黒砂台鍼灸あん摩治療院

鍼灸院の日常日記

臨床治験の基本情報について2

2010-09-24 11:45:41 | 西洋医学について
「鍼のエビデンス」(医道の日本社)で臨床治験のアブストラクトを少しずつ勉強しています。
この本の中では「治験のデザイン」「セッティング」「対象となる患者」「介入」「主なアウトカム評価事項」といった項目で共通して治験の抄録が掲載されています。
「治験のデザイン」については以前まとめてみました。今回は「主なアウトカム評価事項」ついて少しだけ書いていきます。

「主なアウトカム評価事項」というと難解に思えますが、大雑把に言うと「何を評価項目として治験を行ったか」ということ。
この設計は治験の根幹にも関わる部分になりますので正確に見ていく必要があります。

特に疾患に対しての治験である場合、当該疾患の「診断基準」と「主なアウトカム評価事項」がリンクしていなければ治験としてのエビデンスは下がります。

ちょっと例えとして正確では有りませんが関節リウマチを例にすると

ARA(アメリカリウマチ学会)の診断基準(1987年)(注 2009年に改定されています 後述)
 1 朝のこわばり(一時間以上持続する)
 2 多関節炎(少なくとも3領域以上の関節の腫れ)
 3 手の関節の腫れ
 4 対称性の関節の腫れ
 5 リウマチ結節
 6 リウマトイド因子(リウマチ因子)陽性
 7 レントゲン検査で典型的な関節所見
以上7項目のうち4項目以上を満たせば関節リウマチと診断される
(1~4の項目については6週間以上継続していること)


というような診断基準があります。
で、リウマチの治験を行ったとして、上記項目から大きく外れるような「アウトカム評価事項」を用いて治験を行えばエビデンスは低くなるわけです。
例えば「自覚的な痛みの緩和」というのを評価事項として「○○療法はリウマチに有効」とするのはエビデンスレベルが低いわけです。
論文や治験を読み込んでいく際には広く用いられている診断基準との比較が重要になるわけです。
診断基準の多くの項目で評価を行っていればエビデンスレベルは高くなります。
治験をきちんと評価するには「治験デザイン」とともに「主なアウトカム評価事項」が大事なポイントになってきます。

エビデンスレベルの低い治験論文では患者のスコア化されていない自覚的評価などで構成されているケースも多々見られます。

鍼灸の研究治験でもエビデンスレベルの低いものは多々有りますし、こればかり例として取り上げるのはどうかな?とも思うのですが最近読んだホメオパシーの論文にもこういった診断基準に沿わない研究論文が有ります。
日本未病システム学会雑誌に掲載された
難治疾患(発達障害、潰瘍性大腸炎、アレルギー、癌)へのホメオパシー応用のケース分析と有効性検証
と題した論文ですが、論文と称するのに疑問を呈するような内容です。
読んでもらえば判りますが、すべて一般的な診断基準に沿った判定は行われていませんし、第三者による判定でも有りません。
発達障害を取り上げていますが、広汎性発達障害なのかアスペルガー症候群なのか注意欠陥多動性障害なのかすら書かれていません。
そうなると患者(家族が)思い込んでいるだけの発達障害の可能性すら否定出来ないわけです。
潰瘍性大腸炎にしてもそうです。軽度なのか中度なのか重度なのかすらわかりません。ヘモグロビン値が改善したとありますが前後の数値は載っていません。
アトピーについても同じくレベルが低い。患者の主観、保護者の主観や写真に関係者の評価を入れ総合的に判定したなんて書かれていますが、科学的なエビデンスには一切つながらない内容です。
癌に至っては臨床使用を開始したという事のみ。

この内容で掲載した日本未病システム学会雑誌もどうかと思います。

このように治験を読み込んでいく際には、結果だけでは無く、その治験の「アウトカム評価事項」が適切なのか十分なのかを考える必要があるわけです。
ネットや新聞を見ても「○○が??という疾患に有効!」なんてうたい文句は多く見かけます。果たしてそれがどの程度のエビデンスを持っているのかをキチンと見て行かなくてはいけません。

注記に2009年の関節リウマチ診断基準改定についての注釈を書いています。
前記の1987年の診断基準しかご存じない場合は参考にでもしてください。
メトトレキサートの登場や生物学的製剤(抗体製剤や受容体製剤)など急速に変化したリウマチ治療に対応するための診断基準の改定になっています。



アメリカ並びにEUのリウマチ学会で2009年(2010年より使用)に発表された新予備診断基準です。
ACR/EULARの新診断基準(2010年)
 1 関節浸潤 (0~5点)
 2 抗体検査(RF または 抗CCP抗体) (0~3点)
 3 炎症反応(CRP または ESR) (0~1点)
 4 症状持続期間が6週間未満か (0~1点)
6点以上で関節リウマチと診断する。


専門医の先生方のHP等で見れば判りますが、この改定の大きな目的は診断の迅速化です。
予備診断基準として初期リウマチ段階でリウマチと診断できるようにし、メトトレキサートの使用を早めることで関節破壊を予防するための基準です。
過去の診断基準では判定に時間がかかり、その間に進む関節破壊の問題が指摘され続けていました。
新診断基準により迅速にリウマチの診断はおり、早期治療により関節破壊の抑制には非常に有効となりましたが、問題も有ります。

まず、迅速な診断が可能になった一方で擬陽性が増える問題も指摘されています。(日本リウマチ学会
またメトトレキサートや生物学的製剤(抗体製剤や受容体製剤)の登場は劇的な改善を生み出す一方、副作用等の問題も残っています。
こうした先端治療を受けるならリウマチ学会専門医の先生による治療が良いとも言えます。

このことは鍼灸師としてもキチンと把握しておく必要が有ると考え、強引ですが診断基準に今回リウマチを取り上げました。
治療院への来院は女性も多く、私たち鍼灸あん摩の治療家はリウマチを抱える患者さんとの接触も多いはずです。
だからこそ新しい診断基準や新しい治療法に明るく有るべきだし、リウマチは「治らない病気」では無いことを知っておくべきでしょう。