いつのまにか、夜中の二時近くに
なっていた。
「じゃあそろそろ」
と、言ったのは、わたしだった。
あのひとからそう言われるより
先に、自分で言ってしまった方
が、踏ん切りがつけられると
と思って。
だけど、言ってしまってから、
後悔した。
「そろそろ」のあとに、うまく
言葉が続かなかった。本当は
このままずっと、しゃべって
いたい。朝まで話しを聞いて
いたい。
つながっていたい。そんな気
持ちが波のように、寄せては
返していた。
「信じられないくらい、長話し
ちゃたね。もう眠いでしょ?
そろそろラップアップしなきゃ」
「ラップアップ?」
「電話、なかなか切れない時って
あるでしょ。電話を切る、終わらせ
る、やめる。どれも言いにくいし、
言いたくないし、そういう時、こ
の英語が便利なんだよね
包んでしまいましょうって」
爽やかな、あのひとの声。
絶望的な、わたしの気持ち。
「向こうに着いて落ち着いたら、
必ずメールを送ります。
お元気で。今夜の電話、ほんとう
にサンキュ。じゃ、ひとまず
さようなら」
一点の曇りない声であのひとそう
言い、受話器は置かれた。
その瞬間わたしは、真夜中の片す
みに取り残された、ひとりぼっちの
深海魚になった。
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