ISMRM2006の第6日目.
朝から,MR Hardware/Engineeringのmorning categorical courseに出席.
最初の題目は,Transmit Arrays Design,講師は.Christopher J. Hardy(GE)である.
前日に,Transmit SENSEの話を聞いて置いたので,今回は,非常に分かりやすく聞けた.付加的なコイルを用いたinductive decouplingのやり方も良く分かった.
二番目の題目は,RF Pulse Design for Transmit Sense,講師は.Douglas C. Nollである.
内容は,任意の領域のRF励起を行うために,各コイルエレメントに,どのような高周波パルスを与えるか,という問題である.理論の流れは分かったが,実際に使う時にならないと,やる気はおこらないだろう.
さて,その次のLauterbur Lectureとプレナリーセッションは,出るべきかどうか迷ったが,せっかくのチャンスだと思い,出てみた.
内容は,すべてbrainに関するものなので,好き嫌いも出てくる.
この学会あるいは,医学界全体が,
brain
heart (cardiovascular)
body / musculoskeletal
engineering / basic science
という色分けになっており,brainは,非常に大きな勢力である.
Brainは,
重さは体全体の 2%
血流は体全体の 11%
エネルギー消費は体全体の 20%
と言われるように,特殊な臓器である(心臓もある意味特殊)ため,脳と心臓に関係する医者のは,中でも特別らしい.
内容は,多岐にわたったが,面白い話としては,
脳のイメージングに関する歴史的な年は,
1972年 X線CTの発明
1973年 MRIの提案
1975年 PETの発明
1980年 MRIの実用化(スピンワープの発明による)
1992年 functional MRIの発明(小川誠治氏による)
だそうである.
しかも,脳機能イメージングに本質的に重要な役割を果たす,BOLD(blood oxygenation contrast)の発見に関して,
1845年 ファラデーの電磁誘導の発見(NMR信号発生の原理)
1937年 ポーリングによるヘモグロビン(鉄を含む)の性質の解明
1990年 小川誠治によるBOLDコントラストの発見
を紹介していた.
しかも,脳に関する学術文献の引用回数に関して,2005年の分を調べてみると,
脳のイメージング全体で 35万件
MRIに関する文献(fMRI以外) 15万件
fMRI 15万件
だそうである.
このように,文献だけからみると,fMRIは,MRI全体と匹敵する分野になっており,米国神経科学会(American Neuroscience Society)という2万人が集まる学会でも,fMRIは,一番大きなトピックスだそうである.
ISMRMは,4000人くらいが参加する学会(今年は4,800人だったらしい)で,その巨大さには,最初はみんなびっくりするが,上には上がいるものである.
さて,もう一つ面白い話としては,脳の情報処理機能に関してである.
目に入ってくる外界の視覚情報の量は,ある根拠による計算によれば,毎秒10の10乗ビット(10Gbit/s)だが,視神経で変換できるのは,毎秒6×10の6乗ビット(6Mbit/s:USB1.1か,10Mbitイーサネット並である),大脳皮質の視覚野(そこで情報処理が行われる)に届くのは毎秒10の4乗ビット(すなわち,100×100画素の画像程度),そして,最終的に記憶されるスピードは,「毎秒1ビット」程度であるとの事である.
すなわち,ある人を見たとき,瞬間にその人のどこかに注目し(多くの場合は顔かも知れないし,そうでないかも知れない),100×100の画像パターンに変換して,マッチングを行い,誰々さんかを判断し,知人であるという判断が下れば(情報は1ビット程度),それに基づいて,名前を思い出したりするのであろう.
人の顔は分かるが,名前が思い出せない,ということは,人によっては,しばしばありますが,それは,知人という判断は下せても,それに基づいて,名前のデータベースからの検索が困難になっているのでしょう.
ただし,脳が壊れてくると,人の顔を見ても,知人かどうかの判断が難しくなり,本当に壊れると,家族の顔さえ,分からなくなるのでしょうね.
Brianの話は,話のネタとしては,尽きないのですが,brainがbrainのことを考える,という自己矛盾のようなところもあって(brainがbrainを理解できるか),話は収束しません.
この他には,脳のmorphology(形態学的なことなど)に関する発表もありましたが(脳がどのように発達していくかなど),説明が長引きそうなので,興味のある人は,アブストラクトを見て下さい.
いずれにしても,brain自身が,ビッグサイエンスなのです.
さて,午前中は,まだ,見ていなかった1500題くらいのポスターを,全部見た(と言っても,ほとんどは,その前を通り過ぎる程度).1題1.5mとして,2kmくらいは歩いたと思う.2時間くらいはかかった.ただし,興味のあるポスターに関しては,写真を撮ったり,念写をしておいた.
午後は,Emerging MR system conceptsのセッションに出た.かつて,Gradients and Systemsと言われるセッションである.
そこで,Stanford大学が,10年以上も前から取り組んでいるPre-polarized MRI(PPMRI)の話を聴いた.
PPMRIとは,不均一だが,強い磁場をパルス的に印加することによって核磁化(縦磁化)を生成し,弱いが均一な磁場によって核磁化の信号を読み出す(イメージングを行う)MRIのことである.
磁石のコストが大幅に低減できるということが,大きな(ほぼ唯一の特徴)になっているらしい.
でもスライス選択ができない,などの本質的な欠陥が,たくさんある.
今年は,0.4Tの分極磁場と,0.052Tの読み出し磁場を用いることによって,手首の画像を出していた.撮像のターゲットは,Extremityなので,関節リウマチなども,いずれ視野に入ってくるだろう.
かなりまともな画像になってきたが,H君の画像には,当然だが,遠く及ばない.
しかも,これで,磁石だけでも25,000ドルはするという.電源の値段は入っていない.
今年中に,膝の撮像を行うらしく,しかもシステムのトータルコストを100,000ドル以下(約1200万円以下)に抑えたいらしい(学会発表なので,コストを言うのは,ある意味タブーなのだが,PPMRIの最大のポイントが,磁石が安く作れるということなので,こればかりは,仕方がない).
このStanford大のチームには,Graig Scottなどの腕のいい研究者もいて(Steven Conollyもいるが,かれはBerkeleyに移った),また,優秀な大学院生もいるはずなので,彼らが,このような出口のないプロジェクトに動員されているのは,いかがかと思う.Macovskiのじいさん(Stanfordの終身教授?で,Medical imagingの世界の超大物)も,罪作りな人だと思う.
彼らのシステムは,仮に,うまくいっても,Esaoteに遙かに及ばず(値段でも性能でも),しかも,最近参入してきたParamedという会社のマシンに比べると,全く問題にならない(Paramedの技術者(エサオテから移った人)とは,今回の学会でも話した).
何とかしてあげなければ,と思った.
夜は,Closing Receptionが,Science Fiction Museumであったので,参加したが,落ち着いて食べるような雰囲気ではなかった.京都は,別格中の別格だった.
以上.