国語屋稼業の戯言

国語の記事、多数あり。国語屋を営むこと三〇余年。趣味記事(手品)多し。

小論文の書き方

2020-06-06 13:19:54 | 国語

※隠居する前の原稿をいくつか発見。今までのブログと重なるところもあるが、+αのところもある。てな感じで以下にご紹介。

※隠居する前の職場では進学関係をまとめた小冊子があって小論文入門を毎年書かされていた。それをハードディスクから発掘した。

※まだ、これを載せていないと思う。「今は昔」なので載せていたらごめん。

※途中のPREPについてはyabuk先生の「日々の与太 小論文対策、時間がないならPREP方式のメモでもとっておきますかね」を参考にしている。

 

はじめに

これから書いてある内容は参考になるが、絶対ではない。君たちが「これだけで大丈夫」という内容を求めているのはわかるし、そういう参考書が存在していることも知っている。しかし、そのようなことを求めている時点で小論文的思考ができていないのだ。以下の文章は、参考にはなるが、絶対ではない。教典ではないのだ。

 

必要な場面ってあるの?

小論文の必要性は年々高くなっている。直接的には、AO・推薦入試や国公立の後期で入試に課せられていることが多い。逆転やもうワンランク上の入試で、非常に重要なものである。大学だけでなく専門学校でも課せられている学校は多く、作文としていても、小論文のようなものを期待しているところも多いのである。実際、小論文で泣いた生徒は本校では多いので、日ごろ、小論文的な思考をするのは大事である。以下の文章を読むべし。

また、間接的な話としては、読解力や論理性があがり、他の教科でも好影響が考えられる。やはり、以下の文章を読むべし。

 

小論文とは何か?

「小さな論文」のことである。文字通りってことだ。しかし、ここに重要な情報が隠されている。

論文というからには「論理的な文章」である。そして「小」がつくのは通常の論文と違い、「小」さいものだということだ。それは単に字数の問題ではない。通常の論文と決定的に違うのは、手持ちの情報だけで書くということである。参考文献やら、インターネットやらという外部の情報を活用できないということである。したがって、小論文の力をつけることは論理的に表現する力と書くにふさわしい内容を自分の手持ちとしておくことになるわけだ。

 

何かうまく書けないんですけど・・・

それはおそらく論理的な文章の約束事(文体や表現)を知らないからかもしれない。以下のことに注意してみよう。

  • 会話体を避ける(会話体の欠点はくだけた印象になるだけでなく、思考も流れるようになってしまう。きっちりと論理で埋めていく文章になりにくい)。
  • 一人称は「私」にする(「私」を使うと、「僕・あちき・おいら」などと違ってあらたまった意識を持てる)。
  • 文体は一つにする(会話や引用を除いて、「だ・である体」あるいは「です・ます体」にする。そうすると書くときにぶれることが少なくなる)。
  • 主語・目的語を設定するようにする(こうすると独りよがりの文章を書かなくなる)。
  • 受身(受動態)の文をなるべく書かない(先とも関連するが、主語を省略することが受身だと多くなる)。
  • 否定文は説明力が不足するので、なるべく用いない(例えば、「××先生は国語の先生ではない」よりも「××先生は英語の先生だ」の方が正しい説明となる)。
  • 変だ・おかしい・間違っている・正しい・不安だ」などの印象語はあまり用いない(すまん、今、作った言葉だ。これを用いると説明を省略することが多いので気をつけよう。どうしても使う場合は理由や説明を加えよう。例えば「彼がゲームばかりしているのはおかしい」ではなく、「彼は受験生なので勉強をすべきである。それなのに、ゲームばかりしているのはおかしい」などのようにしなくてはいけない)。
  • 「思う・考える・感じる」などのような思考感覚動詞は、あまり使わないようにしよう(省略しても文意が変わらない語なので、基本的に不要な語だ。また「思う・感じる」などは論理性(こうだからこうなった)が低いので、論文という形式に対して、用いない方が良い)。
  • 意味の近い言葉を複数用いないようにする(無駄な表現を採点者は嫌うことが多い。それは内容の単なる水増しにしか見えないからだ。例えば「デンジャラスな危険が危ないリスク」なんて「リスク」だけですむだろう。)

以上、表現と文体が思考法と無縁ではないことも理解して欲しい。

 

いきなり書いていいの?

だめだ。それだけはやめてくれ。進学する人間にふさわしい文章を書くためには、君が天才で無い限り(君が天才でないことは保証してもいい)、考えなくてはだめだ。以下に考えて書くにふさわしい、基本的ともいえる書く手順を記す。

① 設問を読む。作問者が何を要求しているのかを念頭に思考を開始しないといけない。そのために解答の条件を明確にするために設問をじっくりと読んで欲しい。どんなにいい文章を書いても設問の条件を満たしていなければ採点の対象にすらならないのだ。以前、「若いときに外国へ留学する際、~」という問題を出したが、その場合「若いとき」という条件を見抜いた上で、それを活かした解答を書かなくてはいけないのだ。そして、出題者は原則として解答の設定をしているので、解答の条件はあるはずなのだ。

② 資料(課題文、グラフなど)がある場合はそれを読み解く。単に現代文のようにキーワードや主張を読むだけでなく、それができた上で①の視点を生かせるかを、確認しながら読解しよう。線を引いたり、文章の余白にメモを書いたりするのは、とてもいいことだ。

③ 発想したことをメモに起す。発想のメモがうまい人間は半分以上、小論文が書けたのも同然だ。コツはとにかくいろいろな立場で発想することだ。使えるか使えないかは後で決めればいい。まずは量を出そう。考え方は後述する。メモの練習としては、授業を受けるときに板書以外の情報をノートにメモしてみるといい。早さや省略のコツなどがつかめるようになる。

④ 主張を決める。メモの中から自分の主張=一番言いたいことを決める。

⑤ 構成を決め、アウトラインを作る。④の主張を証明するための順番を決めるといことだ。いろいろなパターンを使えるようにしておくといい。たとえば次のような構成のパターンがある。

序論本論結論

序論:課題・テーマを受けとめ、そこで何が問われているか、これから何について論じるのかを書く。

本論:事実や具体例をあげながら、それに基づいて意見を組み立ててゆく。

結論:本論でのべられたことをふまえながら、意見をまとめ、序論で示された問いに答える。

小論文用起承転結

起 テーマの提示・課題文の要約や資料から得られたこと・問題提起など

承 自分の主張の明示・主張の根拠

転 反論の想定と否定

結 自分の主張

※ 同じ主張を二回するため派手さがないが、内容のずれる率が低い。

※ 起承転結はもともと漢詩の書き方なので、小論文用と書いておいた。

※ なお、起承転結を批判するだけの参考書に注意。否定するだけの参考書は視点が単純すぎる。なお、YESとNOの選択型小論文指導を批判する本も多いが、使えることが多いので、安易に否定すべきではない。何でも参考にすべきだし、頼るべきではないのだよ。

 

⑥ 丁寧に書く。最近、受験生の字を人に見せる字ではないという批判をする採点者が増えているそうだ。ある程度、早く、かつ丁寧に書こう。

 

小論文の基本ってあるんですか。

ある。それは書き方の基本であり、考え方の基本とも言えるものだ。ここではPREPを説明しておこう。最近では中学校でも用いられているそうだ。全体の構成で用いてもいいが、一段落の書き方の基本と考えてもらいたい。さて、PREPとは以下の頭文字である。

1.Point……主張   2.Reason……理由

3.Example……事例  4.Point……主張

上記は、論理的な文章の骨格と言えるものだ。論理的とは、単純に言うと主張を証明することだ。そのためには正しい理由と証拠をあげなくてはいけないわけだ。PREPの練習法としては、まず、普段からPREP(PERPでもいい)で考えてみよう。夕食のメニューを考えるときにすら使えるよ。「今日の夕飯はとんかつにしよう。なぜなら、油を最近摂取していない上に動物性たんぱく質を摂っていないからだ。たとえば、今日のランチはノンオイルドレッシングのサラダだった。だから、今日の夕飯はとんかつにしよう」といった具合だ。

さらに何をどう考えていいか、わからないという人や書く量が少なくて困っている人は「対比、変形、論理」を前提に考えてみたり、表現したりしてみよう。これは現代文などの読解でも使える視点だ。というか、小論文を書くというのは現代文を書くということでもあるのだから、使えるのは当然だ。対比は二つの情報に整理してみることで、「今と昔・日本と外国・物質と精神・プラスとマイナス」などを視点にするといい。変形は言い換えること(説明を詳しくすること)や証拠となる事例をあげることで、主張をサポートすることだ。論理はなぜそうなのかを考えるのが、はじめの一歩になる。

なお、PREPが基本なら応用は何ですかという生徒さんには、これに譲歩内容(反対意見への配慮で「たしかに」などで導かれる内容)と確実性(どのくらいの確かさで言えることかを考える)を加えるといいとアドバイスしておこう。

 

何を書いていいのかわかりません。ぼくの考えは正しいのか、不安になるんです。

何かを書こうとするときに、一般に流布している内容は平凡でつまらないことが多い。かといって、何が正しいことなのか、難しすぎてわからないという生徒(いや、人)は多い。なにせサンデル教授の講義『Justice』(正義)という本が流行するくらいだ(注 現在では「流行していた」が正しいか)。正しいことについて考えることは現代では実に難しい。しかし、安易に正しさを求めるなとここでは言っておこう。まずは自分で考えろということだ。そうでなくては手持ちの情報で勝負する小論文で勝てるわけがないじゃないか。試験会場には、頼りになるのは君しかいないんだから。

 その上でヒントをあげよう。以下の語句を使用できるとき、正しい主張になることが多い。なお、何を正しいとするかについて、もっと知りたい人は現代文、英語の長文、大学のHPなどに注目しよう。

公正(公平で偏りがないこと)

多様性(生物にしても、文化にしても多様性があると長期の安定がはかれることが多い)

持続可能性(将来にわたって持続できる性質のこと。環境、エネルギー、地域などに用いられる。経済や社会だけでなく、科学技術について考えるときも重要)

コミュニティの維持(現代では連帯感のある社会集団は少ない。そのために多くの問題が起きていることがある。解決のためにコミュニティの維持、拡張は重要になる)

大量の情報の処理(まず、それによって社会が変わるということ(イノベーション)に注目する。例えば、取調室の情報は動画でも記録可能になるかもしれない。また、シミュレーション能力も高まるので、遺伝子の組み合わせなどの結果などでも効果があるだろう。地震などに対しての備えも変わるかもしれない。また、それができるようになる新技術を考えることも重要だ。)

さらに以下のことも考えておくといい。現代文、Web、辞書や図書室などを活用して理解しておこう。

イノベーション・IT社会・少子高齢社会

グローバリゼーション・3月11日(東日本大震災)・身体・総合

※特に3・11についての事実や、自分の実感などは具体例として重要なことになる可能性が高いので整理しておこう。

 

考えていたら間に合わないかもしれないから直接書いてもいいですか。

だめだってば。ここまで読んで、そういう意見が出る生徒はいないよな。いないと信じる。

もし、それが不安なら、書くスピードを計測しておくといい。メモやアウトラインの準備を終えてから、文章を書くときに10分あたりで何文字を書けるかを計測しておくのだ。そうすれば何分あれば、×××文字書けるということが予測できるはずだ。まあ、予備に5分か10分くらい設定しておいた上で、考える時間を決めておくといい。

 

効果的な上達法ってないですかね

そんなのはないと言いたいが、実はある。それは思考しながらの書写だ。考えながら、書き写していくと、小論文の腕はかなり上達する。むろん、問題を解いて書くのも大事だが、下手な文章を量産するより良い答えや文章を写すのも大事なのだ。

何を書写すべきなのか。それは小論文の模範解答例である。その際、まず、自分ならどう書くかを考え(設問をチェックしたり、課題文を読解したりして)、解答を書写し、自分の予想との差を実感するといい。解説がある場合は解説を読んで、その解答作成者の意図が実際の解答でどう生きているかを実感してほしい。また、英語の長文(小説ではない評論文)の訳を書写するのもいい。段落や構成において、シンプルかつ実践的なのがアメリカ人の文章なのだ。

何が手に入るのか。あるいは手に入れるために書写するのか。

まず、一段落に書ける内容の相場である。一段落はこの程度でいいのか、ここまで書かなくてはいけないのかがわかるようになる。次に論理的な文章の文体である。文末の表現や、接続語の使用法など、多くの情報が手に入る。最後に大人の考え方や話題だ。実は受験生とは、高校生ではない。大学などを進学先とする学生の候補生なのだ。つまり、大学生などの卵であって、高校生の知性ではいけないのだ。前述の話題にも関連する情報にも出会うだろう。また、進学に必要とする語彙力(漢字力も含む)も理解できてくる。

 

では、諸君たちの努力とそれに見合う勝利を!

 

 


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