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恐怖日和 ~ホラー小説書いてます~

見よう見まねでホラー小説書いてます。
たまにグロ等閲覧注意あり

掌中恐怖 第十二話『夜泣き』

2019-04-06 12:14:58 | 掌中恐怖

夜泣き

 赤ん坊の泣き声がする。
 仕事で遅くなった帰り道、近道となる土手を歩いていた。
 ここから見える周辺の住宅はみな寝静まっている。どこのお宅かは知らないが夜中に泣かれて母親は大変だろう。
 そう思いつつ先を急いだが、どこまで行っても泣き声がついて来るので次第に薄気味悪くなってきた。
 おぎゃあ。おぎゃあ。
 自分の真後ろで聞こえ、居ても立ってもいられなくなり思わず走り出したが、何かに足を取られて転んでしまった。
 たくさんの赤ん坊の手が足首をつかんでいた。さわさわとふくらはぎを撫でながら内腿に這ってくる。
 胎児たちの丸い頭が地面からぽこぽこと浮かび出てくると下腹部に向かって先を争った。
 そう言えばこの川では、望まずしてできた子を流したという伝承がある。
 そんなことを思い出したが、かといってどうすればいいのかわからない。
 下腹がどんどん膨れてくる。
 やめて。わたしは母親じゃない。
 ぱんっ。
 破裂音がして股間が温かく滑る。
 激痛の中、遠のく意識が見たものは泣きながら地面に戻っていく赤ん坊たちの後ろ頭だった。

掌中恐怖 第十一話『願い事』

2019-04-05 16:08:50 | 掌中恐怖

願い事

『あの人に出会えますように』
 短冊に願いを込めて笹に吊るす。
 図書館に行くたび出会う人。背が高くてハンサムで。
 一目惚れだった。
 そっと本棚の間から覗いたり、隣にさりげなく座ったり。
 でも彼が来なくなってしまった。
 まさか気付かれて嫌われた? 
 ただ見ているだけでよかったのに。高望みなどしていなかったのに。
『あの人がここに来てくれますように』
 もう一枚書いた。
 七夕様ならわかってくれますよね。
 願いを込め二枚目を吊るす。
 図書館の入り口に設置された笹飾り。
 横に設置されたテーブルには短冊とペン。
 風に揺れる願い事はほぼ子供たちのものだったが、わたしの願いが一番叶うように思えた。
 
 七夕が過ぎた数日後、図書館にあの人がいた。
 首の骨が折れて血に濡れて。
 すでにこの世にいない人だったのだ。
 他の誰にも見えていない。
 だってこれはわたしの願い事だから。

掌中恐怖 第十話『虫愛ずる』

2019-04-04 11:45:57 | 掌中恐怖

虫愛ずる

 わたしは虫を見るのが好き。
 美しく舞う蝶も勇ましく鎌を振る蟷螂も。
 毛虫や芋虫でも見つけると嬉しくなっちゃう。
 で、すぐ捕まえて、蟻の通り道に置くんだ。
 すぐ逃げるから細い棒で押さえつけとくんだけど、すると通りがかった蟻がそれに気づくのね。
 急いで仲間を呼びに巣に戻ってく。途中で会った仲間に何やら伝えながら。
 伝えられた仲間はすぐ動けない虫に向かうんだよ。賢いよね。
 で、最初の蟻が巣穴に戻るとすぐ仲間たちが列をなしてやってくるわけ。
 うじゃうじゃ虫を取り囲んでから、もういいだろうってわたしは棒を離す。
 でも数百匹の蟻ぐらいじゃおとなしくならないのね。
 そりゃそうだよね。自然に弱ってる虫じゃないもん。
 で、それ見てるともう歯がゆくて、早くしないと逃げちゃうじゃんって。
 だから棒で虫を巣穴まで転がして運んでやるわけ。
 すると蟻が穴からぞくぞく溢れてきて、虫は黒い固まりになってだんだん動かなくなるの。けど死んだわけじゃないのよ。まだぴくぴく動いてるから。
 それを蟻はばらばらに解体して巣穴に運び込んでくのね。どんな大きな虫でもぜーんぶ巣穴に入れちゃうの。
 あ、そうそう。甲虫の場合は中身だけきれいに持ってちゃうんだよ。硬い皮を残して全部。
 すごいと思わない?


掌中恐怖 第九話『海水浴』

2019-04-03 09:37:59 | 掌中恐怖

海水浴

 幼い頃の夏の日、家族で海水浴に出かけた。
 一緒に遊んでいた両親は疲れて砂浜に寝転び、わたしは腰に浮き輪をつけたまま一人つまらなさそうに座っていた。
「わたしルミちゃん。いっしょに遊ぼ」
 白い浮き輪をつけた女の子がにこにこ笑いかけてきた。
「うんっ」
 わたしたち二人はぷかぷかと海に浮かんで遊んだ。
「ね、競争しよ」
 そう言ってルミちゃんがいきなり手で漕ぎ始め、ぐんぐん水平線目指して進んで行く。
「待ってぇ」
「早く、早く」
 ルミちゃんが振り返って笑う。
 一生懸命漕いでいると「こらっ行くなっ」と叫びながら追いかけて来た父に捕まった。
「遠くに行ったら危ないだろ」
 すごい剣幕で叱られたが、離れていくルミちゃんに誰も気付かない。
 遠く波間に浮いていたルミちゃんがちゃぷんと消えた。
「ルミちゃんっ」
 沖を指さして泣くわたしに父の顔が青くなった。
 子供の頃、海で溺れ死んだ父の幼なじみがルミちゃんという名だったそうだ。
 あれから二度と海には連れて行ってもらっていない。

 ルミちゃんはただ遊びたかったのか、わたしを連れて行くつもりだったのか、今でもわからない。
 でも、あの時連れて行かれていたらこんな悲しい思いをせずに済んだのに。
 久しぶりに来た海は穏やかに波の音を繰り返している。
 やっと授かった我が子。引き潮に連れられるように静かに流れて行ってしまった。
 ひどいよ。ルミちゃん。
 きゃはは。
 細波の間から子供の笑い声が聞こえた気がした。

掌中恐怖 第八話『噂の出処』

2019-04-02 10:49:44 | 掌中恐怖

噂の出処

「それでね、その犯人、なんとあの奥さんの兄弟なんですって」
「はあ」
 買い物帰り、見知らぬおばさんに噂話を聞かされたが、どこの誰が何なんだか、さっぱりわからなかった。
 帰宅後、おばさんは真向いの奥さんで噂の人は近隣の主婦のことだと思い出した。
 夫に話すと、
「お前、近所の人に興味なさすぎだよ。
 まあスピーカーおばさんになるよりましだけど」と笑われた。
 その後もそのおばさんに例の奥さんが鬱になったやら自殺未遂したやら聞かされ、人のプライベートをよくもまあ喋りまくるもんだと辟易した頃にドアチャイムが鳴った。
 覗き窓を確認すると知らない女性が立っている。
 誰? と思いながらドアを開けると、
「てめえ、あることないこと広めてんじゃねえよ」
 いきなり腹を刺された。
 入院中、警官から聞いた夫の話によると、加害者は例の奥さんで、彼女の噂の出所は全部わたしになっているらしい。
 もちろん本当の出所は向かいのおばさんなのだが。