ソバをズズッと、あからさまな音を
たてて食べるようになったのは、ど
うやら、ラジオ普及以降のことらし
い。
ソバ関連の落語を放送でかける際、
仕方噺のSE(効果音)として噺家
がズズッとやった。
それを聴いたひとたちが、達者な擬
音を、オツだねえとマネたのではな
いかという。
従来我が国ではおおむね濁りを忌み、
麺なら、つるつるは良いがずるずる
は下品として、唇をすぼめて食べて
いた。
ただしソバは、晩秋から春先にかけ
てズズズッが公認された。俗に
「きくやよい」=「聴くや善い」=
「菊弥生」と云って、菊(十一月)
から弥生(三月)までがズズッ公認
期間とされていた。
つまり新ソバの薫りはかそけきもの
だから、空気を攪拌(かくはん)させ、
口腔から鼻腔へと増幅してこそ、
存分に堪能できるのだ。
高座のソバは新ソバであるわけだが、
いつしかそれが通年の慣習として
定着したのだろう。
国際化のために、ソバは無音で食べ
るべしというよりは、爽やかな濁音
の開発とアピールにより、
食文化のさらなる広がりに、極東か
ら一石を投じたいものだ。
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『創業120年』