黒猫亭日乗

題名は横溝氏の「黒猫亭事件」と永井荷風氏の「断腸亭日乗」から拝借しました。尚掲示板が本宅にあります。コメント等はそちらへ

犬のことなど

2009年08月15日 | Weblog
今年もお盆と呼ばれる季節になった。毎年暑いのが決まりみたいなものだったが、今日一日はえらく涼しく過ごせた。せっかくのお盆、気の利いた怪談話などできればいいのだが、若い頃とはちがって、最近はその方面のお話はサッパリない。なので、今回は昔飼っていた飼い犬のお話でもしたいと思う。
我家は元々は幼時より、ずっと犬を飼っていた。生まれが神戸は長田の山の辺りだったこともあって、当時は多頭飼いしていても、それほど迷惑はかからなかったのだと思う。それと、昔から知っていた人たちばかりだった事もあったし、世間もそれほど世知辛くは無かった。
今回お話する犬は、神戸ではなく西宮市に住んで居た頃のお話だ。当時まだ、私は高校生、飼っている犬はすでにその一匹だけとなっていた。犬種は座敷で暮らす向けの狆。犬なのでモチロン朝夕の散歩は欠かせないし、粗相を考えると寝る前の短い散歩も欠かせない。
その夜は、家人が一人で散歩に連れて行っていた。と、しばらくしたらかなりの勢いで飛んで帰ってきた「猫に目をひっかかれた」。
狆という犬は顔の部品がことさら真中に寄っていて、殊に目はぎょろっと特別大きく飛び出している。見ればその大きい目の真中、黒目の真上を1センチ以上にわたってぐっさりと、まるでナイフで切られたかのような傷になっている。
夜ではあったが、当時懇意にしていた犬のセンセイのところに連れて行ったのは勿論である。センセイによると、目をひっかくなり何かに当ててしまうなりして、眼中の水晶体が出てきてしまえば、眼球を摘出するしかない、との事。場所が場所だけに縫うわけにもいかない。飲み薬を飲ませて、後は傷にカサブタが出来てふさがるのを待つしかない(確か先生の家もこの後お盆休みをはさんでいて、実家に帰る予定だったと記憶している)。
傷を見た瞬間、家人はだれも視力の事は諦めた。諦めざるを得なかった。が、せめて見えはせずとも眼球自体は残してあげたかった。そのため、とりあえず一週間の完全看護体制を敷いた。私の担当は主に夜中。それと日中家人が家事をする間は交代で見る。当然ながら突然のアクシデントで、初日の日中にそれ用の備えがあったワケではない。それに怪我をした直後であるので、当犬の暴れ方が半端ではなかった。おそらくものすごく痛いのだろう。ちょっとはとろとろ眠るのだが、10分か15分置きに渾身の力を出して、目を掻こうとする。こちらも必死で目を守る。睡魔にも襲われて、初日はくたくたに疲れたものだった。
家族全員の必死の看護が身を結んだか、眼球は守られた。最初は傷にそって眼球ににごりがあったが、しだいにそれが小さくなり、後年、どうやら目線の端あたりはうっすらと視力も取り戻した様子だった。
実はこの犬、別の犬の散歩の途中で保護した迷い犬だった。すでに成犬、はっきりした年齢はわからなかったが、ずいぶん長く我家に居てくれた。
今日は珍しく、犬の話だった。


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