82.5MHzの放送を受信しながら IF段以降をいじってみた。調整してて再現性がないのでVRを色々回していたら段々と音が良くなってきた。今回は調整ズレというより、半固定VRがガリオーム化していたのが主原因だったようだ。
その後、FM同調点とPLL検波部のテスターで測れる箇所はHPの通りに調整。ただ、ひろくんの説明で WIDE GAIN の所はちょっと説明が不明瞭で、NARROWと同じ電圧になるようVR1を合せた。シンクロの必要な所は省略。VCOは回してステレオになる範囲のほぼ中央へ。
歪は計測できないので歪調整はとりあえずスルー。後から耳を頼りに暫くの間カバーを開けたまま放送を聴きながらチョコチョコいじって妥協点を探した。私見ではピアノのアタック音や女声のサ行の音がキレイに聞こえる様にするのが判りやすいと思うが、放送次第なので繰り返し調整ができないのが困りもの。自分で納得できるまで時間を掛けることが大事。耳で判別できない調整点は入荷時の位置か、VRならほぼ中央に合わせておけば当面は問題ないと思う。本機は基本的に高音質で調整点は製品Specをギリギリまで追い込むために付いているという感じだ。大体、歪が-40dBか-50dBかなんて耳では判らないだろう。
セパレーションは調整しなくても問題は少ないが、車内でMP3を聴くためにFMトランスミッタを既に持っていたので、L/R片chだけのMP3音源を作って、これを受信しながら反対側の音量が最小になるように調整した。数値は不明だが実用上十分。
後に WaveSpectraWaveGene というソフトでPCをスペアナや信号発生器にできることが分かり、1kHz信号の差から調整し直して50dB位取れる事が確認できた。
Pilot信号は当初無視したが、スペアナが使えるようになって19kHzピーク最小になるよう調整した。本機では VCOも19kHzに強く影響するので先にVCO調整をしてからPilot Cancel部の調整をしなけれなならないようだ。L/Rのバランスも重要で片chずつ結構根気がいる作業。最終的にPilot信号が -40dB近く漏れていたのを -60dB程度に改善できた。それでも私の耳はモスキート音が話題になった時にネットに流れた音源で19kHzどころか15kHzもほぼ聞こえなかったレベルなので、違いは判別不能だった。市販でも調整できない機種もあったのでスルーしても問題ないのかも。
WaveSpectraが使えるようになって高調波歪も1kHz信号を入れて2kHz以上の高調波が最小になるように調整すれば良いと判ったが、本機では元々-50dB以下だったので、私の環境ではそれ以上の調整は無理だった。耳での音質判定もそれほど間違っていなかったようで、あえてスペアナ調整までやらなくても十分満足行く音は聴けると思う。
なおAMに関しては一回だけ調整してみたが、私の所だと電波状態が悪くてマトモに受からないし聴くこともないので諦めた。

80年代製品だからケミコンは完全に耐用年数を超えてるが、現実にいい音が出てるから、まイイカの精神。一応目視で焼け気味に見えたケミコン1個を交換したが、換える前もしっかり音は出てたのでそのままでも使えそうだった。オーディオ全盛期の製品なので比較的良い部品が使われていたのかも知れない。無論ケミコン全部交換した方がいいに決まっているが部品代と交換の手間を考えると別の出品物を探した方が安あがり。という事でスルー。
 最後にカバーを閉める際、家電では主にタッピングネジが使われてるから角度が合ってないと固くて回らない事がよくある。無理に回すとネジ山を壊すので角度や場所を変えて極力スムーズに回る所を探す事が肝要。

以上、かなりイイカゲンな調整だと思うが、結果的に高SNで透明感のある素晴らしい音質になった。特に無音時の静かさが絶品で、吸い込まれるような静寂感には感激した。楽器の音もキレがあって分解能が高い。多分 30Tは気づかぬ内に相当劣化していたということだろう。
FMチューナーの音質は電波レベルでも大きく変わるし、当然アンプやスピーカーにも左右されるし、主観も入る。さらに中古だと部品の劣化具合も個体ごとに違うので、これがこの機種の音だ、と断定は難しい。でも複数のチューナーを聴き比べた結果、やはり世間の定評と同じ傾向の印象を受けたので、私の耳評価もまあまあいい線行ってるんじゃないかな~。
操作面でもシンセ式はバリコンに比べ選局が断然楽。もうバリコン式には戻れないな。以後、メイン機と設定し、KT1と略称で呼ぶ。
これが数千円とは申し訳無いぐらい。テスターしか持って無くても落札してTRYする価値はあると断言しておこう。人に渡すわけじゃなければ自己満足できれば勝ちだ。30年前の製品でもまだまだ使える。
FM放送は良いチューナーで聴けばCDにも負けない音が出るという事が確認できた。

 チューナーは部品の故障より調整ズレによる不調で出品される例が多い様だし、アンプに比べれば軽量かつ端子接続も少ないため作業しやすい。もう有力な新製品も出そうにないからオーディオ機器では特に実用的だと思う。
落札で狙うなら、寧ろ調整点の多い上級機の方が変化が独立してるので失敗が少ないと思う。Fコネクタ付の方が接続が安定で楽。できれば点検蓋の付いてる物の方が作業性が良い。
なおRF部の調整は非常にシビアで、ミスって放送が受信できない状態になってしまうと、まともな測定器がないと修復も難しい。
中古品の状態は千差万別だし、部品が壊れている場合には原因を見つけるにもかなりスキルが必要。なので音が出ない物は素人には無理筋で、最初は受信確認済と書いてある物を狙った方が良いだろう。
到着時に音がキレイに出ている様に思えても10年以上前の製品なら調整することでさらに良い音で聴ける可能性は高い。無論作業中にミスして壊しちゃっても当方は責任取れないので、授業料として許せる額で落札しよう。

 最近の中価格帯チューナーだと歪率0.2~0.5%なんて低Specで、全く買う気が起きない。この程度でも聴いて違和感ないのかも知れないが、FMは基本的にアナログなので音作りに力を入れていた時代の物と、この程度でいいやという製品とではやはり到達点も違うはずだ。だから中古品を再調整した方が良い音が聴けると思う。ま、最近のチューナー持ってないので実際に比較はしてないから断定はできないけれど。
なお最近の製品だとレシーバーアンプの様な小型複合タイプが増えてるが、中身がユニット化されてて調整不可な物もあるし、分解からして難しいと思われるので、中古落札では避けた方が無難。

 と、ここで満足していれば平和だったのだが、このKT1が中級機というなら上級機は一体どんな音なのか、と昔のオーディオマニアの虫が騒ぎ出してきて、チューナーコレクターへの道に嵌ってしまった。

 


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