画寫庵Progressive

松平惟光の写真日言己巾占。

怪物と犬と殺人と(1)

2006年09月23日 | 西洋鏡・紙魚手帖

「ほえる犬は噛まない」(2000)にひたすら感心した
ポン・ジュノ監督の最新作「グエムル 漢江の怪物」。
今まででもっともメジャーな形態での公開作品。

初めて観たときは正直ピンとこなかったのだけれど
あとからいろんなシーンを思い出すに連れ
面白さがじわじわにじみ出てきて
もっかい観たいなあと思ってしまっている現在。

とにかくいろんなお約束ごとの微妙なハズし方と間が絶妙で
それでいて正統でもあるというバランスがいいのです。

第一作の「ほえる犬は噛まない」は、
ひとつ屋根の下というには関わり合いが薄く、
ひとつの町だと言うには住民同士の影響を受けすぎる
巨大団地という空間を舞台に
きわめて普通の人たちの出会いがひきおこす事件。

ここでいう普通の人とは
映画含めフィクションにおける普通の人=
観客に「普通」と思ってもらうために
現実よりかなり善人に描かれる人、ではない。
リアルな普通の人とは、善人ではないが悪人でもなく、
ズルイ事も考えるし、卑劣だったり情けなかったり
しかし普通の人であるから反省もするし後悔もするし
いい人になりたいとも思う。
また、本人には十分な理由があっても
ソレを知らない他人からすれば
意味不明の奇矯な行動を取っているようにも見える。
そんなリアルな普通の人を
冷静にかつ愛情を持って描いていく。
そのために、変な人ばかりが登場する映画という風に
紹介されたりもするのだが、そうではない。
そういう普通の人たち
理想のために汚い現実に追いつめられる男(イ・ソンジェ)と
行動原理が常に夢のような理想である少女(ペ・ドゥナ)が
人生を少しだけ上手くやっていこうとして起こす行動が
ちょっとした偶然で重なり合い起きるドラマが
秀逸な小ネタの積み重ねで語られていく。

何回観ても面白くて、1回目より2回目の方がよくて
この点は第2作「殺人の追憶」でも共通している。
「殺人の追憶」(2002)は80年代に起きた実際の未解決事件をもとに
田舎の刑事と都会から来た刑事が。対立・反発からお互い影響し合い
協力者となっていく姿を描く。
アウトラインを描くとありがちなストーリーなのだけれど
そのために逆に独自性が際だって見えてくる。

この映画でも「犬」同様ひとつひとつのネタが秀逸でかつ全体の流れもいい。
未解決事件だから仕方ないけれど結局は刑事達は犯人に敗北し
人間として成長しつつも過去の過ちによって痛い目に遭ってしまう。
(被疑者を蹴り飛ばしていた刑事は足を失い、書類は嘘をつきません
が口癖だった都会の刑事はその書類に裏切られる)
しかしそこがまたこの映画のいいところでもある。

※)もし現実でなく、「この映画」における犯人を特定するなら
「女のような指を持つ」最後の容疑者(パク・ヘイル)が真犯人。
映画の主題に沿うなら、そう。

(この項続きます)


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