選ぶ機会をつくること 「自律と内発」

自分のこどもや部下に
「自律型」になってほしいですか?
それとも
「依存型」になってほしいですか?



多くの親や会社の人材育成担当者からは
「自律してほしい」ということを何度も聞いた。

しかし、
そのほとんどの場合がその言葉とは逆のこと、
つまり、
「自律」ではなく「依存」させるような
アプローチや組織制度をとっていた。

「自律」とは「自分で自分をコントロール」すること。

そして「自律性」を育てるにはどうするか、
「自ら選択させる機会」を増やすことだ。
逆に、
「管理・統制・命令」することは、「依存」を促進する。



ここで自戒の意味も込めて改めて問いたい。

「『自律してほしい』といいながら
こどもや部下を「管理・統制・命令」ばかりしていないだろうか。」



「自律」してほしいといいながら
思い通りに動かそうと「管理・統制・命令」ばかり
していることはないですか。
目標や時間だけで管理しようとしてませんか。



それを考え直すいい機会を
先日、通勤ラッシュの電車の中で得た。

私の目の前にいた母親は出勤するため、
そしてその子どもを幼稚園に送り届けるためいそいでいた様子。
ギリギリ電車に間に合ったという様子がわかる。

どうやら出発前の洗面所でいろいろとあったようで
電車の中で親子のやり取りが続いていた。

親:「朝の歯磨きと顔を洗うかどうかは、自分で決めてね。」
子:ぐずる
親:「お母さんは、○○ちゃんが歯を磨かなくても顔を洗わなくても困らないし、
   汚いまま幼稚園にいけばいいから、どうするかは自分で決めてね。
   お母さんは、洗った方がいいと思うけどね。
   でも、もう5歳なんだから自分で決めてね。」
子:「いやだー。お母さんに決めてほしい」
  (と言いながら、いろいろと感じ考えている様子がわかる。
   相当響いているようだ)
親:「赤ちゃんだったらお母さんが全部決めてあげる。
   でも、もう赤ちゃんじゃないでしょ。」
子:・・・


このやりとりをみながらデンマークのある家庭での
親子のやりとりを思い出していた。
「歯を磨いて、顔を洗いなさい」と一切、命令しないのだ
行動時間や起床時間を管理するわけでもない。
自ら選択をさせている。
しかし、
明確にメッセージは伝わっている。それを選択するのは本人だ。

この対話の前提として
親子の信頼関係が築かれていることがある。
やりとりから、
こどもが親を親が子どもを信頼していることがよくわかった。
その上で、あえてこどもに「選択する機会」をつくっている。
こどもの「自律」を育てるため。


その「自律感」があらゆる内発的モチベーションにつながる。
エドワード・L・デシ著「人を伸ばす力 自律と内発のすすめ」を読み
デシの自己決定理論をであい「本質がここにある」と確信したことを
思い出させてくれるやりとりだった。

人を伸ばす力―内発と自律のすすめ

エドワード・L. デシ,リチャード フラスト

新曜社


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勉強とは個人的なもの???

北欧の友人と話していたら
その学習観を知る上で非常に興味深いことがでてきた。

それは、
友人の中国人が「勉強とは個人的なもの」と
考えているということに彼女は驚いてたのだ。
「おかしいと思わない?」という感じで。

彼女が言うには、勉強というのは
みんなで行なう「協働的なもの」だというイメージが強いらしい。
なるほど、日本の学校ではあまり見られない光景かも知れない。

考えてみると確かに、
日本でもそのようなイメージを暗黙に
持っていることが多いのではないだろうか。
勉強とはコツコツと机に向かって
一人で行なうものというイメージを。

ここで確認しておきたいのは
その勉強法が重要でないと言っているのではない。
学びを考える時に、そうした勉強法が「すべて」と
考えていないだろうかということである。


与えられたことを記憶するだけであれば
1人でした方が効率がいいかも知れない。
しかし、
何か新しい別の考え方に気づいたり、
異なる意見の中から新しいものを創り出すということは
個人ワークよりグループワークに方が格段に効果的だ。

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1990年代以降の教育学、および関連諸科学では、
『学びとはけっして個人の頭の中に
知識やスキルを伝達することではない』
という認識が急速に広がった。(中略)
一言で言えば、
学習とは「伝達」ではなく、「変容」である。
(「ダイアローグ 対話する組織」中原淳・長岡健)

エンゲストロームが「学習活動=拡張による学習」と呼んでいる活動は、
集合体や社会で自明とされている前提(活動の前提)の
文化的―歴史的基盤を問い直し、
新しい前提を創出していく活動のことである。
(「コミュニティのグループ・ダイナミックス」杉万俊夫編著)
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言われたことを正確にこなす力を求められた産業社会から
新しいものを創り出す力が求められる知識創造社会になり、
「学習」という行為や「学力」重要なポイントが変わってきた。
それをまだ、旧社会の学習観に捉われていないだろうか。

学力低下といわれるが
そもそも「学力」とは何かということを
理解していないことが多い。
しかし、
知識量だけでは何もできないということに
反論する人はいないのではないであろう。
となると、
他に重要な要素があるということは
理解しているはずなのである。


北欧の友人が言うように
「勉強」ということに対するイメージが
これほど違う。

まさに「学び」とは「協働的」なものというイメージを持っており、
つまり、Collaborativeなものであり、
さらにいうとCreativeなものである。
それは、いま世界で言われている学力の方向性である。
その社会通念が個人に及ぼす影響は計り知れない。


知識を暗記すること、やりかたを覚えることは重要だ。
しかし、知識創造社会を迎えた現在において
それをどう活用し、知の創造していくかということが重要視されている。
それが、グローバル化する社会において求められるコンピテンシーである。

日本の稚拙な報道や本などに囲まれ
その文脈の中で井の中の蛙となっている危険性があることを
改めて北欧人が気づかせてくれた。

やはり、北欧から学ぶことはまだまだ大いにありそうだ。


ダイアローグ 対話する組織

中原 淳,長岡 健

ダイヤモンド社




コミュニティのグループ・ダイナミックス (学術選書―心の宇宙 (005))



京都大学学術出版会


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デンマークの社会とは何であったのか

前回、デンマークの教育の成功の本質は
一貫したウェイがあることとかいた。

では、どのようなウェイなのか?
一つ間違いなくいえることは
デンマークが「自律」を促進している社会だということだろう。

つまり、
デンマークでは、学校・社会・家庭の3つが一貫して
「自律」を促進する環境になっているということ。

その「自律」の重要性は、
OECDのDeSeCo Projectのキーコンピテンシーにも上げられている通り
ビジネス界においてもその重要性は広く認識されており
目指すべき人材像に「自律」を掲げている会社も少なくない。


エドワード・L・デシなどによると
「自律」は「内発的動機」に必要なものであり、
そして、その「内発的動機」は「創造」や「問題解決」をもたらし、
その結果「幸福感」にいたることがわかっている。

「創造」や「幸福感(従業員満足)」などと
多くの組織で課題となっているものの根幹にこの「自律」がある。


自分で自分をコントロールする「自律」が
心の内側から湧き出るやる気「内発的モチベーション」につながり
それが「よりよい活動」をうみ、「幸福度」の増進につながる。

その「自律」をどう育成されるのかということはあまり知られていない。
これだけ注目されている「自律」であるが、
「自律はどうすれば育つか?」といわれて
その本質を答えられる人はどれだけいるだろうか。

ちなみに少なくとも「規律・管理統制・命令」で「自律」が育つわけはなく、
それらは対極にあるものである。
しかし「自律してほしい」といいながら、管理・命令ばかりしている人は、
誰の周りにもいるのではないだろうか。


「自律」を育てるデンマーク社会。
どうやってデンマーク社会の幸福度世界NO1になったのか、
その最も本質的で重要なことを下記の本が説明してくれている。


この「人を伸ばす力 内発と自律のすすめ」は
何度読んでも新しい発見がある。
なぜこの本があらゆる方面で活用されないのか理解できないほど、
「ヒト」や「学び」の考え方の正真正銘の本質がかかれている。
はっきりおすすめと自信を持っていえる名著

人を伸ばす力―内発と自律のすすめ
エドワード・L. デシ,リチャード フラスト
新曜社






※キーコンピテンシーとは、
OECDによるDeSeCo Projectにおいて、これからの社会において大切な3つのキー・コンピテンシーが定義されている。
Desecoの出発点は旧来の学力観では重要な資質を見落としてしまうということ
Successful lifeとwell-functioning societyに貢献するコンピテンシーに焦点を当てた。人間が望ましい社会生活を送るのに必要な能力

3つのキーコンピテンシー
●Use tools interactively (e.g. language, technology) (相互作用的に道具を用いる)
●Interact in heterogeneous groups (異質な集団内で相互交流する)
●Act autonomously(自律的に行動する)

(参考:競争やめたら学力世界一 フィンランド教育の成功」福田誠治 著
Key competencies for successful life and a Well-Functioning society.2003)
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