神戸大学内には、通称名の全学での使用を目指す動きがある。2022年3月に定年退職したロニー・アレキサンダー元男女共同参画推進室(現ジェンダー平等推進部門)長(現名誉教授)は、現在、通称名の使用などLGBTQI+の学生や教職がより快適に過ごせるキャンパスづくりを目指し、ガイドライン作りなどを進めている。アレキサンダー名誉教授自身がLGBTQI+当事者であり、現在は、ジェンダー平等推進室のコーディネーターとして同室の活動やユネスコチェア事業に携わっている。ジェンダー平等推進室(通称:ジェンダー平等推進センター)は2007年に設けられたものの、性的マイノリティの人々を含めた学内での平等を実現する実質的な活動はまだできていないという。多様性が尊重される環境をつくるには、何が必要なのか。<佐藤ちひろ、笠本菜々美>
(写真:ロニー・アレキサンダー名誉教授、ハリネズミのぬいぐるみと一緒に。研究室で)
▼記事「学内で通称名使用の動き 多様性が尊重される大学に(1) 国際文化学研究科で通称名使用認められる 一人の学生の行動がきっかけ」=https://blog.goo.ne.jp/kobe_u_media/e/ef1fcea4ada9bfd8a1d6d199a15bc97c
▼記事「学内で通称名使用の動き 多様性が尊重される大学に(3)すべての人が学びやすく、働きやすい環境づくりを目指す」=https://blog.goo.ne.jp/kobe_u_media/e/8b576471530896c9bb18197785b33093
マイノリティとの交流 問題解決のきっかけに
アレキサンダー名誉教授には、マイノリティへの関心を高めるために神戸大学内で「ライフスタイルカフェ」や映画祭を開催するという考えがある。LGBTQI+の問題に限らず、自由に話し合う場づくりを目指す。
「マイノリティ問題の原因は当事者ではなく、当事者を囲むコミュニティにある。そのため、マジョリティを変え、教育する必要がある。周囲がマイノリティのことを理解すれば、全ての問題解決にはならないが、問題が減るのではないか」と名誉教授は話す。また、「当然だと思っていることが当然であるとは限らない。悪気はないが差別的な態度をとってしまっている人が差別に気づき、態度を変えることが大切。マイノリティに関するセミナーやシンポジウムに、興味のない人にこそ参加してほしい。まずはマイノリティと会話を始めることから」と語った。
アレキサンダー名誉教授のカミングアウトで、大学での通称名使用に動き
2000年ごろ、アレキサンダー名誉教授は朝日新聞で、自分が同性愛者であるというカミングアウトをした。すると、その記事を見たトランスジェンダーの学生が翌年4月、法学部に入学してきたという。その学生が通称名の使用を希望すると、教授会で議論されたのち、使用許可が出た。当時、学長も通称名使用の話に関心を寄せ、体育の授業などでもできる限りの配慮がなされることになった。通称名の使用はほかの学生にも波及し、在日外国人の学生も通称名を使い始めた。カミングアウトに影響された学生は、発達科学科で行われた授業でトランスジェンダーであることをカミングアウトし、サンテレビによる取材も行われたという。
アレキサンダー名誉教授は、「神戸大で、通称名使用やカミングアウトの機会など、マイノリティを支える動きがあったことをみんなもう忘れているのではないか」と話す。このような行動を、ケースバイケースにしないことが大事であるという。つまり、個別対応ではなく、共通の規則ができるとよい。大学は、別の性別の使用や通称名を使用するうえでの規則などをホームページなどで公開した方がよいという。また、「人によっては、名前、身体、言葉など様々な懸念を抱えている。インクルーシブとは多様なニーズに向き合うこと。みんなが分かるようなガイドラインを作成し、それを広めることが重要だ」と、マイノリティが抱える問題を広く知ってもらうことの必要性について述べた。また、支援の仕方については、「女性だけ増やそうとか、一部分だけ変えようとしてもうまくいかない。的を絞ってしまうと、それに該当しない人がどうするのかという話になる」と、多種多様な人々に配慮した支援を行うことの必要性を論じた。
(写真:写真=大教室で授業開始を待つ学生。六甲台第一キャンパス第2学舎で)
自分の好きな呼ばれ方で、自由な大学生活を
他にも、「自分の呼ばれ方に不満がある人や、当然のように恋人の有無を聞いてくる人がいることに対してしんどい思いをしている人がいると思う」と話す。「これは単にガイドラインを作成するだけでは変わらない。意識を変える必要がある」。
今回の、学生による通称名の使用を求める行動も一つの動きだが、「カミングアウトできないでいるトランスジェンダーの人などはもっといっぱいいるのではないだろうか」という。
アレキサンダー名誉教授は、悩みを抱える学生に向けて、「学生の頃は自分がトランスジェンダーだと思っていたが、実は違ったという人も沢山いる。大学生は、どういう自分を作り上げていきたいかを試す時期。性やアイデンティティーは変わるもの。いろいろなことを試してみてよいと思う。それを自由に試せる場が大学の役割の一つであると考えている。トイレの在り方、生理、君付け、お祈りなど、好き嫌いやいい悪いといった判断ではなく、自由に、好きにできるようになるといい。今は、話しにくい人もいると思うが、まずは口に出してみることが必要」と話した。
50年前と比べると、マイノリティへの視線に変化も
50年前に比べると、現在は、マイノリティへの視線が多少変化したという。アレキサンダー名誉教授は、「マイノリティを理解する人は、いくらか増えた。ただ、態度が変わっていない人も沢山いる。本当の平等、公正の実現はまだまだ先」と話す。また、大学で働く教員の空気感について、「神戸大学では、女性教員の数は増えており、少しずつ環境がよくなっている。だが、まだ平等へのスタートラインに並んでいるかいないかといったところ。学生が引っ張ってくれたら動く先生は沢山居ると思うが、先生は忙しいため自分からはあまり動かない」と懸念を示した。
マイノリティ 「左利き」のようになればいい
今後、どうなればマイノリティ問題が解決したといえるのか。アレキサンダー名誉教授は、「左利き」の人々は、ある程度生活しやすくなったマイノリティであるといえる、と述べた。日本を含め、右利きの人々が多い傾向にあり、人々が普段使う道具も、右利きの人が使いやすいようにされていることがある。かつては、将来生きづらいのではないかという心配から、左利きの子どもがいると、周りの大人が右利きに矯正しようとすることが多かった。しかし現在は左利きでも矯正している人は少ない。アレキサンダー名誉教授は、今あるマイノリティの人々も、「左利き」のように、違いが認識されても問題だと思われない状態になったらよいのではないかと考えている。
▼記事「学内で通称名使用の動き 多様性が尊重される大学に(1) 国際文化学研究科で通称名使用認められる 一人の学生の行動がきっかけ」=https://blog.goo.ne.jp/kobe_u_media/e/ef1fcea4ada9bfd8a1d6d199a15bc97c
▼記事「学内で通称名使用の動き 多様性が尊重される大学に(3)すべての人が学びやすく、働きやすい環境づくりを目指す」=https://blog.goo.ne.jp/kobe_u_media/e/8b576471530896c9bb18197785b33093
了
(写真:ロニー・アレキサンダー名誉教授、ハリネズミのぬいぐるみと一緒に。研究室で)
▼記事「学内で通称名使用の動き 多様性が尊重される大学に(1) 国際文化学研究科で通称名使用認められる 一人の学生の行動がきっかけ」=https://blog.goo.ne.jp/kobe_u_media/e/ef1fcea4ada9bfd8a1d6d199a15bc97c
▼記事「学内で通称名使用の動き 多様性が尊重される大学に(3)すべての人が学びやすく、働きやすい環境づくりを目指す」=https://blog.goo.ne.jp/kobe_u_media/e/8b576471530896c9bb18197785b33093
マイノリティとの交流 問題解決のきっかけに
アレキサンダー名誉教授には、マイノリティへの関心を高めるために神戸大学内で「ライフスタイルカフェ」や映画祭を開催するという考えがある。LGBTQI+の問題に限らず、自由に話し合う場づくりを目指す。
「マイノリティ問題の原因は当事者ではなく、当事者を囲むコミュニティにある。そのため、マジョリティを変え、教育する必要がある。周囲がマイノリティのことを理解すれば、全ての問題解決にはならないが、問題が減るのではないか」と名誉教授は話す。また、「当然だと思っていることが当然であるとは限らない。悪気はないが差別的な態度をとってしまっている人が差別に気づき、態度を変えることが大切。マイノリティに関するセミナーやシンポジウムに、興味のない人にこそ参加してほしい。まずはマイノリティと会話を始めることから」と語った。
アレキサンダー名誉教授のカミングアウトで、大学での通称名使用に動き
2000年ごろ、アレキサンダー名誉教授は朝日新聞で、自分が同性愛者であるというカミングアウトをした。すると、その記事を見たトランスジェンダーの学生が翌年4月、法学部に入学してきたという。その学生が通称名の使用を希望すると、教授会で議論されたのち、使用許可が出た。当時、学長も通称名使用の話に関心を寄せ、体育の授業などでもできる限りの配慮がなされることになった。通称名の使用はほかの学生にも波及し、在日外国人の学生も通称名を使い始めた。カミングアウトに影響された学生は、発達科学科で行われた授業でトランスジェンダーであることをカミングアウトし、サンテレビによる取材も行われたという。
アレキサンダー名誉教授は、「神戸大で、通称名使用やカミングアウトの機会など、マイノリティを支える動きがあったことをみんなもう忘れているのではないか」と話す。このような行動を、ケースバイケースにしないことが大事であるという。つまり、個別対応ではなく、共通の規則ができるとよい。大学は、別の性別の使用や通称名を使用するうえでの規則などをホームページなどで公開した方がよいという。また、「人によっては、名前、身体、言葉など様々な懸念を抱えている。インクルーシブとは多様なニーズに向き合うこと。みんなが分かるようなガイドラインを作成し、それを広めることが重要だ」と、マイノリティが抱える問題を広く知ってもらうことの必要性について述べた。また、支援の仕方については、「女性だけ増やそうとか、一部分だけ変えようとしてもうまくいかない。的を絞ってしまうと、それに該当しない人がどうするのかという話になる」と、多種多様な人々に配慮した支援を行うことの必要性を論じた。
(写真:写真=大教室で授業開始を待つ学生。六甲台第一キャンパス第2学舎で)
自分の好きな呼ばれ方で、自由な大学生活を
他にも、「自分の呼ばれ方に不満がある人や、当然のように恋人の有無を聞いてくる人がいることに対してしんどい思いをしている人がいると思う」と話す。「これは単にガイドラインを作成するだけでは変わらない。意識を変える必要がある」。
今回の、学生による通称名の使用を求める行動も一つの動きだが、「カミングアウトできないでいるトランスジェンダーの人などはもっといっぱいいるのではないだろうか」という。
アレキサンダー名誉教授は、悩みを抱える学生に向けて、「学生の頃は自分がトランスジェンダーだと思っていたが、実は違ったという人も沢山いる。大学生は、どういう自分を作り上げていきたいかを試す時期。性やアイデンティティーは変わるもの。いろいろなことを試してみてよいと思う。それを自由に試せる場が大学の役割の一つであると考えている。トイレの在り方、生理、君付け、お祈りなど、好き嫌いやいい悪いといった判断ではなく、自由に、好きにできるようになるといい。今は、話しにくい人もいると思うが、まずは口に出してみることが必要」と話した。
50年前と比べると、マイノリティへの視線に変化も
50年前に比べると、現在は、マイノリティへの視線が多少変化したという。アレキサンダー名誉教授は、「マイノリティを理解する人は、いくらか増えた。ただ、態度が変わっていない人も沢山いる。本当の平等、公正の実現はまだまだ先」と話す。また、大学で働く教員の空気感について、「神戸大学では、女性教員の数は増えており、少しずつ環境がよくなっている。だが、まだ平等へのスタートラインに並んでいるかいないかといったところ。学生が引っ張ってくれたら動く先生は沢山居ると思うが、先生は忙しいため自分からはあまり動かない」と懸念を示した。
マイノリティ 「左利き」のようになればいい
今後、どうなればマイノリティ問題が解決したといえるのか。アレキサンダー名誉教授は、「左利き」の人々は、ある程度生活しやすくなったマイノリティであるといえる、と述べた。日本を含め、右利きの人々が多い傾向にあり、人々が普段使う道具も、右利きの人が使いやすいようにされていることがある。かつては、将来生きづらいのではないかという心配から、左利きの子どもがいると、周りの大人が右利きに矯正しようとすることが多かった。しかし現在は左利きでも矯正している人は少ない。アレキサンダー名誉教授は、今あるマイノリティの人々も、「左利き」のように、違いが認識されても問題だと思われない状態になったらよいのではないかと考えている。
▼記事「学内で通称名使用の動き 多様性が尊重される大学に(1) 国際文化学研究科で通称名使用認められる 一人の学生の行動がきっかけ」=https://blog.goo.ne.jp/kobe_u_media/e/ef1fcea4ada9bfd8a1d6d199a15bc97c
▼記事「学内で通称名使用の動き 多様性が尊重される大学に(3)すべての人が学びやすく、働きやすい環境づくりを目指す」=https://blog.goo.ne.jp/kobe_u_media/e/8b576471530896c9bb18197785b33093
了
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