黒砂台鍼灸あん摩治療院

鍼灸院の日常日記

鍼にエビデンスは有るのか?

2010-09-28 11:37:08 | 東洋医学について
医道の日本社刊の「鍼のエビデンス」を見ていただければ解りますが、すべての掲載論文でエビデンスが有るわけではありません。
確固たるエビデンスが取れたものは僅かで、どちらかというとエビデンスが取れていないとされる論文の数も多く、かえって眼につくほどです。
でもこれが非常に大切なんだと思います。
この書籍の元々の企画が全日本鍼灸学会雑誌から起きたという点を知ったときは感謝の念をいだきました。全日本鍼灸学会という組織がこういった批判論文すらも受け入れる度量を持っていたことに対して。そして治療家一人一人の質の向上を目指す組織としての働きに。

こういった批判的な論文に対して、「シャム鍼」の問題や「腕の差」等と批判や否定をするのは簡単ですが、無意味でかえって有害にもなりかねません。エビデンスが無かったという事実をまず受け入れその上で自分の治療や考えをもう一度キチンと見直す。そしてエビデンスを向上すべく努力することが最も大事なんです。
鍼灸師が自分に都合のイイことばかりを信じているようならば、鍼灸は医療ではなく宗教になってしまいます。
これはとても不幸なことです。
だからこそ「エビデンスが無い」「効果が無い」とした論文こそ治療家としての自分にとって大切だと思います。
同じ疾患や症状に対した治験でもエビデンスが有るとされたり無いとされたり、結構様々です。でも良い結果ばかりを取り上げていたら駄目だと思います。批判は批判としてきちんと受け止める、そう有りたいとも思います。

現状で治療院で鍼灸治療をエビデンスの確立されたもののみで行うことは、まず不可能です。
エビデンスの確立された領域はまだまだ僅かですし、治療院では鍼・灸・あん摩を組み合わせて行っていますから。でも自分の行っていることのエビデンスの有無やその内容を知っていることは大事だと思います。
はっきり言えば、効果のないとされる論文に目を通すのは苦痛でもあります。
でも鍼灸の可能性を信じる立場だからこそしっかり向き合いたいと考えています。

エビデンスの有無を問うことが治療の全てとは思いませんが、大事なことだとも思っています。
自己批判や再検証を行わない治療には進歩も無いのですから。
これは日々の治療でも同じ。キチンと自分なりの治療を確信を持って組み立てて、結果を冷静に検証する。そして次の治療につなげる事が大事。
西洋近代医学の勉強も、鍼灸古典の勉強も、治験論文や文献によるエビデンスの勉強も全て同じように大事なことです。至らぬ身が「上工」を目指す為にも。