九重自然史研究所便り

昆虫採集と観察のすすめ

琵琶湖博物館のカジノキで見つけた蛹からチビスカシノメイガが羽化

2015-09-01 17:35:55 | 日記

チビスカシノメイガGlyphodes duplicalis Inouw, Munroe & Mutuura, 1981は最近やっと新しい図鑑に掲載されるようになった。たまたま2015年8月12日、私がこの博物館に寄贈した標本に博物館の番号を付ける作業を手伝ってくれている武田滋さんが、昼食時に生活工房の中川さんと採集にでる打ち合わせに出かけ、帰りに庭でカジノキの葉を折って作った繭を見つけた届けてくれた(写真1左側の葉の一部が折れ曲がり白い裏面が見えている部分が繭である)。私はそれをクワノメイガの蛹だと思っていた。 しかし8月20日羽化した蛾はそれとは違い、チビスカシノメイガであった。残念ながら羽化時に翅が伸びず、展翅がうまくできなかった。しかし今回羽化したもの(写真2)は明らかにクワノメイガではなかった。そこで私の所持しているクワノメイガと同定した標本(写真3)を比較のため並べた。ところが写真3もクワノメイガではなく、これもチビスカシノメイガで、2002年9月8日大分県九重町地蔵原の九重自然史研究所の灯火で採集したものだ。
私は地蔵原高原の昆虫を2005年ころまでファイルメーカを使って写真付きのファイルを作って整理していた。そのファイルに登録された種数はすべての目を含めると4000種近くになったと思う。しかし次第にその作業をしなくなり、自然観察と執筆に専念するようになった。
上に書いた博物館の番号付けはもうノメイガ類を終わっており、多分10頭ほどの標本がすべてクワノメイガとして登録されたことになる。番号付けは、昔、30年ほど前同定してその種名ラベルの下に並んでいる標本をその種名でどんどん登録した。だからそれについている種名ラベルが正しいかどうかわからない。35000点の標本をいちいち同定を見直しながら種名ラベルをつけているといつになっても番号付けが終わらない。今は番号付けを優先して、一刻も早く全標本の番号をつけたいと考えている。ただ今住んでいる滋賀県の昆虫に関する記事はこのシリ―ズで書くことにする。

2. 滋賀県大津市和邇産ヨスジノメイガの飼育

2015-09-01 17:22:01 | 日記

 本種の幼虫は独居性で巣を作ることはないが、体の回りに糸が張られており、それらが落下防止用の命綱の役割を果たしている。しかしこの状態では隣の幼虫が張った糸もあり、一つ一つの領域はどこなのかわからない。ただ明らかに集合性はなく、幼虫と幼虫の距離は離れている。小枝の先端をそれぞれ1幼虫が占拠しているのかもしれない。繭は葉の表側に作られることが多いが裏面にも作られる。これは葉表の場合、主葉脈を少し越えたところから糸を張り始めると、自然に幼虫の体を入れる空間が作りやすいからだろう。繭は葉の片側の大部分を占めている。
 最初の幼虫は8月13日蛹化し、それは8月20日羽化した(写真6)。同写真7は玖珠町で飼育羽化した雄である。昔は小さな蛾でも綺麗に展翅できたが、長い間小さな蛾の展翅をしなかったせいもあるが今は小蛾の展翅がうまくできない。

1.滋賀県大津市和邇産ヨスジノメイガの飼育

2015-09-01 16:49:26 | 日記

滋賀県大津市和邇産ヨスジノメイガの飼育
 ヨスジノメイガPagyda quadrilineatの幼虫は九重昆虫記第5巻162~164ページで紹介した。1981年9月16日、大分県玖珠郡玖珠町帆足の大分県立玖珠農業高校校庭に置かせていただいている二段式誘蛾灯に入った昆虫を回収に訪れた。同高校の阿部俊久教諭が校庭のムラサキシキブ(クマノツヅラ科)にシモフリスズメ幼虫ともう1種小さな蛾の幼虫が発生していると言うので、それらを採集し持ち帰った。その小蛾幼虫を飼育するとヨスジノメイガが羽化した。当時は二段式誘蛾灯の採集品を整理することに追われていて、ヨスジノメイガの幼虫は終齢時の写真を撮り、体長を測り、羽化日を記録しただけだった。一端(いっぱし)の昆虫学者になったつもりでも、まだ駆け出しの新米時代のノメイガ幼虫との出会いだった。またその前の年つまり1980年9~11月同校のシンジュにシンジュキノカワガが大発生した。駆け出し時代はノメイガの幼虫を飼っても、この仲間の生態の面白さなど露ほども気づかなかった。それに気づいたのは退官して数年経った、つまり70歳を超える頃だ。今読みなおすと第5巻の記事によれば繭も蛹も見ていない。ただ観察を繰り返すだけでは進歩はしない。それを文章で表現し考察する過程でだんだんいろんなことがわかって来るものだ。
 2015年8月12日、武田滋さんから滋賀県大津市和邇の武田さん宅の庭木ヤブムラサキに発生している小蛾がついた小枝が届いた。その幼虫は体長30~35mm、背面は灰色で各体節に黒斑が四つずつ並んでおり、側面から見ると亜背線が白く気門下線は黄色で美しい。側面にも各体節側面にも黒斑があり、気門はその後ろにあるが小さく写真でははっきりしない。頭部は淡褐色で小さい。ヤブムラサキもクマノツヅラ科なので、その幼虫は玖珠で飼育したヨスジノメイガだとすぐ判明した。
図版の写真1と2は終齢幼虫の側面と背面である。3は巣は作らないが落下防止用命綱は十分に用意されている。