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居丈高に振る舞う夫への怒りがついに頂点に達した。
ある夜、狭いリビングに置かれた安っぽいソファの上で「茶を入れろ」とふんぞり返る夫の一言で妻のスイッチが入った。テーブルに置いていたガラスの灰皿を雑誌を読む夫の頭めがけて思いきり振り下ろす。
安っぽいくせに重量だけある灰皿はソファセットと共に居間に置くのがステータスだと考える夫自身が購入したものだった。
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「もういい頃かな」
エイジが顔を上げた。
近くにあるスーパーマーケットの駐輪場で待機することにした四人は携帯ゲームで時間を潰していた。
きょうは偵察だけのつもりなのでおやつを購入しなかったが、もしあそこを秘密基地にするならコンビニでなくここを利用しようと四人で決めた。
見かけない少年たちを不審に思ったのか、店員がガラス越しに注視している。
咎められる前に自転車を置いたまま幽霊屋敷へと急いだ。
点在する街路灯が夕闇の中で灯り始め、小さな羽虫を集めていた。
まだ遅い時間でもないのに幽霊屋敷の周囲はやけにひっそりしている。
通行人もなく人目がないのはいいが、なぜだか落ち着かない。
悪いことをしようとしているからかな。
エイジはふっと笑った。
「何? 何笑ってんの?」
チャメが普通のテンションで訊いてくる。
「しっ」
エイジはあたりを窺い幽霊屋敷の門の中にチャメを引っ張り込んで身を隠した。
続いてダンダたちも素早く中に入ってしゃがみ込む。
「声デカ過ぎ。お前バカか」
ダンダがチャメの頭を小突く。
「ごめん、ごめん。てへっ」
「てへ、じゃないよ。
ところでさ、門に鍵がかかってないってことは人の出入りがあんのかな。不動産屋とか」
エイジが眉をひそめた。もしそうなら基地にしても常にびくついていないとならない。
「でもこんな時間に来ねぇだろ」
ダンダは腰をかがめたまま玄関のドアノブをそっと回した。さすがにドアはきちんと施錠されている。
ダンダはその姿勢のまま垣根と家屋の間を通って庭に向かった。チャメが同じ姿勢で後ろに続き、ウエストポーチから小振りの懐中電灯を出してダンダに渡す。
あまりの手回しの良さにエイジとババクンは顔を見合わせた。
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