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恐怖日和 ~ホラー小説書いてます~

見よう見まねでホラー小説書いてます。
たまにグロ等閲覧注意あり

掌中恐怖 第三十二話『現実逃避』

2019-06-07 12:17:10 | 掌中恐怖

現実逃避

 浩次は薄暗い部屋でパソコンに向かっていた。
 今、夢中になっているもの、それは街づくりをする無料のネットゲームだ。二、三人の住人から徐々に人数を増やし、家を建て、店を作り、学校や警察署も建設する。コインやアイテムが貯まったら土地を買って広げることもできる。
 もちろん市長は自分だ。
 住人の悩みを聞き、解決し、信頼を得ていく。
 コインは十分に貯めてある。ポイントも貯めたし、アイテムもしっかり確保している。順風満帆の世界だ。
 だが。
 浩次の現実世界はひどいものだった。リストラに会って現在は無職。職を探すもなかなか自分にあったものは見つからない。雀の涙だった貯金ももうすぐ底をつく。割引の付いたパンや特売のカップ麺で食いつなぐ食生活もますます厳しいものになる。
 金が尽きればネット生活もやってはいられない。
「あーあ」
 浩次は大きくため息をついた。
 オレの人生、なんてつまらないんだ。
 頼りにしていた両親は死んでもういない。彼女もいない。友達もいない。仕事もない。金もない。才能も運も、何にもない。
 この中の自分になれたらなあ。
 そう思いながら自分のアバターを見つめる。
 自分の顔に似た間抜け面の、だがかわいいアバターが立派な持ち家の前で立っていた。
 浩次はぎゅううっと目をつぶった。神様に、いやこの際悪魔に願い事をしてみる。
 ここ住人にしてください。魂売ってもいいです。だからこのゲームの中に入れてください。
 息を止め、力を込めて悪魔に祈った。あまりに力を入れ過ぎたので眩暈を起こす。
 頭の片隅でオレは馬鹿かと自問する。
 ああ、馬鹿だとも。
 浩次は目をつぶり、何度も何度も力を込めて祈った。
 がやがやとにぎやかな声が聞こえ始めた。
 そっと目を開けるとカラフルな町が目の前に広がり、住人にしたキャラたちが右に左にと楽しそうに町の中を走り回っている。
『市長さん、こんにちは』
 住人とフキダシが目の前を通る。
 マジで来れたのか? すげぇ、オレ、市長だぜ。
 よーし。まずは上手い飯を食いに行くっ!
 貯めに貯めたコインと食堂街にある様々な飲食店に思いを馳せる。
 ここの料理のグラフィック、クオリティーが高くていつも美味そうだと思ってたんだ。超楽しみ~。
 だが、進もうとしても足が動かなかった。
 ん? なんでだ。なんで動かないんだ。バグか? おい、どうなってるんだ。いったいどうなってるんだよっ。
 あっ。し、しまった。オレがここにいるってことは操作する奴がいないってことだ。
 そう気付いたがもう遅かった。

 部屋にいるのは腐乱した死体とその臭いを攪拌しながら飛び回る大量の蠅だけだった。

掌中恐怖 第三十一話『オレが死んだ理由』

2019-05-29 12:14:56 | 掌中恐怖

オレが死んだ理由

 理由?
 そんなもん知るか。
 もしそんなものあるんだとしたら、こんな世界にしたお偉いさんたちが悪いってことじゃねえか?
 人類への警告ってもんが何度もあったろうが。
 オレみたいな頭の悪いやつでもこうなるってわかってたさ。
 たくさんの人間が犠牲になったよ。
 なのに、各国のお偉いさんたちは自分たちの保身ばかりでなーんも対策しなかった。大事になるまで隠ぺいしてたしな。
 その上、食料も水も何もかも準備された安全な場所へ自分らだけ避難しやがった。
 頭に来たのはオレたち庶民が逃げまどい、襲われていく様を防犯カメラで見ていたことだ。
 皆でワインでも飲みながら楽しく観賞してたんじゃねえの? 
 ふん、国民は虫けら以下っつーことさ。
 さらに最悪なのがオレ。こんな凶悪な顔してるだろ? そこへ血や泥にまみれてたもんだから――
 こんな顔でもオレは優しくて勇敢なんだ。逃げながら何人もの老若男女を助けていった。
 政府が見殺しにしようとした人々をな。
 ふっ、やっぱ容姿っつーのは大事ってことだよ。
 オレはまだ生きてたんだ。
 だがな、刑務所の塀の中に逃げ延びたやつらは遅れていったオレをゾンビだと言って入れてくれなかった――
 あの中には助けてやったやつもいたのに――
 オレ? もちろんその後、本物のゾンビにやられちまったよ。
 ああ。恨んじゃいねえ。仕方ねえよ。もし同じ立場だったらオレもそうする。
 だけどそんなことはどうでもいいんだ。塀の中のやつらも結局全員ゾンビになっちまったし、もうこの世界は生きてる死人だけで成り立ってんだよ。
 本当に生きているのは安全な場所に避難した一握りの人間だけ。あんなとこに閉じこもっていたって、いつか食料も水も尽きちまうっていうのにな。
 ふふ、そのいつかはもうすぐだ。
 なのにあいつらこの世界を恐れてあそこから出て来れねえんだぜ。気が小せえよな。
 あとは餓死を待つだけ――いや、もしかしてお互いを喰らいあうかもしれねえな。ゾンビでもねえのに。
 それでも最後の一人はやがて死ぬんだ――
 オレたちは死んだけど生きている。
 あいつらはただただ死ぬだけ。
 はっ、愉快じゃないか。

掌中恐怖 第三十話『忘れ物』

2019-05-28 10:02:21 | 掌中恐怖

忘れ物

 買い物カゴぐらい自分で片づけていけっつーの。
 そう思いながら美奈はサッカー台に置きっぱなしにされているカゴを集めてひとまとめに積み上げていた。
 出入り口横の台にもカゴがそのままだ。
 その中にはペットボトルが入っていた。
 500mlの未開栓のお茶だ。
 こんな大きなもの普通忘れる? 超ウケるんですけど。
 美奈は苦笑を浮かべ、カゴを整理し終わった後、それをサービスカウンターに持っていった。
「チーフゥ、忘れ物でーす」
「そこに置いといて」
 年配の女性チーフは検品表や伝票などの書類とにらめっこしながら、美奈のほうを見もせず顎だけ動かした。
「はーい」
 ペットボトルをカウンターに置くと、メモに『忘れ物』と書いてボトルに貼りつけた。
 どうせ棚に戻すんでしょ。
 そう思いながら美奈はレジに戻った。
 すぐ忘れ物に気付いて戻って来た客に返すのは当然だが、30分以上問い合わせがなかった場合、チーフはそれを陳列棚に戻していた。
 後に問い合わせがあったとしても「忘れ物はなかった」で済ませてしまうのだ。
 本店の方針か、この店舗だけの考えか、チーフが勝手にやっているのか、くわしいことは知らないが、機嫌の悪いチーフに八つ当たりされた時など、SNSに暴露してやろうかと思うことがある。
 実際はやらないけど。
 安っぽい正義振りかざしても、ただの憂さ晴らしってだけでわたしには何の得にもならないもんね。
 三十分後、サービスカウンターに行くとペットボトルはなかった。問い合わせの客はいなかったようだから、たぶん、いや確実に陳列棚に戻したのだろう。
 ゴミ箱には美奈の書いたメモが丸めて捨ててあった。

 スーパーで購入した緑茶で客が死亡する事件が発生した。
 その緑茶には毒物が混入されていたという。

掌中恐怖 第二十九話『怨水』

2019-05-26 11:00:54 | 掌中恐怖

怨水

 前を行く活魚運搬車の小さな窓に時折魚影が映る。
 行方不明者の捜索から浮かび上がったこの車を追ってきたものの、行先は市場か魚屋ぐらいなものだろう。
 このまま追っても無駄足なのでは? と迷う。
 だが、信号待ちの時、黒く長いものがゆらゆらと揺蕩うのが見え、海草かと思いきや白くふやけた女の顔が窓を通過した。
 やはり、この車だ。
 俺は確信し、後をついていく決心をした。
 ばれないよう距離を置きながら進むと人気のない山中に入り込み、やがて廃工場に行きついた。
 これ以上は危険だと判断し、捜査に踏み込む準備を整えるため引き返そうとしたが白装束を着た男たちに囲まれ、車から引き摺り下ろされた。
 連れてこられた廃工場内で有無を言わさず裸に剥かれると死体の入った水槽に投げ込まれた。
 浮き上がろうともがく頭や体を棒で抑え込まれ、濁った水を飲みながら奴らに怨み言を吐く。
 男たちは「怨め、怨め。怨めば怨むほど水は濃くなっていく」と笑い、「この怨水を日本中にばらまくことが我らの使命なのだ」と高らかに叫んだ。
 最後の息がごぼっと肺から出き切り、鼻から口から大量の水が体内に流れ込んできた。
 中に溶けている濃密な怨みや呪いを感じる。
 俺の怨みもすぐに溶け、混じり合うだろう。
 だが、この男たちの言う使命とは本物なのだろうか。頭のおかしな奴らの戯言でなければいいが。
 でないとただの犬死にじゃないか。


掌中恐怖 第二十八話『竹藪の錯覚』

2019-05-25 11:46:51 | 掌中恐怖

竹藪の錯覚

 あそこの竹藪見てみ。うつむいた男が立ってるように見えるだろ。
 しゃがんでみ。男がこっち向いたように見えるだろ。
 今度はそっちから見てみ。急にいなくなったように見えるだろ。
 そだな。錯覚だな。
 でもな、元の位置でもう一回見てみ。
 なっ、いないだろ? 何でってなるだろ?
 で、今度はうしろ振り返ってみ。