「堺・百舌鳥野。ここには古代に造営された古墳が、1500年の時を経て今も残っています。古墳文化が花開いた時代、大阪湾にほど近いこの地には、かつてない巨大な前方後円墳が造営されました。そして、それをとりまく中小の古墳とともに、様々な形状の古墳を擁する古墳群を形成しています。古墳の一つ一つがかつての日本の姿を今に伝える貴重な歴史遺産であり、日本の歴史の1ページを語る世界的な遺産でもあります。この遺産を今後も末永く守り、まちづくりへと活用していくため、堺市は百舌鳥古墳群の世界文化遺産登録をめざした取り組みを進めています。」(堺市HPより)
現在、堺市を中心に大阪府・羽曳野市・藤井寺市、そして「古墳群は地元市だけでなく大阪全体の貴重な財産だ」として大阪府市長会も全面支援している。現在までの経過は
・平成19年(2007)9月26日、世界遺産の国内暫定リストへの追加を求める提案書を提出
・平成20年(2008)9月26日、国の世界文化遺産特別委員会による審査の結果、「百舌鳥・古市古墳群」をはじめ5件が世界遺産の国内暫定リストに追加された。
・平成27年(2015)7月28日、国の文化審議会世界文化遺産特別委員会での審議の結果、「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」(福岡県)の推薦が適当とされ、「百舌鳥・古市古墳群」の今年度の推薦は見送られた。
現在、次年度以降の推薦待ちという状況です。一国一件という枠があるので、当面はかなり厳しいと思われます。
世界遺産とは・・・
1972年のユネスコ(国連教育科学文化機関)総会で「文化遺産及び自然遺産を人類全体のための遺産として、損傷、破壊等の脅威から保護し、保存すること」を目的に締結された条約にもとづく。登録されるためには「顕著な普遍的価値を有する」ことが必要とされています。そしてWikipediaには次のように書かれている。
「その「顕著な普遍的価値」を証明できる「完全性」と「真正性」を備えていると、世界遺産委員会から判断される必要がある。完全性とは、その物件の「顕著な普遍的価値」を証明するために必要な要素が全て揃っていることなどを指す。真正性とは、特に文化遺産について、そのデザイン、材質、機能などが本来の価値を有していることなどを指す。」
百舌鳥古墳群の世界遺産たる「顕著な普遍的価値」
5,6世紀の墳墓として貴重な歴史遺産には間違いない。ただし、これは誰かを埋葬した墳墓です。その”誰か”を確定的に特定できない点、文化的価値に瑕疵を生じさせている。堺市HPの「世界遺産登録に関するQ&A」に
Q.古墳に葬られている人が特定できなくても、世界文化遺産に登録できるのですか。
A.世界文化遺産への登録にあたっては、それが本当に古墳かどうかという点が問われます。たとえ学術的に被葬者が特定されていない場合でも、ただちに世界文化遺産登録の支障になるものではないというのが世界遺産の専門家の見解です。
その通りだと思います。やや価値を減じるが、その点では世界遺産登録には支障はないと思う。「5,6世紀の巨大な墳墓」という価値はあるのです。問題なのは、世界遺産たる「顕著な普遍的価値」を証明できる「完全性」と「真正性」を備えているか、ということです。
まず「完全性」について。墳墓の被葬者のみならず、内部の構造、石室、埋葬品、埋葬状況など分っていないことが多い。1500年前の遺物なので、解明に困難が伴うのは当然ですが(盗掘ということもある)、解明しようとする努力がなされているかどうか、ということです。これが現在、国の意思によって拒否されている。
宮内庁は「陵墓は単なる文化財ではなく皇室の祖先祭祀の場である。よって静安と尊厳を維持すべきものである」として、一般人の出入りだけでなく考古学者など研究者の立ち入り調査さえを拒否している。皇室用財産で、立ち入ることのできない聖域なのです。現状では「完全性」を追求することができない。
次に真正性について。現在目にする大仙陵古墳(仁徳天皇陵)などの陵墓は、周囲を広い濠に囲まれ、青々とした常緑樹が繁る墳丘を、真っ白な玉砂利が敷き詰められた奥に石の鳥居,陵標,石柵などの設置された拝所から遥拝する。その威厳に満ちた雰囲気は、万世一系皇室の存在を改めて印象づけさせられる。
しかしこうした姿は、原初のものでしょうか?。築造当時は葺石で覆われ埴輪などが並べられていた。決して現在のように青々としたものではない。その後古墳の大部分は、放置され、農民など自由出入りし、さらには盗掘されれるままになっていた。ところが江戸末期,幕末に近づくにつれ様相が一変する。勤皇思想の高まりと尊王攘夷の動きで,陵墓の管理が厳しくなってくる。立ち入りが禁止され、全国的な陵墓の大修理・増築が開始されるのです。濠を拡張・改造し、墳丘を整形し松,杉,カシ,ヒノキなどの常緑樹が植えられ、前方部正面に拝所が設置された。明治維新政府も天皇中心の国づくりのため天皇陵を神聖化し、今日見るような景観に整形・改造・変形していったのです。これで本来の価値を保持しているといえるのでしょうか?。真正性についても疑問です。
文化財か?、皇室財産としての聖地か?
宮内庁の管理する陵墓は、現在文化庁の文化財行政の対象となっていない。天皇陵で「国宝」「重要文化財」「特別史跡」「史跡」といった指定を受けているものは皆無なのです。小さな古墳ながら、国の史跡指定を受けている古墳は幾つもある。陵墓でないからです。ここ百舌鳥古墳群でも、いたすけ古墳は国の史跡に指定されている。ところが百舌鳥古墳群で中核をなす大仙陵古墳(仁徳天皇陵)、田出井山古墳(反正天皇陵)、ミサンザイ古墳(履中天皇陵)、ニサンザイ古墳、御廟山古墳は一切の指定を受けていない。陵墓もしくは陵墓参考地として宮内庁管理の下に置かれているからです。
国内で文化財として扱われていないものが、世界文化遺産として認められるはずがない。正倉院の例があります。正倉院は、1998年(平成10年)に「古都奈良の文化財」の一部として世界遺産(文化遺産)に登録された。その時、正倉院は皇室用財産として文化財保護法による指定の対象外となっていた。しかし世界文化遺産として登録されるには、文化財として国の法律によって保護されていなければならないという条件があった。そこで前年の1997年(平成9年)5月19日、文化財保護法による国宝に指定されたのです。
「百舌鳥・古市古墳群」は、平成20年(2008)9月、国の世界文化遺産特別委員会よって世界遺産の国内暫定リストに追加された。国の認定なので、当然宮内庁も了解したものと考えられる。国は、宮内庁は陵墓を文化財として扱うようになったのでしょうか?。宮内庁の見解を知りたく探したが見つかりませんでした。
今年(2015年)の国内推薦は逃したが、堺市は次年度以降の推薦を目指して更なる努力をすると意気込んでいる。そして多くの税金がつぎ込まれていく。先日の報道では(2015年12月初旬)、関西の大御所・桂三枝まで引き出したようです。
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国の推薦を受けると、ユネスコの審査官がやって来ます。
官「この景観は、原初のものですか?」
市役人「・・・・・」
官「誰のお墓ですか?」
市役人「**さんのようですが、ハッキリしたことは・・・」
官「現在お調べ中ですか?」
市役人「諦めています」
官「中を見させていただけますか?」
市役人「オエライ方が眠っていらっしゃいますのでご遠慮下さい」
官「なぜですか?」
市役人「静安と尊厳を維持したいからです」
官「????」
審査を通るはずがない。ロビー活動、おもてなしによっては・・・(そんなもんかもしれないが・・・)
詳しくはホームページを