MRIのすべて(all about MRI)

磁気共鳴イメージング(MRI)に関するさまざまな経験や知識を提供しつつ今後の展望を切り開きたい.

コンパクトMRI

2006-01-24 22:32:23 | Weblog

これからしばらく,コンパクトMRIのお話をします.

コンパクトMRIとは,単なる小型のMRIではありません.上の写真に示すように,計測系(MRIコンソール)と,検出系(磁石,勾配コイル,RFコイル)がはっきりと分離しているものを,私たちは,コンパクトMRIと呼んでいます.1998年に,私の研究室で開発しました.

上の写真の右に示すものは,1テスラ(地球磁場の2万倍)の永久磁石で,NEOMAXさんに作っていただきました.

上の写真の左に示すものが,MRIコンソールで,MRIの電気的な機能は,これだけで,すべて持っています.総重量は80kgくらいですので,簡単に動かすことができます.



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これからの予定(続)

2006-01-23 23:08:52 | Weblog

これからの,本ブログにおけるシリーズ連載としては,

1.MRIのハードウェア

2.MRI実験室のちょっといい話

3.さまざまなパルスシーケンス

4.MRIにおける代表的原著論文の解説

5.MRI人物伝

6.変わったMRI

7.変わったMR画像

8.MRIにおける(変わった)アーチファクト

などを考えています.

ちなみに,上の画像は,大して変わった画像ではありませんが,アンパンマンの「たれびん」の中に,硫酸銅水溶液を入れ,それをさらに,別の濃度の硫酸銅水溶液の入った試験管に入れ,T1強調法で三次元撮像した画像を,ボリュームレンダリングで可視化したものです.T1の違いにより,アンパンマンが可視化されています.

では,明日からは,MRIのハードウェアを,話していきましょう.


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これからの予定

2006-01-23 22:49:19 | Weblog

お話がかなり専門的になってきましたので,ここで,少し休憩しましょう.

上に示すのは,MRIで撮像した,アーモンドチョコ(明治製菓製)の画像です.チョコを透き通してアーモンドが見えています.このような画像は,まず,MRIでしか撮れません.

さて,これから,どのようなお話をしましょうか?

毎日ブログを書くのは,ちょうど新聞連載の漫画か小説を書くようなもので,ネタがなくなってくると,大変苦労します.

そこで,これからは,ある程度大きなテーマに関して,連載していこうと思っています.

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生体組織における水のプロトンのT1とT2(続)

2006-01-22 07:49:46 | Weblog

さて,前回で,多くの組織において,T1は1秒前後,T2は50ms前後に分布していることを述べました.ところが,水のプロトンのT1は,共鳴周波数(静磁場強度)に対して,顕著に延長することが知られています.

上に示すグラフは,カエルの筋肉を用いて,水のプロトンのT1とT2を,共鳴周波数に対してプロットしたものです(Seymour Konigの論文より引用).

このように,多くの生体組織において,共鳴周波数の増加に対してT1は延長し,T2はほとんど変化しない(より高い周波数では,わずかに減少することが多いようである)ことが知られています.

この性質は,異なった静磁場強度でMRIを行う際には,必要な知識です.

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生体組織における水のプロトンのT1とT2

2006-01-22 07:47:56 | Weblog

T1とT2は,MRIにおいて非常に重要なパラメタであることは,これまでに何度もお話しましたが,生体組織における水のプロトンのT1とT2に関する性質をお話しましょう.

上に示すのは,水を含む生体組織において,その水のプロトンのT1とT2を横軸として,縦軸に,水の含有量をプロットしたものです(P. Mansfield and P. G. Morris NMR Imaging in Biomedicineより引用).このように,いくつかの,非常に興味深い性質を読み取ることができます.

まず,第一は,T1,T2は,水の含有量に対して,「正の相関」を持っているということです.すなわち,水分の多い組織ほどT1とT2は長い,ということが分かります.

この性質は,理由はともかく,腫瘍などの病変組織において,水のプロトンのT1とT2が,正常組織のそれらに比べて延長する事実にも対応しています.

第二に,多くの組織において,T1は1秒前後,T2は50ms前後に分布していることです.

これらの数値は,T1強調画像や,T2強調画像を撮像する際のTRとTEの決定に,非常に深く関わっています.

このように,生体組織の水のプロトンの緩和時間は,バラエティはあるものの,同じような性質と,ほぼ共通の値を持っていることが分かります.
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T1とT2

2006-01-21 19:50:20 | Weblog

静磁場の不均一性が無視できる場合,核磁化は,上の図に示すように,xy面内で減衰しながら,z方向へと伸びて(回復して)いきます.

xy面内の減衰は,時間をtとして,

exp(-t/T2)

z方向の変化(回復)は,

1-exp(-t/T1)

と表すことができます.

ここで出てくる時定数が,T1(縦緩和時間)とT2(横緩和時間)です.縦,というのは,静磁場の方向で,横,というのは,静磁場に垂直な方向を表しています.

前にも述べましたように,このT1とT2が,MRIでは,画像コントラストを決定し,病変などの検出に役立つ,大変重要なパラメタになっています.


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FIDにおける核磁化の運動

2006-01-21 19:47:15 | Weblog

上の図は,FIDを発生する核磁化の運動を,回転座標系でみたものです.このように,z軸のまわりを,ぐるぐる回りながら,原点に近づいていきます.

回転座標系という言葉は,このブログでは,初めて出てきましたが,静磁場方向を軸として,ある角速度で回転する座標系のことです.通常,この角速度は,NMR(MRI)の受信機の参照周波数(共鳴周波数にほとんど一致)です.すなわち,「信号観測周波数」と言っても良いかも知れません.

NMR(MRI)信号の振る舞いは,ほとんどの場合,回転座標系で議論されます.

上の図に示すように,核磁化は,回転しながら減衰していきます.この減衰は,核磁化全体を構成する,より小さな領域の核磁化の回転位相が,静磁場の不均一性のために,ばらばらになっていくことによるものです.この減衰の時定数は,T2*と言われ,NMR信号の減衰は,tを時間として,

exp(-t/T2*)

と表されますが,実際の試料では,指数関数的な減衰をするとは限りません(静磁場の分布に依存します).

ところで,「静磁場の不均一性が無視できる場合」,核磁化は,どのような時間変化をするのでしょうか?
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FID(エフ・アイ・ディー)

2006-01-20 22:44:17 | Weblog

スピンエコーを理解するためには,まず,FID(Free Induction Decay:フリー・インダクション・ディケイ,自由誘導減衰)というものを理解しなければなりません.

FIDとは,上に示すように,90°パルス(など)で静磁場方向(z方向)から倒された核磁化が,歳差運動しながら減衰していく信号です.

自由(Free),誘導(Induction),減衰(Decay)という名前は,

自由:外部から高周波を与えられず,静磁場の中で,自由に歳差運動を行う,

誘導:高周波コイルに,電磁誘導の法則にしたがって電圧を誘導する,

減衰:静磁場の不均一性のため,小領域の核磁化の歳差運動の位相がばらばらになり,核磁化の大きさが打ち消されて減衰していく,

という,三つの言葉をつらねたものです.FIDが,実際に,どのような運動になるかについては,また改めて,次で紹介しましょう.
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スピンエコーとは?

2006-01-19 23:43:21 | Weblog

上に,典型的なスピンエコーを示します.

スピンエコーを発生するためには,まず90°パルスを加え,そのしばらく後に,180°パルスを加えます.○○°パルス,というのは,核磁化を,○○°傾ける高周波(RF)パルスのことです.

このように,2個のパルスを加えると,不思議なことに,180°パルスを加えた後に,NMR信号が,突然と現れます.これは,「こだま」と同じようなものなので,スピンエコーと呼ばれています.このような信号が,MRIに使われているのです.

なぜ,スピンエコーが発生するかに関しての説明は,また明日にしましょう.

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スピンエコー?

2006-01-19 23:18:55 | Weblog

さて,一挙に,MRIの臨床応用に近い話まで来ましたが,また,基礎的なお話をいたしましょう.

「スピンエコー」という言葉が,何度も出てきましたが,これは,MRIでは,一番中心的で,しかも重要な技術です.もし,スピンエコーという技術がなかったら,MRIは,これほど広く使われていなかったかも知れません.ですから,スピンエコーを発見した,Erwin Hahnという先生(上の写真)にも,MRIのノーベル賞が与えられても良かったかも知れません.

私は,ハーン先生の講演を,1998年,ベルリンで開かれた国際磁気共鳴学会(ISMAR)と,1999年,フィラデルフィアで開かれた国際磁気共鳴医学会(ISMRM)で,拝聴いたしました.1999年の講演は,How I tumbled at a spin-echo?(いかに私はスピンエコーに躓いたか?)という題目で行われましたが,Jokeがちりばめられていて,大変愉快な講演でした(もちろん,すべてのJokeが分かったわけではありません).

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T1強調画像とT2強調画像の使い道

2006-01-18 23:34:22 | Weblog

ここで気分を変えて,実際にT1強調画像や,T2強調画像が,どのような目的に使われるかを紹介しましょう.

上に示す画像は,私の研究室で開発したコンパクトMRI(手専用MRI)で,H君が,撮ってくれた私の左手の画像です.左の画像が,T1強調画像,右の画像がT2強調画像です.

T1強調画像は,主に,解剖学的構造,すなわち,どのような組織がどのような形状をしているかを,比較的高い分解能で示す画像です.GRASSという方法で撮られたものですので,スピンエコーによるT1強調画像とは少し異なりますが,コントラストは,ほぼ同じと考えても結構です.

T2強調画像は,主に,病変部を描出する画像で,病変が起こった部分が,高い輝度で現れます.このため,臨床診断にはきわめて有用な画像です.なお,この画像では,皮下脂肪や骨髄などの脂肪組織は,「脂肪抑制」という手法で抑制されています.

上の画像は,私の左中手骨に,bone erosion(骨糜爛)があることを示しています.これは,永年の装置作りによるものだと思います.


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MR画像のコントラスト

2006-01-18 23:04:21 | Weblog

だんだん理屈っぽくなってきましたが,MR画像の見方を理解するためには,もう少し我慢してお付き合い下さい.

前回の解説では,MR画像(スピンエコー画像)の画像コントラスト(濃淡)は,5個のパラメタで決定されると書きました.

5個もパラメタがあると,大変複雑なように思えますが,実は,意外と簡単なのです.

実際には,5個というよりも,ρ,TR/T1,TE/T2の三つの値で画像のコントラストは決まります.すなわち,TRとT1の比,TEとT2の比を考えればいいのです.これを式で書くと,画素の強度(明るさ)Iは,

I=kρ(1-exp(-TR/T1))exp(-TE/T2)

とあらわされます(kは定数です).

そして,上の表に示すように,TR/T1が(1より)大きいか小さいか,TE/T2が(1より)大きいか小さいかの4個の組み合わせの場合で,撮像が行われ,それぞれの場合が,昨日お話した,T1強調画像,T2強調画像,プロトン密度強調画像となるのです.

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MRIにおける内部パラメタと外部パラメタ

2006-01-18 22:33:19 | Weblog

MRIで撮像される物質を特徴づけるパラメタとして,T1(縦緩和時間:ティーワンと呼ぶ),T2(横緩和時間:ティートゥー),そしてプロトン密度ρ(ロー)の,3つの組織パラメタ(内部パラメタ)があります.

これらが何を意味するかは,また後でお話しますが,プロトン密度というのは,分かりやすい概念ですね.

これらの3つのパラメタの分布を,うずらの卵で計測したものを,上の画像に示します.これらの画像は,プロトン密度は,黄身と白身ではあまり変わらないものの,T1とT2は,黄身で短く,白身で長いということを示しています.

さて,これら3つの組織パラメタを持つ物質を,スピンエコー法という撮像法(これは,またあとで詳しくお話します)で撮像するときには,繰り返し時間TRと,スピンエコー時間TEという二つの時間パラメタが,重要な役割を果たします.これらのパラメタを,外部パラメタと言っています.

以上をまとめますと,MR画像(多くの場合スピンエコー画像です)は,

内部パラメタ:T1,T2,ρ

外部パラメタ:TR,TE

の合計5個のパラメタで決定されます.そのメカニズムは,次回お話しましょう.

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スピンエコー画像

2006-01-17 23:35:27 | Weblog

さて,緩和時間とは何か,ということを説明する前に,まず,通常のMRIで撮像される,スピンエコー画像を紹介をしましょう.

「スピンエコー」という言葉を初めて聞く人もいるかも知れませんが,これは,MRIの撮像で使用される,最も一般的な信号です(スピンエコーの詳しい説明は,また後でやりましょう).

スピンエコー画像(SE像)としては,T1強調画像,T2強調画像,プロトン密度強調画像の3種類が主に使用されます.上に示す画像は,卵(うずらの卵)で撮像した,それぞれの画像です.この画像は,私の研究室の静磁場強度4.7TのMRI装置を用いて撮像したものです.

このように,卵の黄身と白身が,さまざまな画像コントラストで撮像されています.

黄身と白身が,なぜ,このような画像コントラストで撮像されるかに関しては,また,明日,お話しましょう.
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MR画像=緩和時間を強調したプロトン密度分布

2006-01-17 23:17:28 | Weblog

話が随分それたので,もっと真面目な話をしましょう.

それは,MR画像とはいったい何か,ということです.

「核磁化分布」という言い方もありますが,これは,物理学的には正しいものの,MR画像の意味をあらわす,という点では,適正な答えにはなっていません.

すなわち,MR画像とは,(核磁気)緩和時間を反映した核スピン(プロトン)密度分布です.

緩和時間が何か,ということは,後のセクションで示しますが,緩和時間という(生理学的・物理学的)情報がプロトン密度に重ねられていることが,MRIを非常に有用なものとしています.

もし,緩和時間が,MR画像に反映されなかったら,MRIは,これほど広く使われることはなかったでしょう.すなわち,緩和時間は,病変や組織間の違いをあらわすものなのです.
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