黒砂台鍼灸あん摩治療院

鍼灸院の日常日記

鍼灸のエビデンス確立の難しさ

2010-09-08 17:15:01 | 東洋医学について
「鍼のエビデンス」を読んでいて、鍼灸で高いエビデンスを確立する難しさを感じています

鍼灸だけでなく、あらゆる治療や薬物の効果を検証しエビデンスを得る上でもっとも重要なのはバイアスの排除です
「バイアス」とは直訳すれば「偏り」で治験等においては「ひいき目」「先入観」「偏見」とも考えると分かりやすいかもしれません
人間は非常に繊細で、簡単に騙されるものです
良い薬だと言って飲ませれば砂糖水でも効果が出ることが有ります
一方、効果のない薬だと渡せば効果の高い薬で結果が出ないこともあります
このため正確な効果を図るということは本当に難しいのです
一般的には比較対象を作って効果を比較します
また試験を行う側がバイアスを持ち、それを患者に誘導するようになってしまえばエビデンスを確立することは不可能です
治験を行う際にもっとも重要なのが「バイアスの排除」なんです

医薬品の世界では、治験を行う際に「プラセボ」と呼ばれる偽薬を使用することが多いです
これは乳糖やブドウ糖のように薬理効果の殆ど無いもので作られています
治験に用いる場合は、形状・見た目・味・匂いまで対象物とプラセボをあわせてしまう方が望ましいとも考えられます
見たり飲んだりした時の印象によるバイアスを排除するためです

このプラセボを使用した治験群をコントロールに用いて、対照薬を使用した対照群と比較することで薬効や効果の確認を行ないます
こういったプラセボを用いた比較試験にも様々な方法が有ります
有名なものですは「二重盲検法」「単盲検法」「非盲検法」なんてやり方が有ります
このあたりの治験実施の方法とエビデンスレベルのおはなしは別の機会にお話します
(最近のホメオパシー問題に絡めて書きたいと思います)

鍼灸の治験に話をもどすと、当たり前ですが二重盲検法はできません
また、最も難しいのがコントロールのをどのように作るのかという点です
欧米では一般的にシャム鍼(sham)と呼ばれる偽鍼が用いられますが、問題点も多く指摘されています
これは経穴(ツボ)でない部分に鍼を刺してコントロールとして使用するわけですが、刺すことには変わりはないわけです
治験等によっては刺鍼の深さを浅めに変えていたりしますが、日本の経絡治療は浅刺で治療を行っています
また、経穴(ツボ)を外したり浅刺でも生理学的な変化を引き起こしてしまうということが報告されています

このため、こういったバイアスを排除するために刺さない鍼をコントロールとする方法も取られていますが、患者にそれと解かるため盲検法にならないなどの問題が指摘され、報告のエビデンスレベルを下げてしまうことも有ります
先に少し述べたように、残念ながら鍼灸では二重盲検法は取れません
少なくとも刺鍼側(鍼を刺す側)はそれが治験鍼なのかコントロール鍼(シャム鍼)なのかを知っていますので二重にならないのです
患者側にコントロールかどうかを感知させずに行うことが出来れば単盲検、患者にわかってしまうようなら非盲検試験になってしまうわけです
このため患者にわからない偽鍼の研究も盛んに行われています

こういった事情などから、コントロールを用いた鍼灸の治験は非常に難しくなっています
どうしてもオープンスタディのような報告が増え、エビデンスレベルが高い報告が出にくいのも現状です

だからと言って鍼灸にエビデンスがないわけではありません
コントロール群や比較対照群に標準治療で用いられる医薬品を使用した治験でも有用性が確認された報告も有ります
こういった医薬品をコントロールや比較対象とする治験はある意味で最も難易度の高い治験法とも言えるやり方です

まだまだ鍼灸のエビデンス確立は道半ばです
でも、いくつかの治験で明確なエビデンスが確立されているというのは本当に心強く思うわけです