九重自然史研究所便り

昆虫採集と観察のすすめ

チビノスカシノメイガとクワノメイガの追加

2015-09-15 07:18:46 | 日記

 前回書いた和名の話で、私の文章がゴタゴタして、あまり明快でないことが今朝、読み直してわかった。しかしそのブログの文章を修正することはやめにし、別のブログを書くことにした。井上博士の意思でもあり、博士の死後、手を加えた人がその意思を尊重しようとして、良かれと思ってやったことが混乱を引き起こしたらしい。この写真は講談社版大図鑑2004年の第4刷の和名を入れ替えたページである。第1刷と違う点は学名の横の和名だけを直したことである。だからチビスカシノメイガの説明なのにいきなり「次に記載するチビスカシノメイガの」という文章が出てくる。和名を入れ替えたのに、それぞれの種の説明文に目を通し、適切かどうか確かめないまま校了したらしい。ワクノメイガとワクというオマケの誤植も目立つ。入れ替えた人物はGlyphodes pyloalis Walker, 1859をクワの主要害虫だと考えたらしい。チビスカシノメイガは後から発見された種で学名はGlyphodes duplicalis Inoue, Munroe & Mutuura, 1981という。私が井上博士から聞いた話が正しければ、博士はG. duplicalisがクワの重要害虫であると認識し、当然、その学名の種に和名クワノメイガをつけたはずだ。
標準図鑑はその反対で、クワノメイガG. pyloalis、後から発見された種はG. duplicalisで和名はチビスカシノメイガである。これは大図鑑第4刷と同じ組み合わせだ。
しかし琵琶湖博物館にある大図鑑1990年の第2刷はクワノメイガがG. duplicalis、チビスカシノメイガがG. pyloalisとなっている。つまり第1刷から2004年まで22年間にわたってこの組み合わせでやってきたから、何かの間違いがあっても混乱を避けるために変更をすることは許されない。
一度つけた和名をいじるとこんなややこしいことになり、一般人も迷惑する。学名は学問の進歩とともに変わることがある。それは私もわかる。しかし今まで和名は変わらないものだという慣習的安定感あるいは安心感があった。
そろそろ生物の和名について何らかの規制を設け、同時に日本に産する全生物の最も正しい学名と和名とその異名を含む和名辞典をネット上で製作することも考えなければならない時期に来ているのではなかろうか。

ところで私が湯布院で開催したシンポジウム(当時の資料がなくシンポジウムの演題・日時も今ではわからない)で井上・杉両氏を招いた話を書いた際、現在の由布市庄内町黒岳で夜間採集をやったことも書き、井上博士は自分で採ったシャクガを新種として記載されたと書いた。それもクワノメイガと同じく40年近い昔のことなので、すっかり忘れていたから、確かめようとそのころ記載されたシャクガの記載を探したらヒメアオシャクDiplodema takahashii Inoue, 1982の新種記載に際し、黒岳で採集した標本がパラタイプに指定されていた。
子供のころから記憶力に自信がないので、高齢者の自動車運転免許の講習に行って、記憶力を検査するテストを受けたときは大変緊張した。なかでも16個の絵が4枚ずつ映し出されるのを覚えるテストがあった。しかも覚えてすぐ書くのかと思ったら、次は数字の配列を使った問題をたっぷりやって、その次がさっき覚えた絵の名前を書く試験だった。16個のうち15個思い出したが残り1個は思い出せなかった。みんなも同じぐらいできているのだろうと思ったが、15個も書けたのは、年寄りの間ではトップクラスの秀才で、私の筆記試験の成績は満点近かった。ところが年寄りは記憶力が落ちた分、口が達者になっていて、そんなことを覚えても実技ができるわけじゃない、俺は半分もできなかったと不出来なことを自慢する。その人の顔が何となく、子供時代の自分の姿のようで苦笑した。