Think Globally, Act Regionally:『言葉の背景、カルチャーからの解放、日本人はどこへ往く』

身のまわりに見受けられるようになった「グローバル化」と生きる上での大事な「こころの健康」。さまざまな観点から考えます。

◆◇第56回「メイドインジャパンが世界に貢献したこと、するべきこと」」(改訂2版)

2013-05-12 19:48:18 | ■日本人はどこへ往く?

第56回「メイドインジャパンが世界に貢献したこと、するべきこと」(改訂2版)

前回は、日本および日本人のアイデンティティを振り返り、未来を探ってみました。

そこで今回は、
オバマ大統領の2013年一般教書演説の中で、米国製造業の新革命 Made in Americaの言葉を聞きながら、
日本企業の成果物である「メイドインジャパン」とグローバル化のかかわりを考えてみたい。
    
ここでは、ノーベル賞の対象となっている、物理学、化学や医学生理学などの自然科学分野には触れず、
ビジネスや生活分野でのグローバル貢献を主に論じます。

メイドインジャパンは、

生活や芸術分野では、
1.快適な生活追求(食べ物)と2.美的センスによって、

ビジネス分野では、
3.工業技術開発と4.組織経営/生産管理手法で、
世界に貢献してきました。

1.快適な生活追求は、食べ物と芸術分野に分けられます。
ある意味では、戦後の日本人は、生活の質的向上、心地よい生活、安全で安心できる生活を追求してきたとも
言えます。

食べ物は、健康志向の日本料理のことで、代表的なSushi(寿司)とTofu(豆腐)が挙げられます。
Sushiはカリフォルニア・ロールやbrown rice(玄米)の巻き寿司など、海外では、食材やねたが変わっているにせよ、
基本は鮮魚と生野菜から造られており、外形は日本の寿司を踏襲しています。
全世界に、Sushi restaurantがあり、Nigiri(にぎり)などは、欧米人やアジアの富裕層の健康志向に合致しており、
人気の高い食べ物です。
ただ、惜しむらくは、高級日本料理店の一部の経営者を除いて、一般の市民が食べられるSushi店の経営者は、
韓国人(アフリカ)だったり、台湾人(米国)だったりしているのが現状です。

2.美的センスとは、芸術分野での世界貢献のことで、一つは、すぐれた演奏家による芸術表現を意味します。
これまで数々の国際コンクールで優れた日本人演奏家が輩出しており、私たちの感性に美的な喜びと幸福感を与えてくれます。
3大国際コンクールの一つ、チャイコフスキー国際コンクールでは、ピアニストの上原彩子(第1位2002年)をはじめ
ヴァイオリニストの神尾真由子(第1位2007年)、潮田益子(第2位1966年)や加藤知子(第2位)、
チェロの藤原真理(第2位1978年)がいました。ショパン国際ピアノコンクールでは、内田光子が1970年第2位に、
エリザベート王妃国際音楽コンクールでは、ヴァイオリニストの 堀米ゆず子と戸田弥生がともに第1位
(1980年と1983年)に、諏訪内晶子と成田達輝が第2位(1989年と2012年に)、ピアニストの若林顕が第2位(1987年)となっています。
欧米の正統クラシックの只中に、アジアの日本人の感性が認められたのは、驚きとしか言いようがありません。
音楽だけでなく、デザイン、Manga(漫画)やアニメは、アジアや欧米で影響力を発揮しています。
また、文学分野でのHaiku(俳句)の影響も、米国など英語圏を中心に根強い人気を保っています。
これら芸術分野では、日本人の感性、自然観などが色濃く反映されたもので、世界に通用するオリジナリティを備えています。

さて、ビジネス分野に移りましょう。

3.工業化社会での洗練された技術開発

Made in Japanが世界を席巻したのは、1950年代の繊維製品から始まり、1960年代後半に鉄鋼、カラーテレビなど
家電製品、そしてソニーのオーディオ製品(ウォークマン)の1979年から1990年代までと言えましょう。
1980年代では、自動車・半導体が世界を席巻しました。この間、製造業での「匠の技」といわれる、
洗練された、こだわりの技術が日本人技術者の気性と合致し、それにより生み出されたMade in Japanの製品が、
欧米先進国の消費者ニーズを満たしたのです。
1997年に開発されたトヨタ・プリウスは、世界初の量産ハイブリッド自動車となり、環境に優しい技術の最先端に位置しています。

4.組織経営/生産管理手法

1970年代から80年代にかけて、日米経済摩擦が生じると、欧米の経営学者は、競って日本的経営の謎に研究主体を移しました。
1979年には、社会学者でハーバード大学教授のエズラ・ヴォーゲル氏の「ジャパン・アズ・ナンバーワン」が執筆され、日本の競争優位の源泉(日本人の学習意欲の高さなど)が分析されました。日本独自の生産管理技術(ジャストインタイム)や統合的品質管理技術(TQC:トータル・クオリティー・コントロール)などが世界の製造業をリードし、これら日本発の経営手法は、米国製造業を中心に広がっていきました。
更に、長期的視点での経営手法は、欧米とは異なる経営文化のかたちとして、世界の企業へと影響を及ぼしたのでした。特に、日本の集団主義の経営は、欧米の個人の能力開発中心から、チームワークによる全社的な生産性(収益性)向上の研究へと結実し、学習する組織(ピーター・センゲ1994年)などの著作が欧米で人気を博しました。
また、国の産業界への関わりの深さ(強力な国の産業政策)は、米国など先進国だけでなく、
今日では、新興工業諸国の産業政策に多大の影響を与えています。

さて、ここでは、
ビジネスと生活・芸術分野での
Made in Japanの要素を、

1.食べ物
2.美的センス
3.工業化社会での技術開発
4.組織経営/生産管理手法

の4つに分けました。

これらのMade in Japanの有用性(今後どれだけグローバル世紀<21世紀>で役立つだろうか)という視点で
考えると、

1.食べ物は、世界の民が裕福になるにつれて、日本人並みの味覚能力に達するに違いないので、
  先進国だけでなく、新興諸国に対しても、十分に貢献できる。

2.美的センスも、世界の国々に、金と時間に余裕ができてくると、(贅沢な)美的観賞に注意を向ける傾向になるため、その存在理由はなくならない。

3.工業化社会での技術開発については、これこそ、工業化社会へ突入していくだろう、新興諸国予備軍(VISTA、NEXT11)への技術サポートというソフトで、貢献できる。

4.組織経営/生産管理手法については、3と同じく、Made in Japanのソフト・コンテンツの開発が重要となります。
  なにせ、新興諸国(予備軍)での英文テキストが不足しているのです。
  ある時、ガーナの技術高等専門学校の校長がボロボロのKaizen(1986年刊)の英文テキストを示してくれたのが記憶に残っています。必要としている所に、必要な知識が届いていないのが世界の現状なのです。
  日本独自の生産管理技術は、もはや日本だけの財産ではなく、グローバル(ユニバーサル)な知恵となっているからです。もしかすると、韓国か中国の学者やコンサルタントあたりから、現場で使える英文のノウハウ本が出版されるかもしれません。

日本は、グローバル化のどこに集中すればいいか。

第52回「グローバリゼーション(グローバル化)~文化面とドラッカーのとらえ方~」で触れた、アパデュライのテクノスケープ(technoscapes。工業技術や情報技術の拡散によって支配される世界)で貢献するしかないのかな、と思います。そのための、ソフト(教材)開発と人材開発が急がれます。(初版2013-02-12)

(4月15日+5月12日追加)
現在、筆者はテキサス大学(オースチン校)にいますが、大学院入学のために、英語を勉強している中東諸国からの留学生(注☆☆参照)が実に大勢います。ちなみに当大学の国際学部(大学院入学準備、特別研究員や上級英語者のためのクラス)の約半数が中近東からで、次に多いのが南米、そして韓国からの留学生となっています。サウジアラビアやクウェートなどアラブ諸国からの留学生は、政府派遣の留学生で、入学金・授業料だけでなく、生活費も極めて十分なscholarshipが支給されています。アラブ地域からの男子留学生の大多数が、civil engineeringなどエンジニア志望です。もし、日本の理工学系大学が英語で授業を実施するようになれば、これら中近東からの留学生のニーズを満たすことができ、これまでの日本の科学技術の成果を世界の若者に教えることができるのになあ、とつくづく思います。グローバル教育とは、日本の得意とする学問の成果を、世界の若者と分かち合うことでもあります。

※写真は、NHKテレビ60年記念ドラマ「メイドインジャパン」のHPから、
そして堀込ゆず子のCDジャケットは、burleskeのクラシックブログから転載した。

☆☆テキサス大学オースティン校2013年spring semester(1月-5月期)留学生数
◆国際学部総数355名
アラブ系学生 175名(49%)
南米系学生 64名(18%)
韓国系学生 46名(13%)
中国系学生 19名(5%)
その他*  51名(15%)
*その他とは、
東欧、中央アジア(タジキスタンを含む)、アフリカ地域、
タイ、日本人は6名(1.7%)。
地域別の人数は、著者による推定。

☆なお、
Times Higher Education世界大学ランキング(2012-2013年エンジニアリング・技術分野)では、

テキサス大学オースティン校 13位
東京大学   28位
京都大学   47位
となっている。

◇また、
イギリスの大学評価機関、
クアクアレリ・シモンズ社(QS Quacquarelli Symonds)の
「QS世界ランキング分野別2013年(Civil & Structure Engineering)」では、

1位 インペリアル・カレッジ・ロンドン(Imperial College London)
2位 カリフォルニア大学バークレイ校
3位 東京大学
7位 京都大学
10位テキサス大学オースチン校
となっている。

◇★第53回「イノベーションと競争優位~ソフトテクノロジー戦略」★◇

2012-05-05 18:36:12 | ■日本人はどこへ往く?
◇★第53回「イノベーションと競争優位~ソフトテクノロジー戦略」★◇

 これまでグローバル化、競争優位とイノベーションを考え続けてきましたが、土曜日のテレビ番組
(4月28日NHKBS2のGlobal Debate Wisdom)を見ながら、メディアのグローバルな視点も
やっと出てきたのかな、と感じられました。
ここで言うグローバルな視点とは、海外と双方向で議論を進めるということです。
ただ、NHKの海外報道番組を見ていると、伝統的に情報輸入の素晴らしい仕組みはさすがだと
思います(ワールドWave Tonightなど)。
しかし、情報輸出(発信)の貧しさは昔と同じようです。

 さて今回は、隣の大国中国のイノベーション戦略です。

 知り合いのコンサルタントから勧められたのは、金周英(ジン・ジョウイン)教授著
の「グローバル技術変革~ハード・テクノロジーからソフト・テクノロジーへ」でした。

 彼女は、中国社会科学アカデミー(CASS)教授で、テクノロジーイノベーション戦略
研究所(CTISS)所長という肩書を持っています。
 技術というと、現在ではハード技術が中心に語られますが、彼女は、Technologyの歴史
から紐解き、Technologyの真の意味を、ハードとソフトの両面へと回帰させ、
『本来のTechnology』(ソフト技術+ハード技術)による統合的イノベーションを主張
されています。

 354ページの大著を私なりに掻いつまんで説明すると、
「競争優位」を確保するには、以下の三次元要素を同時に実施しなければならない。

1.『本来のTechnology』ソース、
2. イノベーションの手段、
3.イノベーションの環境。

 言いかえれば、
総合的な競争優位の核になるものは、
1.ハード技術+ソフト技術によるイノベーション(問題解決)の設計能力、
2.イノベーション(問題解決)を実現する能力
(ソフト技術分野のイノベーション能力)と
3.イノベーション(問題解決)の実施環境(組織内環境のイノベーション能力)
ということになります。
 
 ここで、ハード技術の定義とは、「自然科学の知識」であり、「物理世界で作用するもの」となり、
ソフト技術とは、「非自然科学、非伝統的科学の知識」で、
「人間の心理的行動や社会的態度に作用する」との定義がなされています。
従って、1のソフト技術のソースとなるものは、経済、社会、文化、人間、自然(エコや環境)、
生命・心理・身体、人工的なもの(ソフトウェア・ITなど)が含まれます。

 2のソフト技術分野のイノベーション能力に移りましょう。日本の視点からみると、
製造業(モノづくり)では、ハード技術のイノベーションを中心に議論がなされていますが、
そのハード技術のイノベーションを育むには、ハード技術以外のソフト技術
(設計・経営というソフト技術、生産分野のソフト技術(MOTを含む)、マーケット創造というソフト技術、組織変革のソフト技術など)が大事だということです。
日本は伝統的に、これらのソフト技術を米国からの輸入に頼ってきていました。
ですから、ソフト技術分野のイノベーションを実施する能力にはやや厳しい面があります。
しかし日本にも、生産分野のソフト技術としてトヨタのカンバン方式があり、暗黙知の共有・継承によるユニークな経営技術(野中郁次郎)があり、洞察力/直観力に富む企業・国家・グローバル経営戦略家としての大前研一の戦略設計技術などは世界に誇れるものでしょう。

 私が特に重要だと思ったのは、3.組織内環境のイノベーション能力という項目です。

 というのは、
第13回「イノベーションさもなければ死か~イノベーション競争力:日本、世界1位の中身」
で長い間疑問に思っていたことが、この項目3を考えた時に氷解したと思えたことです。
つまり、2007年5月14日付Economist Intelligence Unit (EIU)は、日本のイノベーション
競争力を世界一に位置づけた。

しかし、

イノベーション環境は先進国中、かなり低いレベルであった、ということです。
つまり、組織内環境のイノベーションに相当な怠りがあったゆえ、凋落が始まったのでは、
と考えています。
これは、組織内環境を変革するには、どうしても、伝統的な日本の企業文化(序列タテ社会、
和を尊ぶ風土、率直な意見の交換に不慣れなど)に縛られ、その組織変革は先送りにされが
ちだということです。グローバル化のスピードについていけず、イノベーションの機会損失
→競争優位の低下を齎したと言えるでしょう。

 さて話題を変えて、
中国の直近のソフト技術戦略に眼を向けてみましょう。
中国の伝統医学(中医)のグローバルスタンダード戦略が強力に進められています。
アジアの伝統医学では、日本独自に発展してきた「漢方」や韓国の伝統医学「韓医学(韓方)」
などがありますが、中医がISOで世界標準になれば、
先端的な生薬製造技術+西洋医学との併用による臨床面での優位性などで一日の長がある
日本の漢方もグローバリゼーションの芽がつまれるでしょう。
これまで日本は、電気通信/ITの分野では、グローバルスタンダードが取れず、
苦杯をなめてきましたが、将来性のある伝統医学分野での勝敗も目に見えてきそうです。
これも、ソフト技術分野(グローバル経済での戦略設計/立案)での認識不足や準備不足、
政府レベルでの組織環境のイノベーション欠如(そのための窓口がない!)が原因となっています。

 勿論、中医のソフト技術は、潜在的なソフト産業の一部で、同書の中でも、重要な競争優位戦略の
一分野と記されています。

 確かに、
インターネット以前には、日本というルール内での土俵で勝ち、その後海外へ出て、
そのソフト技術(日本的経営技術)で勝ち抜いた時期がありました。
けれども、現在のインターネットを通したグローバル経済の中では、
日本の土俵と世界の舞台での基盤の違いが色濃く現れることになります。

グローバル人材
(他文化に理解あり、他文化とコミュニケーションの取れる人財。
翻訳文化を通した知識の涵養ではスピードの差は歴然!)の養成と
イノベーションを孵化しやすい組織文化への脱皮が焦眉の急でしょう。

☆なお、「グローバル技術変革~ハード・テクノロジーからソフト・テクノロジーへ」
の目次は以下のようになってます。
1.技術とは何?(c ソフトテクノロジーって何?)
2.ソフトテクノロジーの歴史的前例
3.ソフトテクノロジーと技術的競争優位
4.ソフトテクノロジーとイノベーション
5.ソフト産業
6.ソフトテクノロジーと第4世代のテクノロジー展望

読む価値のある本です。

※金周英教授の写真(上中)は、
北京ソフトテクノロジー・アカデミーのHP
より、認知症に効果が実証されている「抑肝散」(右上)は、
ツムラのHP
より、NHKBS2のGlobal Debate Wisdom(右下)は、NHKのHPより拝借した。

[参考文献]

Zhouying Jin (2011):
"Global Technological Change -From Hard Technology to Soft Technology," Intellect Ltd.
 
Zhouying Jin (2005) "Globalization, technological competitiveness and the 'catch-up’challenge for developing countries:
some lessons of experience," International Journal of Technology Management and Susstainable Development Volume 4 Number 1
Zhouying Jin (2004) "Technological progress in history: a survey of evolution and shift of research emphasis from ‘hard-tech’to‘soft-tech’development," 
International Journal of Technology Management and Sustainable Development Volume 3 Number 2
Zhouying Jin (2003) "The Fourth Generation of Technology Forsight and Soft Technology," Futures Research Quarterly, Summer

<中医>
ISOのPaper on Traditional Chinese Medicine


ISO委員の中国訪問

★No.50 “Global Japanese-Their Role Models”

2010-03-25 23:47:35 | ■日本人はどこへ往く?

★☆No.50 “Global Japanese – The Role Models of Autonomous and Independent Japanese”☆★



This article deals with an appropriate image of a future Japanese.

From three viewpoints of knowledge, skill and attitude, five necessary conditions are required to discipline Japanese themselves who can work globally.

First is “Mastering knowledge is supposed to follow an information processing system.”
Second is “Be familiar with Critical Thinking/Writing.”
Third is “Enhancing English proficiency is critical, particularly speaking and debating.”
Fourth is “Be Assertive, not submissive.”
And
Last is “Ethnorelativism is one of the effective ways to commune with cross cultures and to prevail upon ethnocentric Japanese.”

Each explication is as follows:
1. An information processing system comprises three elements: input, process/analysis and output. Wrong inputs of information lead to tortuous results (outputs). Particularly, Japanese tend to receive imported information without criticism and examination. In case Japanese do not think critically, the stage of process and analysis is inappropriate to understand and analyze things.
Accordingly, collecting correct and appropriate information is critical through English writing not only via Japanese literature.

2. Critical Thinking/Writing is a Western standardized way to deal with things since Socrates. On the other hand, a traditional Japanese way of thinking including spiritualism with which materials can be controlled has not been effective in a real business society. At the same time, strategic viewpoints are expected to do better business.

3. According to IELTS, International English Language Testing System conducted by The Commonwealth of Nations encompassing the UK, Canada and Australia, Japan was ranked number 15 out of 20 non-English native countries in 2005. Besides evaluating humility higher, Japanese are in one of higher context societies where information is delivered worldwide and quite an implicit society. This was advocated by Edward T. Hall in 1955 and beneficial even now.

Western societies sympathize with explicit expression, not implicit words saying that “Silence is Gold”, the famous proverb in Japan.

Thus, Japanese are supposed to express clear, precise and understandable ideas by mastering debate and speaking globally.

4. Japanese are seemingly submissive and underline the image of modesty and humility, obeying Wa (harmony) both in a workplace and at home. Humility easily tends to submissiveness. To avoid this misunderstanding, such an attitude as assertive persons may be needed. Many Japanese behave with obsequious otherwise haughty manners.

Submissive attitude is one of the solutions to deviate from a servile and arrogant posture.

5. Learning Ethnorelativism will open Japanese eye to what cross cultural societies are. Ethnocentrism is based on the ideas and beliefs of one particular culture, race or group and using these to judge other cultures. On the other hand, Ethnorelativism that has been developed since Giambattista Vico is to accept other cultures by recognizing that one particular culture is one of many other ideas and beliefs in the world. With ethnorelativism, we can empathize with other cultures, being able to come in and go out of cross cultural societies.

Photos above who are global Japanese as a mentor :
from left above,
Inazo Nitobe (1862-1933), Educator, author of Bushido: The Soul of Japan(1900).
Daisetsu Suzuki (1870-1966), author of books and essays on Zen and Buddhism.
Kenichi Ohmae (1943-), business and corporate strategist, author of The Borderless World.
Jiro Shirasu (1902-1985), a brain truster of Prime Minister Shigeru Yoshida, bureaucrat and business person.
Tenshin Okakura (1862-1913), 1st Dean of the Tokyo Fine Arts School (now the Tokyo National University of Fine Arts and Music), author of The Book of Tea.

Japanese Ver.

★☆第50回目「グローバル・ジャパニーズ~自律型日本人のロールモデル(あるべき姿)」☆★

2010-03-25 15:18:33 | ■日本人はどこへ往く?

★☆第50回目「グローバル・ジャパニーズ~自律型日本人のロールモデル(あるべき姿)」☆★


さて、ブログ開設から50回目で、1084日目の今回は、日本を出て海外で働き暮らすための日本人(グローバル・ジャパニーズ)のあるべき姿を考えてみたい。

あるべき姿を実現するには、知識、スキルおよび態度の3種類の切り口から判断し、

5つのグローバル・ジャパニーズの条件が必要となる。
(といっても、十分条件ではないが)

これらすべては、学習によって習得できるものである。

★グローバル・ジャパニーズの条件1☆
「人間の知識習得は、情報処理システムに似ている」(知識1)

★グローバル・ジャパニーズの条件2☆
「Critical Thinking(クリティカル・シンキング。合理的な思考方法)に慣れること」(スキル1)

★グローバル・ジャパニーズの条件3☆
「語学、特に英語の運用能力(スピーキングおよびディベート)を高める」(スキル2)

★グローバル・ジャパニーズの条件4☆
「卑屈にならず、堂々たる態度をとる」(態度1)

★グローバル・ジャパニーズの条件5☆
「異文化(交り合う文化、多文化)に親しむためには、文化相対主義に目覚めること」(知識2)


それぞれ、解説してみよう。

◆条件の1:
「人間の知識習得は、情報処理システムに似ている」(知識1)

情報処理システムとは、「Output出力←Process処理+Storage蓄積←Input入力のシステム」のことである。
つまり、出力(=結果や成果)があるということは、まず第一に、「入力」(=的確な情報の収集)があり、その入力された情報を加工処理(脳の働き、2のCritical Thinkingを参考)し、蓄積(記憶)した上でなされるということである。

的確な情報とは、特に、海外発の情報には注意が必要となる。日本語に翻訳される時に、どうしても翻訳者のバイアスや思い込みが入り、原文との差異が出てくるからである。また、情報源の質の確認も重要となる。間違った情報を元にすると、その次の処理(分析や解釈など)や蓄積に齟齬をきたすことになる。英語の窓から知識を収集するひとと日本語だけの窓から知識を収集するひととの判断(出力)は、当然違ったものとなる。

参考:第31回「加速されるグローバリゼーションのモード(形)と情報の国籍」


◆条件の2:
「Critical Thinking(クリティカル・シンキング。合理的な思考方法)に慣れること」(スキル1)

Critical Thinking(クリティカル・シンキング)については、このブログで何回も触れているが、どうということはない。

というのは、ある分野では、日常的にやっていることなのだが、日本社会の中に身を置くと、つい伝統的な日本の文化慣習(空気)に流されて、和の精神、調和のこころが、正常な合理的な思考を停止(エポケー)してしまう。

ある分野とは、
自然科学分野の実験では、rationale(理論的根拠)を要請されるのは当たり前であり、スポーツでは、データ重視の野球が主流になり、産業界でも、POS(販売時点の情報管理)による販売管理などなど、西欧からの合理的な精神は日本社会の至るところにあります。一方で、「頑張れ、頑張る」といった、日本の伝統的精神主義的な思考(?)方法は、まだまだ、日本社会やビジネス社会には、根強く残っている。

社会に流されない、合理的思考を元にした判断および行動が求められている。

参考:第4回「批判するって、どういうこと?(健全なる批判精神のかたち)」


◆条件の3:
「語学、特に英語の運用能力(スピーキングおよびディベート)を高める」(スキル2)

「沈黙は金」、「男は黙って、、、」など、日本文化には「沈黙」は高く評価され、以心伝心のオリジナリティ(独自性)が長く言われてきた。これは、ホールの言う、周りの状況に左右されやすい「ハイ・コンテキスト社会」でのコミュニケーションの形であり、ほとんどの情報が既に人々に行き渡っているため、はっきりと表に出したり、メッセージとして明確に表現したりすることが、非常に少ない(苦手な)社会だ。一方、欧米社会に多い「ロー・コンテキスト社会」は、周りの状況に左右されにくい文化(ホール)であり、ロー・コンテキスト社会でのコミュニケーションは、大量の必要情報が、はっきりとした言葉で表現される。

欧米社会や欧米の言語(英語等)の思考方法に慣れたアジアやアフリカなどで生活、ビジネスを上手にやっていくには、あいまいでない、はっきりとした表現が必須となる。言いかえれば、話す能力や議論の技術を向上させていくことが求められている。

参考:第24回「クロスカルチャー・マネジメント理論と社会/ビジネスへの応用(その一)」


◆条件の4:
「卑屈にならず、堂々たる態度をとる」(態度1)

謙虚さは、欧米の文化でも、評価されることもある。英語では、humilityやmodesty(名詞)、humble(形容詞)などがあるが、謙虚さと卑屈さの境界があいまいなことや日本人の態度がともすると不可解なものととられ、市井では、プラスイメージというよりも、マイナスイメージになることが多い。

態度というと、極めて表面的なことだと思われがちだが、意外と、表面的なこと(例えば、身なりや自信に満ちた姿勢など)で他人を評価しているのは、海外の人々だけでなく、日本人自身の周りに見られることだ。卑屈さは、自信のなさに起因することが多く、自信のなさは、自己否定につながっていく。

この種の態度の分析は、第45回「Assertive(堂々と主張する)とSubmissive(従順な)のあいだで」を参照ください。


◆条件の5:
「異文化(交り合う文化、多文化)に親しむためには、文化相対主義に目覚めること」(知識2)

自文化絶対主義(エスノセントリック。一民族中心主義、自国中心主義、自グループ中心主義)とは、自分以外の他文化・異文化に対して、知識も興味もない状態のことを言う。言いかえれば、他文化・異文化への理解拒否あるいは否定の段階のことである。

一方、
文化相対主義(エスノレラティブ)とは、

自国文化を数多くの他の有効な世界観の正に一つであると感じることで、他の文化を容認することだ。世界は広い。アジアやアフリカなど、先進諸国とは違った貧困国でも、家庭生活はあり、人間としての感情はいずれも似たものがある。一度、その地に住めば、人間同じなんだなあと感じることが多い。つまり、多文化への共感の段階がくる。言いかえれば、他の異なる文化を理解し、それに相応しい方法で行動できるような段階がある。この経験を深めることが、2元文化あるいは多元文化理解の土台になっていく。そうなると、異なった文化の中に入ったり、出たりする、融合の境地に入ることが可能となる。

参考:「第21回「クロスカルチャー下でのチームワーク、そして朝青龍問題~それぞれの国の文化・習慣をどう乗り越えるか~」


この分野のメンター(師)となりうるような日本人(グローバル・ジャパニーズ)を写真としてあげた。


※上記の写真は以下のサイトから使用した。

・新渡戸稲造
http://www.klnet.pref.kanagawa.jp/denshi/g_works/gw07_nitobe.pdf
・岡倉天心
http://www.ibaraki.ac.jp/izura/data_item4.html
・鈴木大拙
http://www.klnet.pref.kanagawa.jp/denshi/g_works/gw14_suzuki.pdf
・白洲次郎
http://www.amazon.co.jp/gp/product/images/4101288712/sr=1-3/qid=1269487166/ref=dp_image_text_0?ie=UTF8&n=465392&s=books&qid=1269487166&sr=1-3
・大前研一
http://www.microsoft.com/japan/business/enterprise/executivecircle_jp/new_industryrevolution01.mspx

English Ver

◆第49回「続 グローバル化のメリット/デメリットとは?」

2009-11-25 22:53:54 | ■日本人はどこへ往く?


 ◆第49回「続 グローバル化のメリット/デメリットとは?」 


前回第37回「グローバル化のメリットとは?」では、欧米側の経営的視点から、国際経営学のテキストを元に議論を進めた。欧米のテキストは、日本のこの種のテキストと違い、現実のグローバル企業の実証研究を調査し、それを体系化するものが一般的だ。

さて、
今回の「続 グローバル化のメリット/デメリットとは?」では、
日本の調査報告書を元に、グローバル化をどうとらえているかを考えてみたい。


◇経済産業省の見たグローバル化の実態◇

経済産業省は、2008年の通商白書(世界経済の動向および内外経済政策を分析した60回目の報告書)で、日本を取巻くグローバル化の現状をマクロ経済的に分析している。

企業の観点から見た「グローバル展開でのメリット(デメリット)」および家庭(労働者および市民)の観点から見たグローバル化のメリット/デメリットである。

企業の観点からは、

海外での証券投資の収益が増加していること、現地国への直接投資の収益が増加していることが示されている。これら海外への投資の収益を「所得収支」といい、これまで、日本の経常収支を黒字にしてきた「貿易収支」(クルマなどモノの輸出))は横ばいのままである。この所得収支の黒字の増加が、経常収支黒字の増加につながり、対外純資産の増加につながっている。これが、更なる海外投資へと好循環の輪になっている。

一方、
企業の観点でのデメリットとしては、

企業の海外進出に伴う「国内産業の空洞化」により、国内生産の低下→雇用の減少(所得格差)と連なっていく。

更に、グローバル展開をすることは、これまでの国内だけの競合企業との闘いだけでなく、全世界の競合企業との競争になるため、より過酷な状況になると言えよう。現地の商習慣、現地の社会制度・労働法などとの違い、他文化の顧客への対応など、これまでにない違った分野が出てくることになる。


次に、
労働者/市民から見た、グローバル化のメリットは何だろう。

金融サービスの面から見れば、インターネットを使って、これまでは、日本国内の金融機関のみに限られていた取引が、瞬時に、海外の金融資産に投資が可能になったことだ。海外の金利の高い金融商品に投資をして、利益を得ることが可能になった。

また、為替差益の面では、円高になればなるほど、海外旅行で日本円のメリットを享受できるばかりでなく、円高による輸入品の低下も市民の視点から見ればメリットとなる。

一方、デメリットについて
当白書では以下の指摘がなされている。

労働者の賃金が減少すること(グローバル化による労働者の交渉力の低下とITなどによる産業資本や技術の集約化が要因となる)。

また、外国人株主の保有比率が高い業種ほど、株主重視、従業員軽視で、賃金の低下が認められるとの分析もある。
さらに、国内では、スキルのある労働者とスキルのない労働者間の格差が拡大する。

海外へ行く日本人労働者や一般市民の場合、
世界語としての英語の活用が一般的であるため、現地の人たちとのコミュニケーションの取り方が至難となることが考えられる。

また、海外では、
現地の文化、社会への対応が求められるため、これまでのような国内での考え方や過ごし方では、現地社会への適応が難しくなる。
(カルチャーショックの回復法や海外でのアイデンティ・クライシスについては、第42回「日本人の自律心を育むには」を参照)

以上、白書を元に、個人の見解を加えて、
メリットおよびデメリットを考えてみた。

グローバル化と言うと、

まず、企業組織のグローバル化が頭に浮かぶが、
企業活動に伴う製品/商品のグローバル化や
技術のグローバル化は進んでいても、

ひと(労働者)のグローバル化、
金融サービスのグローバル化は、
これからの日本の大きな挑戦になる。


【参考】
経済産業省「通商白書<2008>新たな市場創造に向けた通商国家日本の挑戦」 
写真は、通商白書から使用した。


★☆第48回「自然、人間、挑戦/忍耐」~慰めから励ましへ☆★

2009-11-22 03:43:16 | ■日本人はどこへ往く?

★☆第48回「自然、人間、挑戦/忍耐」~慰めから励ましへ☆★

地震列島の日本では、古来から、自然への尊敬、畏怖や服従という感覚が一般的であった。これは、クルックホーン&シュトゥロットベックの「バリュー・オリエンテーション理論」トロンペナーズの「7次元文化モデル」に指摘されるまでもなく、日本人の間では共通認識となっている。

一方、欧米的考え方では、自然は征服すべきものとの信念があり、機械としての自然対象との感覚である。

日本的な考え方では、自然の驚異をそうやすやすと取り除くことは不可能であり、一度自然災害の猛威を経験すると、人間の無力感を感じる。その無力感を克服するには、「忍耐力」が最も大切な人間的対応であると考えられてきた。反対に欧米では、自然は征服すべき対象であるから、それに果敢な「挑戦」をして立ち向かうことが大事な人間的要素と考えられている。

この自然への忍耐、つまり自然への共生という習慣は、人間関係にも大きな影響を及ぼしている。人間関係でも、挑戦して相手を倒す、というよりも、耐えて、調和を持って、共生していくことが長年の日本人の知恵となっている。従って、耐えて耐える人を「慰める」ことが普通である。

欧米の文化では、どうか。自然に対しても立ち向かう。人間に対しても挑戦する。これが普通の感覚らしい。挑戦している人には、「励ます」ことが当たり前となるのだ。

さて、「第42回日本人の自律心を育むには?~エリクソンの人生8段階発達理論から」で触れたことだが、欧米人の励まし方の例をDr.Gary Chapmanのミリオンセラー(世界で300万部以上)の書物で検証してみよう。

彼は、結婚カウンセラーとして30年以上の経験をもち、まずい人間関係を克服し、より良い人間関係をつくるために「愛のコミュニケーション方法」を提唱している。愛のコミュニケーション方法とは、愛を表現するにはどうしたらいいか(愛の表現方法)というものだ。カップル向け、独身者向け、家族向けなど、いろいろな愛の方法集を刊行しているが、ここでは、カップル向けの有名な「5つの愛の伝えかた」を紹介する。

1.Words of Affirmation 「肯定的な言葉のやり取り<はい=イエス>」
2.Quality Time「二人で過ごすステキな時間をつくる」
3.Giving/Receiving Gifts「互いに贈り物を送ったり、受取ったりする」
4.Acts of Service, Acts of Help「奉仕やお手伝いをお互いに。家事育児などのシェアから自分たち以外の社会へのボランティア活動など」
5.Physical Touch「2人の触れ合いを大切に」

これら5つの基本的な愛の伝え方を、まずお互いに理解し合うことが必要。
つまり、相手はどの方法で、自分の愛を表現したがっているか、ということだ。
これは、相手の気持ちを忖度するのに長けている日本人には容易にマスターできるものだ。相手の愛の表現方法に気がついたら、それを素直に受け入れれば、自分自身の満足につながるだろう。もちろん、相手にも、自分の愛の表現を気づかせる努力も必要となる。そうすることで、お互いのコミュニケーションが良い方向へ発展し、2人の間の関係を克服できるんだ、ということになる。

こんなことを考えていたら、
たまたまNHK Worldで、「Hometowns in Focus/ハイビジョンふるさと発」 "Enduring Words ~Poet of Hiroyuki Tsutsui~"(2009年11月20日)で、歌人の笹井宏之(本名 筒井宏之)が取上げられていました。

日本人の家族(母やおばあさん)への愛の表現は

・シゲヨさん、むかしのことをはなすとき百合にならなくてもいいからね

(宏之さん本人のブログより:僕にはフィクションの歌が多いのですが、「シゲヨさん」は珍しくじっさいにいる人、祖母です。)

・冬ばってん「浜辺の唄」ば吹くけんね ばあちゃんいつもうたひよつたろ

(宏之さんの父のブログ:宏之が祖母のためにフルートで吹いてくれた「浜辺の唄」)

・葉桜を愛でゆく母がほんのりと少女を生きるひとときがある


笹井宏之の短歌より印象に残った句です。

・ひきがねをひけば小さな花束が飛びだすような明日をください

・ねむらないただ一本の樹となってあなたのワンピースに実を落とす

・風という名前をつけてあげました それから彼を見ないのですが

・えーえんとくちからえーえんとくちから永遠解く力をください  (脚注を参照)


日本文化の優れた遺産のひとつ、短歌には、
これだけの(愛の)表現方法があるのになあ、と、
現実日本の家族や人間関係のつながりの希薄さに失望しながら、
この現代社会の有り様が、これまで耐えてきたことの代償だとしたら、
こんな不幸な国民はないでしょうに。

どうやら、
これからの人間関係では、
耐えることよりも、励ますことの方が、
なんだか得ることが多いような気がします。


◆上記の写真は、【些細】短歌というみじかい詩を書いています/笹井宏之とジェニファー・ロペス(JL)のアルバム「Brave」から。JLの歌詞や映画は、女性の強さや女性への励ましが中心コンセプトになっているものが多い。

◆(脚注)
「えーえんとくちからえーえんとくちから永遠解く力をください」  
エーエンと口から、永遠と口から、永遠解く力を下さい
(エーエンは嘆き悲しみの声)との解釈も可能。

◆参考:
Dr. Gary ChapmanのWebサイト
彼の日本語訳の書物 「愛を伝える5つの方法」は、キリスト教文化を基盤とした2人への励ましの言葉になっている。

★☆第46回「国内のビジネスを、どうグローバルに展開するのか」☆★

2009-11-16 05:45:44 | ■日本人はどこへ往く?

★☆第46回「国内のビジネスを、どうグローバルに展開するのか」☆★


国内でのビジネスしか経験がない。
しかし、巷では、「グローバル化」が生き残りの戦略として議論になっている。
さて今回は、グローバル展開するには、何をどうしたらいいのか、を考えてみよう。

国内でのビジネスでは、人、もの、カネ、情報、技術などの経営資源(要素)が一般的によく知られている。

グローバルなビジネスでは、この国内版経営資源に加えて、グローバル展開のための6項目の経営要素が定番となる。

つまり、グローバルになりたい会社やグローバル・リーダーには、以下の知識が必要となる。

①地域貿易協定(FTA:自由貿易協定など)および貿易実務)[貿易関連知識]
②為替レートと利益の本国送金[国際財務管理]
③進出国の法律、政策、税金関連および知的財産のレギュレーション[進出国企業関連法および規定]
④本‐海外支店間の管理/統制[国際組織管理]
⑤多文化下での人的資源管理[国際人的資源管理、iHRM]
⑥異なる文化・商習慣の下での経営管理システム[国際経営管理]

経営者ならお分かりのように、国内だけの知識では、なんとも自社のグローバル化は足元がふらついてくるのである。言い換えれば、この6項目を看過して、国内と同じ経営要素だけでグローバルな経営展開を図ろうとすると、手痛い打撃を受け、挙句は失敗して、退却戦略の採用を余儀なくされることになる。

賢明な経営者であれば、
「ああ、そうなのか。これらグローバルな経営要素を勉強して(させて)、今までの国内での経営経験を活かしていけば、面白いグローバル展開になりそうだ。これは、自社の今後の世界発展への可能性となりそうだ」と、考えるだろう。

◆グローバル展開するための自社のビジネスモデルを確認する。

まず、世界へ船出するには、自社の足元を確認することから始めなければいけない。それは、自社のビジネスモデルが世界に通用するかどうかを見極めることに他ならない。

ビジネスモデルとは、儲けを生み出すビジネスの具体的な仕組みとか、競合する他社に対して、自社のもつ強みなどといわれている。後者の意味では、競争優位(コンペティティブ・アドバンテージ)をいかに確保していくかということが、企業の事業戦略および現代の経営学のメインテーマであり続けている。

競争優位については、古典的なM・ポーターの5フォーシズ(5つの競争要因)とジェネリック(一般基本)理論が、そしてポーターを乗り越えようとするRBV(リソースベース理論)などが激しい議論を展開し、これら両理論の前提ともなっているシュムペーターの創造的破壊・イノベーション理論などがある。海外での競合企業は、必ずと言っていいほど、この理論に基づいて、グローバル展開を検討している。
(参考 第32回「グローバルな競争優位を築くには~M・ポーター、RBVと両者の統合理論」および第38回「グローバル・ジャパンという方法

◆グローバル展開を行うプロセス

実証的な理論を基に戦略的に物事を考えるのが、欧米企業の常識となっている。日本の企業もグローバル展開を考えるに当たっては、戦略的に次のステップを取る方が成功への近道となる。

まず、グローバル展開をするかどうかのラフな意思決定の段階。
グローバル展開をしたいという希望から、するという意思決定の段階。
これには、自社の競争優位の確認がまず必要になる。ジェネリック理論に従えば、国内で自社の戦略的ポジションがどこにあるのか、なぜ国内で成功しているのかなどを確認する。

次に、それでは、どの地域、どの国へ展開したらよいか。

その後、いかに展開したらよいか。つまり、海外展開のモード(方法、様式)である。

ステップごとに説明をしよう。

1.展開するかどうかを決める(展開のタイミング)

自社の競争優位の源泉を確認する。低コストでの優位なのか、製品・サービスでの差別化なのか、はたまた、コスト集中か差別化集中か。更に、SWOT分析を進めてみる。とくに、S(自社の強み)の中のコア・コンピタンス(自社がもつ独自の能力)の抽出が大事となる。

つまり、自社の技術が世界を席巻する、世界を変えていく、革新的技術・サービスだとの自負がある場合や、自社の技術・サービスが想定国にまだ存在しないか、まだまだ適応できる余地があるという確認ができたら、グローバル展開を積極的に考えてみることだ。

2.進出先を選ぶ

● 国・地域の魅力度

進出先を選ぶには色々なアプローチがあるが、ここでは代表的な選定プロセスを紹介する。

まず、
「いろんな国・地域の魅力度」をおおまかに検討し、「事前選定」を考える。次に、「絞込み」の段階を経て、「本格選定」となる。

魅力度の要因として、自社製品・サービスの潜在マーケット度、そのマーケットの成長率、環境要因(気候・温度など物理的な要因、文化、政治・規制、経済、競合他社など)。

この基礎調査には、民間のコンサルティング会社、商社(貿易や総合商社)や政府系のJETRO(日本貿易振興機構)などへの相談が有効であらう。

民間のコンサルティングやリサーチ会社では、公開資料や有料のデータベースを駆使して、マクロおよびミクロ分析を経て、魅力度を推定する。マクロ分析とは、一国全体としての投資や消費などの考え方を用いて経済活動を分析することで、ミクロ分析とは、家計の消費活動や企業の生産活動など、個別の経済主体の活動を分析することにより、経済全体の分析に進む方法である。

国内の市場調査(マーケティング調査)では、コンサルティング会社、総合研究所、中小企業診断士などのコンサルタントが得意とする分野であるが、グローバル展開の場合、まだまだ、国内コンサルティング業界では経験不足があり、注意を要するところである。

グローバル展開する上で、現在魅力的なマーケットとして、一般的には、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)やBEMs(新興市場:ASEAN諸国、中国・香港・台湾、インド、韓国、メキシコ、ブラジル、アルゼンチン、南アフリカ、ポーランド、トルコなど)、NEXT11(新興経済発展国家群のことで、イラン、インドネシア、エジプト、韓国、トルコ、ナイジェリア、パキスタン、バングラデシュ、フィリピン、ベトナム、メキシコ)が挙げられることが多い。

国の魅力度を調べる場合の情報源として、OECDやWTOなどの国際機関のWebサイトや、BERI、EIU(Economic Intelligent Unit)、Transparency International, World Bank Counrty Data, Euromonitor GMID (Global Marketing Information Database. この30年以上の歴史をもつ、強力な国別マーケティング・データベースは、欧米のコンサルティング会社の定番ソースとなっており、有用である)、Business International Market Reportなどが有効な情報源となる。

世界マーケットの中での魅力度のラフな測定の次は、ある地域・国に当たりをつけて、「事前選定」を行う。

(以降、「事前選定での検討事項」→「絞込み」→「本格選定」→「最終決定」へと進む)


※上記の写真は、零目的のブログ(上海・左)と、地球の歩き方「旅スケ」(インド・右上)およびEuromonitor GMID(ロゴ・右下)のウェブページより転載した。


【参 考】

★グローバル展開を行うプロセス

■事前選定
See Albaum, G., Duerr, E. and Strandskov, J. (2005), Market Entry Strategies, in International Marketing and Export Management, 5th Edition, Ch.6, pp.246-279, Prentice Hall

■本格選定の段階
See Pacek, N. and Thorniley, D. (2004), Market Entry Preparation, in Emerging Markets: Lessons for Business Success and the Outlook for Different Markets, Ch.3, pp.18-27, Profile Books

■財務面の税金関係では、財務省の「国際課税に関する資料」に詳しい

■日本と外国(地域)の自由貿易協定(FTA)
外務省の経済分野に詳述されている。
 
■JETRO(日本貿易振興機構)のホームページ(JETROの企業サポートについては、ドイツと同様に国際的な評価が高い)


☆★第41回(欧州追加版)☆オバマ大統領のエネルギー革命は本物か~グリーン・ニューディール構想の姿~

2009-11-05 01:11:21 | ■日本人はどこへ往く?

☆★第41回(欧州追加版)☆オバマ大統領のエネルギー革命は本物か?
~グリーン・ニューディール構想の姿~

(欧州追加版)
最下の参考「欧州スーパーグリッド構想」に関連して、
BBCは11月2日、
「デザートテック・インダストリアル・イニシアティブ」が
2050年までの欧州のエネルギー需要量の15%の供給を目的として、
4000億ドル(約40兆円)の新規開発事業にサインした、
ことを伝えている。
このコンソーシアムは、ミュンヘンに本拠地を置き、
太陽光発電により、2015年までに欧州へエネルギーの供給を開始する予定。
ドイツ銀行、ジーメンス、E.On(エーオン。ドイツの大手エネルギー会社)
が含まれている。
【参考】
BBC News
"Sahara Sun 'to help power Europe'"
2 November, 2009


☆ ☆ ☆
☆★第41回☆オバマ大統領のエネルギー革命は本物か?
~グリーン・ニューディール構想の姿~
(2009年3月1日オリジナル版)

世界の潮流として知られている
第3の波が「情報化社会」で、
その次の波は、「コンセプチュアル社会」
なのか、
「次世代エネルギー社会」なのか?

さて、その手がかりは、
オバマ政権のグリーン・ニューディール、
つまり、クリーン・エネルギー革命から読み取れる。
どこが、エネルギー革命なのか?
当分野の2大書物(パーニック/ワイルダーとT.L.フリードマン)を中心に、
あるべき姿と構想内容をひも解きたい。

エネルギー革命の柱は、
次の4つだ。

1.クリーンであること:
 ビルや家庭では、太陽や風力発電など自然エネルギー(再生可能エネルギー)を使い、
 従来の石油など化石燃料を使用せず、二酸化炭素を出さない(地球温暖化対策と石油エネルギーからの自立)。

2.自律・分散型のエネルギー・システムであること:
 従来の集中型から、地域や自宅でも、ネットワークを介しても、
 自由にエネルギーが使えること。
 「どこでもエネルギー」(停電対策、電力セキュリティの確保)

3.エネルギーの流れが双方向であること:
 Energy Internet (T.L.フリードマン)とも呼ばれているように、
 電気が電力会社からの一方向ではなくて、電力会社への双方向(電気の売買)であること。 
 電気だけでなく、電気使用情報も双方向化される。

4.スマートな電力・電気管理であること:
 送配電網でのロスを低減化。
 ビルや家庭の電気をIT活用で、省エネへ向けて効率的な電力管理。

言い換えれば、
エネルギー革命の核は、
19世紀後半から今まで続いている従来の電力システムから、
21世紀型の次世代電力ネットワーク(スマート・グリッド)システムを構築しようとすることで、
発電ー送配電ーユーザまでの、電力インフラ(電力基盤)と電気利用のシステムを、
革新的に変えようとする壮大な挑戦になっている。

発電はクリーンな自然エネルギーで、
送配電は超伝導高電圧直流送電で、
家庭/ビルの利用者はIT化された「スマートメータ」で、電力エネルギーをスマート(賢く)にマネージし、電気は蓄電され、エコカー(電気カー)にも利用しようというものだ。
送配電は、ウエスティングハウスにより標準化された従来の交流送電から、
当初エジソンが提案していた直流送電に転換し、長距離の送電ロスを大幅に低減する。
なお、この直流送電の構想は、米国だけでなく、欧州でも進められており、北アフリカのサハラ砂漠と欧州を結ぶ「欧州スーパーグリッド」のアイデアもある。

電力ネットワークシステム全体のビジネスモデルの一新を図るだけでなく、
利用者(米国民)のエネルギー(電気)まわりの意識からライフスタイルまでを大転換しようというものだ。

ここが、エネルギー革命と呼ばれる所以だ。

インターネット以前と以後のライフスタイルの変化を思い起こせば、
この来るべき革命についても想像できるかも知れない。

オバマ政権は、
グリーン・エネルギー(再生可能エネルギー)の開発体制として、
ホワイトハウスに新設した「エネルギー・気候変動担当補佐官」にキャロル・ ブラウナー女史(元環境保護局長官)を据え、関連の政府機関全体の調整役としてリーダーシップが取れる機能にしている。エネルギー関連省庁のヘッドには、エネルギー庁長官にスティーブン・チュー氏(元ローレンス・バークレー国立研究所所長、ノーベル物理学賞受賞者)、環境保護局長官にリサ・ ジャクソン氏(元ニュージャージー州環境保護局長)、商務長官にゲーリー・ロック氏(前ワシントン州知事)を指名、年間150億ドル(10年間で1500億ドル)の予算をつけることになる。
そして、IT革命に続くエネルギー革命も、プロトコルの標準化(デファクト・スタンダード)やクリーンエネルギー関連商品の開発を通じて、米国が世界を主導していきたいとの決意を示している。

新しいビジネスモデル(あるべきビジネスの姿)を基に開発を進めようとしている米国に対して、
日本はどのような体制、構想をもっているのか(いないのか)。

次回は、日本のグリーン・ニューディールの内容と日本企業の実力を見てみよう。


※スマートグリッドを視覚的に理解しやすいのは、GE(ゼネラルエレクトリック社)のWebページだ。
上図左は、GEのSmart Gridのイメージ。中央は、欧州スーパーグリッド構想(黄丸が太陽光、青色が風力、緑がバイオマス)。右図は、T.L. Friedman (2008), "Hot, Flat, and Crowded"の表紙カバーとなっている、ヒエロニムス・ボス作「快楽の園」(http://www.thebeckoning.com/art/bosch/bosch-garden.htmlより使用した)。

【参 考】

Ron Pernick, Clint Wilder (2007), "The Clean Tech Revolution: The Next Big Growth and Investment Opportunity," Collins Business
ロン・パーニック/クリント・ワイルダー(2008)「クリーンテック革命~第三の巨大ビジネスチャンス」ファーストプレス

T.L. Friedman (2008), "Hot, Flat, and Crowded: Why We Need a Green Revolution--and How It Can Renew America," Farrar Straus & Giroux

◆Smart Grid(スマートグリッド<スマートな送配電力ネットワーク>)の定義:米エネルギー省(英語)
Smart GridのIntroduction (スマートグリッド紹介):エネルギー省の冊子(英語)

欧州委員会共同研究センター・エネルギー研究所(IE of JRC)の欧州スーパーグリッド構想(英語)

畑良輔(2008年)「GENESIS 計画と高温超電導直流ケーブル~究極の持続可能な『新エネルギー』の活用について~」(日本語)

◆第39回+「世界で一番ビジネスがやりやすい国はどこだ?DoingBusiness2009」(追補)

2008-11-02 07:35:28 | ■日本人はどこへ往く?

◆第39回プラスワン「世界で一番ビジネスがやりやすい国はどこだ?
~世銀/国際金融公社の『Doing Business 2009』リポートより~」(第33回の追補版)

今回は、すこし柔らかだが、大事なリポートについて。

世界銀行(WB)と国際金融公社(IFC)は、2004年から世界のビジネス環境の改善度を追跡調査しているが、9月10日にその年次リポート、「Doing Business 2009」を発表した。このリポートは、グローバル展開を考えている企業へのある種のガイドになるだろう。

世界181ヶ所の経済圏(国と地域)を対象に、当地でのビジネスのやりやすさの比較調査を行っている。評価項目は、規制の簡素化、所有権の強化、クレジット(信用度)、契約の履行度など10つの評価項目*からなる。(2010年からはビジネスインフラが追加予定)。

トップ8までは、昨年のDoing Business 2008と同じで、

(1位)シンガポール、(2位)ニュージーランド、(3位)米国、(4位)香港、(5位)デンマーク、(6位)英国、(7位)アイルランド、(8位)カナダとなっている。
一人当たりのGDPがアジアで一位のシンガポールとリンクしている。
(参照:第30回「Samurai JAPAN と 情報の非対称性」の大前氏の指摘)

9位がオーストラリア(前年10位↑)、10位ノルウェー(前年9位↓)、
以下、
11位アイスランド(前年11位→)、そして12位が日本(前年も12位→)となっている。

13位から20位までは、13位タイ(同19位↑)、14位フィンランド(同13位↓)、15位ジョージア(同21位↑)、16位サウジアラビア(同24位↑)、17位スウェーデン(同14位↓)、18位バーレーン(同17位↓)、19位ベルギー(同16位↓)、
そして20位マレーシア(同25位↑)。


さて、日本の中身を見てみよう。


1.起業しやすいか:64位。設立日数が23日かかることと、設立資本金がゼロでありながら、コストがかかりすぎること

2.建設の許認可:39位。免許の取得容易さにやや問題

3.雇用に対する法的規制:17位。解雇コストは低いものの、雇用のたやすさに問題あり

4.所有権の登録:51位。資産価値の割合に占めるコストが高め

5.信用力:12位。可もなく不可もなく

6.投資家保護:15位。情報公開は進んでいるものの、投資家保護の強さにやや問題

7.税金関連:112位。55%と企業にかかる総合的な税金が先進国中断然高い

8.二国間・多国間貿易:17位。左程問題はなさそうだ

9.契約の履行:21位。この項目も問題なさそうだ

10.ビジネスからの撤退:1位。世界一、たやすくビジネスからの撤退ができる国が日本である。
   (追補)この「ビジネスからの撤退」の項目は、とても大事な指標だ。
   これは、「撤退したいのに撤退できない」ケースが海外では多いからだ。
   その理由。
   例えば、中国。
   ① 中国への進出形態は現地合弁企業が一般的だ。撤退に対して、合弁相手との同意
      が得られないことが多く、合弁解除の場合、多額の賠償金を払わなければならない。
   ② 地方政府による撤退への許認可が得られにくい場合がある。
   ③ 撤退ノウハウを知らない(ニッチもサッチも行かなくなり、ずるずると塩漬けになり、
      日本本社への業績の足をひっぱり、結果倒産)
 参考までに、「ビジネスからの撤退」しやすい国の順位は、
 ①日本 ②シンガポール ③ノルウェー ④カナダ ⑤フィンランド ⑥アイルランド ⑦デンマーク ⑧ベルギー ⑨英国 ⑩オランダ  (メキシコ23位、中国62位、ロシア89位、ブラジル127位)


巷で言われているように、

日本は、

企業への税金が高いこと、起業のし難さ、所有権の資産価値の割合に占めるコストが高いこと、建設の許認可の取得し難さなどが、国際的評価からすると低いことの裏づけになっていることが理解できる。

ちなみに、

経済成長率から判断した新興諸国:BRICs やVISTA
(ベトナム、インドネシア、南アフリカ、トルコ、アルゼンチン)
のランクは以下の通り。()内は、2008年分。

125 (126↑) Brazil
120 (112↓) Russia
122 (120↓) India
83 (90↑)  China
92 (87↓)  Vietnum
129 (127↓) Indonesia
32 (35↑)  South Africa
59 (60↑)  Turkey
113 (102↓) Argentina

このリポートは、マクロな経済成長率だけでなく、グローバル展開を考えている企業に対して、現地国内の各種法整備など事業運用レベルでのガイドになるだろう。

*10つの評価項目:
1 Starting a Business(起業しやすいか)
2 Dealing with Construction Permits (建設の許認可)
3 Employing Workers(雇用に対する法的規制)
4 Registering Property(所有権の登録)
5 Getting Credit(信用力)
6 Protecting Investors(投資家保護)
7 Paying Taxes(税金関連)
8 Trading Across Borders(二国間・多国間貿易)
9 Enforcing Contracts(契約の履行)
10 Closing a Business(ビジネスからの撤退)

※写真は、シンガポール観光局のサイトからとDoing Business 2009の表紙を使用した。


【参考】

◆世銀(WB)と国際金融公社(IFC)の「Doing Business 2009」
http://www.doingbusiness.org/documents/DB09_Overview.pdf

◆国・地域別の調査データ
http://www.doingbusiness.org/Features/Feature-2008-22.aspx

◆調査の評価項目
http://www.doingbusiness.org/MethodologySurveys/

(追補08年11月1日)
◆ビジネスからの撤退
hhttp://www.doingbusiness.org/Documents/DebtEnforcement_Oct5.pdf
★「生産活動、世界で縮む:日本企業に迫る津波(1)」
(日経ビジネス 2008年10月20日p26)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20081016/174151/?P=6&ST=money

◆第37回「グローバル化のメリットとは?」

2008-10-11 05:46:09 | ■日本人はどこへ往く?

◆第37回「グローバル化のメリットとは?」


欧米での国際経営学のクラスで、まず一番目に学習するのが、

「なぜ、企業はグローバル化が必要なのか」、

「グローバル化してどんな得があるのか」

である。

最初に、グローバル化のメリットを見定め、
つぎに、グローバル展開できないのはなぜか、
そして、グローバル展開でのデメリット(リスク)を概観する。


1. なぜ、グローバル展開をするのか。その動機とメリットとは?

 さて、企業がグローバル展開するのは、どういう理由か。これについては、次のような動機が知られている。

・いい製品や低価格で提供するグローバル企業が、日本の市場にアタックをかける。この競合会社に対して、かれらの母国で反撃したい。

・国内マーケットよりも、海外のマーケットの方が、より大きな利益が見込めることを発見する。

・規模の経済(大量生産によるコスト削減)を実現するため、より大きな顧客層のあるところへ向かいたい。

・特定のマーケット(たとえば、日本だけ)への依存率を低めたい。

・現在の顧客が海外へ行き、海外でのサービスを求めている。

・中国やASEAN諸国に対しては、グループの親会社の進出に伴い、必然的にメンバー企業が随伴するというケースは、日本企業の場合、顕著である。

・安い人件費を利用して製造コストの低減を図り、国際競争力を維持する。更に、ASEAN諸国を世界市場への輸出戦略的基地とするために海外展開する、
などである。

一般的には、企業が本格的にグローバル展開するときのメリットは以下の4つである。

☆本格的グローバル展開のメリットの

1つ目は、
・潜在的なマーケットサイズを拡大させることにより、規模の経済が達成でき、結果、コストの削減が実現する。

2つ目として、
運営コスト、R&D(研究開発)コストの削減が実現できる。これについては、たとえば、マクドナルドの場合、その海外展開によって、店舗数が増大し、設備・備品などの供給側の交渉力が増大する。つまり、コストを抑えて設備・備品などが調達できるということ。

3つ目が、
海外展開によって、自社製品のライフサイクル(導入期、成長期、成熟期、衰退期)を拡大させることができる。これは、自国のマーケットが飽和状態になったとしても、経済成長の段階が違う他国で、まだまだ自社製品の需要が見込めると判断するものだ。コカコーラ、ペプシなどの飲料だけでなく、デルやHPなどのパソコン産業は、そのために積極的に海外に進出している。

4つ目は、
バリューチェーンでの全活動のための物理的なロケーションを最適化する動きだ。バリューチェーンでの全活動とは、主要活動(内向けのロジスティックス、オペレーション、外向けのロジスティックス、マーケティング&販売およびサービス活動)と支援活動(調達、技術開発、人的資源開発および企業インフラストラクチャー)の活動を最適化しようというものだ。業績向上、コスト削減、リスク低減などを目的とする。

もちろん海外ビジネスには、光の部分であるメリットだけでなく、影の部分のリスクがつきまとう。このことは、3で扱う。


2.グローバル展開への心理的バイアスを取り除く

グローバル展開をしたいのにできない。なぜ、踏み切れないのか。先ず、その心理的なバイアス(心の傾向)を覗いてみよう。

海外の商習慣が分からない。
海外のビジネスマンの考え方が理解できない。
そもそも、海外の顧客嗜好・動向が分からない。
語学、特に、英語圏でのビジネスには英語が理解できなければ、商売にならない。
日本のマーケットだけで満足している。いまさら、別のリスクを負うことはない。

一方、世界はフラット化している。グローバルな消費者の嗜好は、一定の範囲で近づいている。
小売業を見ると、ソフトドリンク、SUSHI、ファーストフードは世界のどこにでもある。
世界の都市に、マクドナルドあり、コンビニエンス・ストアありである。
製品レベルでも、Gucciの財布、Chanelのスーツ、時計、ハンドバッグなどのブランド製品は世界をマーケットにしており、パソコン、家電のみならず、携帯、デジタルカメラ、iPod/iPadも、世界の人々に愛されている。
IT・情報化関連のビジネスも、Google、amazon.com を筆頭に、eビジネスはボーダレスの展開だ。
特に、サービス産業では、優劣が顕著である。
例えば、旅行関連、格安航空券の予約ビジネスでは、インターネットのオンライン予約が一般的になり、グローバルな対応に遅れを取る国、会社は、国際競争力を失っていく。この分野では、日本の出遅れが目立つ。


3.もちろん、グローバル展開のリスクも承知しなきゃならない。

最後にリスクについても、しっかりおさえておこう。

リスクの1つは、

・政治的・経済的リスクである。世界の国々では、日本のように、平和で安定した国ばかりであるとは限らない。世界銀行、BERI (Business Environment Risk Intelligence)などでは、カントリーリスクのランキングを見ることができる。

リスクの2つ目は、

・通貨のリスクである。
企業は、絶えず自国通貨とホスト国の通貨レートをモニターしておかねばならない。海外でビジネスをする際、わずかな為替レートの変化が、生産コストや純益に重要な影響をもたらすからである。これが、通貨リスクである。

リスクの3つ目は、

・マネジメント(経営)リスクである。
海外マーケットで経営者が遭遇する、経営上の課題とリスクのことである。つまり、文化、習慣、言語、顧客の好み、物流システムなど、ビジネスの前提が、日本国内と違ったことが海外では多い。

※写真は、Dess et al(2006), Strategic Management: creating competitive advantagesの表紙と世界地図を逆さにしたもの。


【参考文献】

グローバル展開の理由、メリットとリスク:
グローバル展開についての理由づけは、戦略マネジメント関連の書物に共通して書かれている。戦略マネジメントのテキストは、自社の競争優位や価値をいかに創っていくかがメインテーマで、企業戦略からスタートし、事業戦略の外部分析から内部分析へと進み、グローバル/国際戦略、組織論、リーダーシップ論、イノベーション論へと展開する。

☆Dess, G.G., Lumpkin, G.T. and Eisner, A.B. (2006), Strategic Management: creating competitive advantages, 3rd Version, McGrow-Hill/Irwin

☆Pitts, R.A. and Lei, D. (2006), Strategic Management: buiding and sustaining competitive advantage, 4th Edition, South-Western Pub. Co.
 
☆Begley, T.M. and Boyd, D.P. (2003), The Need for a Corporate Global Mind-Set, MIT Sloan Management Review, Winter, pp.25-32
 
☆Yip, G. (1992), Total Global Strategy: Managing for Worldwide Competitive Advantage, pp. 1-29, Prentice Hall
 
☆Yip, G.S. (1989), Global Strategy: In a World of Nations?, Sloan Management Review, Fall, 31(1), pp.29-40

☆Kim, W.C. and Mauborgne, R.A. (1993), Making Global Strategies Work, Sloan Management Review, Spring, pp.11-27

◎BERI (Business Environment Risk Intelligence):
http://www.beri.com/

Getting Started with Country Risk Analysis 4: The World Bank Database (


●第36回「日本文化のグローバル化のかたち」

2008-10-08 02:09:09 | ■日本人はどこへ往く?

●第36回「日本文化のグローバル化のかたち」
~Misako Rocks! さんとRiyo Moriさんと~


今回は、肩のこりない話題で。

最近、英語で日本文化(マンガや原宿の文化など)を伝えている2人の女性を知った。

Misako Rocks!さんは、日本人の英語少女manga家(graphic novelist)で30才。
Riyo Moriさんは、2007年に、Miss Universeというアメリカンドリームをつかんだ22才の日本女性だ。

Misakoさんは、埼玉の警察官一家(麻薬捜査官の父と青少年犯罪を手がける母と警察官の兄)に育ち、法政大学英文科入学後、ミズーリ州カークスビル大学への交換留学(2年間)に。大学卒業後、人形師の仕事探しで、渡米しニューヨークへ。人形師への思いは適わず、また国際結婚もままならず、離婚後、起死回生のため、2~3才から馴染んできたmangaの企画をNYの出版社に提案し、米国での少女マンガ家としてスタートしている。

3冊のManga Booksは、
BIKER GIRLとRock and Roll Loveが9-14歳向けで、
Detective Jermain (Vol.1)が若者向けと区分されている。
The New York Timesでは、”アメリカで最初のオリジナルマンガ・アーティスト”だと呼ばれているようだ。

一方、
Riyo Mori(森理世)さんは、静岡生まれで、お母さんは、元ミスインターナショナル静岡県代表で、森育子ダンススタジオを主催している。

CNN MyCity_MyLifeで放映された内容は、Riyo Moriさんの生い立ち、東京(原宿や銀座)の魅力、ダンスを通して忍耐と幸せを若い人たちへ教えること、などが日本人 理世さんの人柄そのまま、語られていた。(なかなかよかったですよ!)

この2人に共通しているのは、
英語を使って、
日本以外の国(特に、米国文化圏)に
じかに、
日本文化を紹介していることだ。

一人は、グラフィックを通して、
一人は、世界向けのテレビをとおしてだ。

マンガのグローバル化、特に日本漫画の中国やアジア地域への普及の経緯は、海賊版による廉価な翻訳本によることがよく知られている。
Misako Rocks! さんの場合、メジャーな米国出版社からの米国デビュー、ひいてはグローバルデビューということになり、過去のJポップの展開(日本語オリジナルから各国言語への翻訳本)と少々違ったかたちとなる。

Riyoさんの場合は、
ミスユニバースといった肩書きのおかげで、日本文化の伝統的なものから最先端なものまで、日本人以外の人たちへ、彼女の目線で、日常レベルの日本文化の紹介に貢献している。

ミスユニバース受賞に伴って出てきた、文化の「齟齬」、つまり、「美の基準の違い」論争は、興味がつきない。

西欧的な容姿とマインド(自立した女性)vs. 奥ゆかしさと日本的美の基準などなど。

しかし、「美の基準の相違」という文化的な視点だけでなく、
美のビジネス、Miss Universeという組織のグローバル・マーケティングという観点からとらえると、これまた面白い。

美の価値が、地域や文化によって異なることはよく知られている。
スポーツと違って、同じルールの元でたたかうことがたやすくない。

現在MLB(メジャーリーグベースボール)、NBA(全米プロバスケットボール協会)をはじめ、スポーツ・ビジネスのグローバル化、つまり、米国スポーツの中にその国出身の選手を取り込むことで、彼らのスポーツの活動をその出身国へと拡大しようという考え方とこの美の祭典は同じ手法を取っていると考えた方が、理解しやすい。

つまり、世界一になった女性(選手)を目指して、次から次へと、新しい人材を育てていく、新しい人材の供給源となるという、美の人材育成、美の人材供給システム・ビジネスというとらえ方だ。

不動産王や投資家で有名なドナルド・トランプ氏は、モデル育成のエージェンシなどのエンタテインメント界の帝王でもあり、Miss Universeを放映するNBCテレビのパートナーでもある。

ともあれ、
この2人をはじめとする、

International Japaneseの人たちを応援していくのが、

クロスカルチャー時代の新しい精神のような気がしている。


※上の写真は、Misako Rocks! さん(左)と彼女の最新作「Detective Jermain (Vol.1)」、右はRiyo Moriさん(CNN MyCity_MyLife "Riyo Mori: Mistress of the universe"より)。

◎参考資料◎

[Misako Rocks!]
☆Misako Rocks!さんのWeb Page
http://www.misakorocks.com/
☆MySpace.comのページ
http://profile.myspace.com/index.cfm?fuseaction=user.viewprofile&friendid=375331793
☆Misako Rocks!: The Japanese artist imports 2-D cuteness and sexiness to the Midwest (including interview)
https://venuszine.com/articles/art_and_culture/591/misako_rocks
☆ニューヨーク・イベント情報誌「よみタイム」
http://www.yomitime.com/who/97_misako.html
[Riyo Mori]
☆CNN MyCity_MyLife "Riyo Mori: Mistress of the universe"
Broadcast on Sunday October 5 (1430GMT)
Video:
http://edition.cnn.com/CNNI/Programs/mycity_mylife/
Full Story:
http://edition.cnn.com/2008/TRAVEL/09/29/riyo.interview/index.html
☆Donald Trump Web Site:
http://www.trump.com/default.asp?
☆Miss Universe Pageant:
http://www.missuniverse.com/history/index.html
☆「美の基準の相違」論争:
森理世さん批判に思うこと(sokの日記プログ)
http://sok-sok.seesaa.net/article/44968645.html
上記プログへのコメント
http://sok-sok.seesaa.net/article/44968645.html#comment

◆第35回「世の中の変化のポイントを見極める」

2008-10-06 06:50:15 | ■日本人はどこへ往く?


◆第35回「世の中の変化のポイントを見極める」


前回に続き、
イノベーティブな世の中の変化を眺めてみよう。

では、この破裂的技術を見極めることはできないのか?
破裂的技術だけでなく、世の中を変えてしまうような契機、つまり、産業構造の変化、顧客の需要の変化を見極めるポイントは存在する。変化の兆しが認識されているとしても、企業自体が、そうたやすく変化に対応できないようなポイントがあるのだ。

バーゲルマンとグローブは、その契機となるところを

SIP(ストラテジック・インフェクション・ポイント。戦略的伝染ポイント)

と呼んだ。


SIPは、諸力のバランスが変化するところ、つまり、古いビジネスや競合関係から、新しいものへと変わっていく潮の目のことだ。

このポイントは、カーブがそれ以降劇的に変化し、決して元へ戻らないポイントだ。このSIPを見落とすと、企業は、新しい競争環境に適応できず、死の谷へと脱落していく。

SIPを見極めるためには、その兆候を示すシグナルが<<2つ>>ある。

1つ目は、
ポーターの5フォーシズの秩序の重要な変化だ。

ポーターの5フォーシズ(5つの競争要因)とは、「既存企業間の継続的な競争」、「新規参入の脅威」、「買い手の交渉力」、「売り手の交渉力」と「代替製品からの脅威」の5つの要因に変化が現れ、今までの分析では説明がつかなくなる。
第32回「グローバルな競争優位を築くには~M・ポーター、RBVと両者の統合理論」参照)

2つ目は、
戦略的不一致(ストラテジック・ディソナンス)だ。

戦略的不一致とは、
経営計画と実際の行動計画の不一致、
競争の基盤や質が変化していると気がつくこと、
社内のリソースや能力(コアコンピタンスを含む)に今までとは異なったものが必要になってきた、
という3つの不一致だ。

これらのシグナルを見落とさないようにするのが、経営者の一番目の役割と言える。

次に、戦略的不一致やSIPを上手に管理する方法として、
「建設的な激しい社内での議論」と
「経営者による絶え間ない意思決定の必要性」が挙げられる。

前者は、中間管理職の社員と腹を割って話そうと言うことだ。
彼らには、懲罰や圧迫を与えず、価値観の相違を気にせずに、データに基づき、自由に思うところを議論してもらう、ということである。

後者は、新しい戦略、新しい組織作りを頭に描きながら、議論のみに終始せず、結論を出す、ということになる。
トップダウン型の企業の場合、知識を持っている社員の意見に耳を傾けることがないので、できるだけ耳を傾けること。

意思決定がボトムアップ中心の企業の場合、目的なしに場当たり的な戦略をとり、社内のリソースを拡散することが多いので、これにも注意を要すること、が経営者の役割ということになる。


※冒頭の写真と図は、
Burgelman, R.A. and Grove, A.S.(2001), Strategy Is Destiny: How Strategy-Making Shapes a Company's Future, Free Press の表紙と
Burgelman, R.A. and Grove, A.S.(1996), Strategic Dissonance, California Management Review, Vol.38, No.2, Winter, p.11より引用した。


【参考資料】
◆Burgelman, R. A.and Grove, A.S. (1996), Strategic Dissonance, California Management Review, 38 (2), Winter, pp.8-27


◆第32回「グローバルな競争優位を築くには~M・ポーター、RBVと両者の統合理論」

2008-08-31 08:53:18 | ■日本人はどこへ往く?

◆第32回「グローバルな競争優位を築くには~M・ポーター、RBVと両者の統合理論」

前回では、加速されるグローバル経済のただ中で、企業がどういう経営資源に注意をしなければならないか、について簡単に説明を加えた。

今回は、競争優位一般について、

-古典的なM・ポーターの5フォーシズ(5つの競争要因)とジェネリック(一般基本)理論
-ポーターを乗り越えようとするRBV(リソースベース理論)
-上記の統合理論

そしてこれら両理論の前提ともなっている
-シュムペーターの創造的破壊・イノベーション理論
を概説しよう。

まず、競争優位の定義を、P・コトラーの言葉を借りて述べておくと、

「競合企業が対抗できない、あるいは、対抗しようもない一つかそれ以上の方法で業績を上げる能力のこと」

コトラーによれば、持続可能な競争優位は、それほど多くはなく、どんな競争優位も顧客にとっては、顧客優位性として捉えられている。例えば、企業が顧客に対して、競合企業より早く、何かを顧客に提供したとしても、顧客がスピードに価値を置かないとすれば、それは、顧客優位性とはならないであろう。企業は、この顧客優位性を構築することに集中しなければならない。その時に企業は、高い顧客価値と顧客満足を提供できる。このことが顧客の高い購買率につながり、結局、企業の高い収益性へと結びつく、と定義している。

まず、競争優位の内容で、古典的かつ有名な、M・ポーターの5フォーシズとジェネリック理論をしっかり掴んでおこう。

ポーターの5フォーシズ(5つの競争要因)モデルとは、ある産業内の潜在的な利益の極大化を決定する要因のことで、「既存企業間の継続的な競争」(中心になる一つ目のフォース=影響力や多大な力を持つ要因)に対して、その周りから影響を与える4つの要因を分析している。残り4つの要因とは、「新規参入の脅威」、「買い手の交渉力」、「売り手の交渉力」と「代替製品からの脅威」である。一つずつ見てみよう。

「既存企業間の継続的な競争」とは、
その競争の範囲(競合関係)のことを指し、もしこの競合関係が弱いならば、企業は価格を上昇させ多大な利益を享受できるし、もし、この競合関係が強いときは、価格競争に陥る可能性がある。このように、激しい競合関係がある場合、利益獲得に極めて強い脅威となる。

「新規参入の脅威」とは、参入するためのバリアが高ければ高いほど、新規参入の脅威が低くなるということだ。新規参入のバリア(障壁)とは、例えば、ブランドに対するロイヤルティ、絶対的なコストでの優位性と規模の経済性、スイッチング・コスト(ある製品/サービスから他の製品/サービスへ乗換えるコスト)、政府の規制などが考えられる。

「買い手の交渉力」の買い手とは、
消費者であったり、卸売業者であったり、小売業者だったりする。買い手が強い立場にあるとき(買い手の交渉力が強い場合)、仕入れ価格を下げさせたり、もっとよいサービスを要求したりできる。これは、競争上の脅威になる。他方、買い手の立場が弱いときは、供給業者は、納入価格を上げて利益を確保することができる。従って、買い手が納入業者に要求ができるかどうかは、かれらの力関係にかかっている。

つまり、買い手が極めて少なく、大量に発注するときは、価格を下げることが可能である。また、その業界が多くの、比較的小さな販売業者から成り立つ場合、その販売業者は買い手に圧力をかけることができない。その代わり、買い手はたぶん、仕入れの会社間を容易く渡り合い、販売競争は激しくなるだろう。

「売り手の交渉力」とは、
売り手が強い立場にあるときは、売り手が価格を上げたり、品質を下げたりすることにより、買い手の利益を圧縮することができる。そのような脅威だ。他方、売り手が弱い立場にあるとき、価格を下げられたり、品質の向上を求められたりする。売り手が強い立場にある(売り手の交渉力が強い場合)とは例えばこういうことだ。売り手が寡占のとき、これら売り手の競争関係は低下する。もし売り手が競合しないなら、マーケットシェアを増加させるために、価格競争に陥ろうとはしない。これは、例えば、携帯電話の基本ソフトを考えれば理解しやすいだろう。マイクロソフトと英Psion社がこのソフトウェアの主要開発会社だ。

「代替製品からの脅威」とは、
同じ産業内とは限らず、既存の製品/サービスと同じ機能を持つ製品/サービスがあるとするならば、それらが現実的な代替品になる可能性があるということだ。現実的な代替品が存在するとき、それら代替品は、既存の産業が値付けする価格に上限を設定することができる。何故なら、ある価格を超えると消費者は、その代替品/サービスを考えるからである。ビジネスでの移動手段としての、新幹線と航空機利用を考えてみれば分かりやすい。

更に、ポーターは、これら5フォーシズ分析を活用し、基本的な事業戦略の枠組み(ジェネリック理論)を開発した。ポーターのジェネリック理論は別名、ポジションアプローチと呼ばれている。業界を一単位として分析をスタート。コスト・リーダーシップ、差別化、集中(コスト集中および差別化集中)の基本3戦略を使って、自社が排他的利益を得ることのできる位置「ポジション」の確立を目指すという考え方だ。このポーターの理論は、メイソンやベインの理論を発展、集大成したもので、日本企業に全面的に支持され、特に、1980年代の日本企業の成功要因の一つになったと考えられる。

このポーターの考え方に対して、イノベーションの役割が看過されている。ゼロサム・ゲームが前提となっている(供給業者、買い手、ライバルとの協力によるパイの拡大が見落とされている)。業界構造の特徴よりも、個々の企業の利益が重視されている。業界の定義が困難である、などの弱点の指摘がなされた。

一方、RBV(リソースベース)理論は、ポーターのポジショニングアプローチと違ったアプローチを取る。

つまり、ポーターの言うことは理解できる、しかし、現実問題として、一般の企業では、既存のリソース(資源。ブランド、パテント、顧客や従業員の信頼など)や能力に制限があり、その選択は自ら制約される。また、新しいリソースや能力を構築する速度にも制約がある。企業は、それぞれ異なった性格をもち、リソースの流動性は制限されており、多くのリソースや能力は、即座に構築できないし、マーケットに投入できるものではない。この前提から、自社内のリソースや能力開発に集中することが、競争優位の源泉になる、との考え方へと展開する。かれらは、このリソースや能力のことを、ディスティンクティブ・リソース/能力(他から区別される独自の資源/能力のこと)と呼ぶ。競争優位の幅を広げるためには、これらリソース/能力が「価値あるものか」と、「稀(他の企業にないもの)」とを問うことが必要であり、競争優位の持続性を保つには、これらリソース/能力が「たやすく真似されないものか」、そして「簡単に代替されるものか」との疑問を発することが、ディスティンクティブ・リソース/能力の発見/維持につながっていく。

このRBV理論は、チェンバレンの流れを汲み、J・バーニーになどにより、実際のエクセレント企業の業績からも実証がなされ、プラハラードとハメルのコア・コンピタンス(自企業が独自にもつ能力。例えば、ソニーのウォークマンなどに見られる「小型化技術」、ボルボの自動車安全技術、ホンダのエンジン技術など)へと展開し、競争優位の大きな意味を持つものへと受け継がれている。現代マーケティングの大御所と言われている、P・コトラーもどちらかと言うと、RBV理論を重視している。

ジェネリック理論とRBV理論の統合理論も登場している。この統合理論は、大別するとハンフリーのSWOT分析(強み・弱み・機会・脅威のマトリックスによる分析)と、プロセス毎により両理論を適用しようという、2つがある。前者は、コンサルティングの際、頻繁に利用される分析手法であるが、もちろん限界もある。SWOT分析の限界とは、いかに競争優位を獲得するかを示すことができないことだ。後者は、主に企業内部向けのリソース・能力から企業の活動(プロセス)までRBV理論を活用し、その後の製品属性の分野にポーターのジェネリック理論を応用し、顧客価値(WTP:顧客がよろこんで支払う価格のこと)の満足を得ようとの理論である。

更に、自社のリソースや能力不足に対処する方法としては、他社のリソース/能力を積極的に確保するための、M&A、戦略的提携が有効であり、内部リソース開発、ダイナミック能力開発などの方法が推奨されている。

※写真は、マイケル・ポーターのCompetitive strategy: techniques for analyzing industries and competitorsと5フォーシズから。


【参考】

●M・ポーターの5フォーシズとジェネリック(一般基本)理論:
Porter, M.E. (1980), Competitive strategy: techniques for analyzing industries and competitors, Free Press
マイケル・ポーター(1995)「[新訂]競争の戦略」土岐坤、中辻萬治、服部照夫/訳、ダイヤモンド社 "

Porter, M.E. (1983), Industrial Organization and the Evolution of Concepts for Strategic Planning: The New Learning, Managerial and Decision Economics, Vol. 4, No. 3, Sep., Corporate Strategy

Porter, M.E. (1985), Competitive advantage: creating and sustaining superior performance, FreePress
マイケル・ポーター(1985)「競争優位の戦略:いかに高業績を持続させるか」土岐坤、中辻萬治、小野寺武夫/訳、ダイヤモンド社

●コトラーの競争優位の定義:
Kotler, P. and Keller, K.L. (2006), Marketing management, 12 ed., Pearson Prentice Hall, p.150

●RBV(リソースベース理論)
Barney, J.B. (1986), Types of Competition and the Theory of Strategy: Toward an Integrative

Framework, Academy of Management Review, 11(4), pp.791-800

Barney, J.B. and Zajac, E.J. (1994), Competitive Organizational Behavior: Toward an Organizationally-Based Theory of Competitive Advantage, Strategic Management Journal, Vol. 15,

Special Issue: Competitive Organizational Behavior, Winter, pp. 5-9.

●プラハラードとハメルのコア・コンピタンス
Prahalad, C.K. and Hamel, G. (1990), The Core Competence of the Corporation, Harvard Business Review, May-June, pp.79-91

●SWOT分析の限界
Dess, G.G., Lumpkin, G.T. and Eisner, A.B. (2007), Strategic Management: creating competitive advantages, 3rd Version, McGrow-Hill/Irwin, p. 78

●ダイナミック能力開発
Eisenhardt, K.M. and Maratin, J.A. (2000), Dynamic Capabilities: What are They?, Strategic Management Journal, 21, pp. 1105-1121

●第22回「個人の個人主義と社会の個人主義社会~日本的個人主義社会へ~」

2007-12-23 21:32:01 | ■日本人はどこへ往く?

●第22回「個人の個人主義と社会の個人主義社会
~日本的個人主義社会へ~」

国や文化について、個人主義社会と集団主義社会に2分することが一般的に行われている。
英米は個人主義社会で、日韓は集団主義社会だと言うように。
学界では、ホフステードの「個人主義と集団主義」、トランペナーズの「個人主義と共同体主義」などがそうである。

つまり、個人を優先に考えるのか、個人を取り巻く社会を優先に考えるのかの2分法である。

もう少し、じっくり考えてみると、どうも、社会は、西欧人が見るように、そんなに単純ではないようだ。

つまり、個人が個人主義に向かうのは自然なことで、それをどうやって、西欧的な個人主義ではなく、日本の集団主義のよいところを残しながら、日本的個人主義社会をつくっていくかが、ポイントになるのではないか。

今回は、このことを考えてみたい。

日本では、米国の文化に影響されて、表面上は、個人を尊重する風潮は確かにある。しかし、社会のシステム(制度)は、いまだ、集団優先の制度になっている。

小学校を見よう。集団的朝礼はまだまだ存在するし、教育の枠そのものは、集合的教育法そのものだ。これは、大学まで続いている。会社へ入ったらどうだろう。これも、周りを気にする、特に、日本的な集団的研修、仕事の進め方になっている。集団的教育法とは、個人のキャリアを主体に考えると言うことではなく、学校や会社などの組織がはじめにありき、個人、その家族は、会社などの組織に従属するという考えが基本にあり、それが日本の組織優先社会の実態である。

さて、2分法的な個人主義社会と集団主義社会の枠に戻って、双方のプラス面とマイナス面とを考えてみよう。

個人主義の良い点は、自己実現優先のため、所属する会社など組織は、自分や家族よりも優先度が低くなる。一方、会社など組織の効率と言った観点から見ると、個人主義の弱点であるセクショナリズムや利己的なことが強調され、例えば会社のパワーが、一部の経営者あるいは有能社員に集中し、組織力全体としてのパワーがどうか、という問題が生じる。しかし、会社組織で言えば、80年代からの日本企業による世界の席巻に伴い、西欧企業は、いかに、個人主義の中にチームプレイを入れて、日本企業のような効率性を高めていくかを、熟慮し、その実行を果たしてきた。そして、その成果がでている。

個人主義社会での生活面の善し悪しではどうだろう。メルボルン(のような個人主義的社会)に限っていうと、他者のことは関係ない、自分の生きたいように行動することが普通である。何々に気兼ねする、誰々に考慮しながら、行動を制限すると言うことは、あまり見られない。一方、個人としては活動が難しい人たち、例えば、デイケアの人たちのためには、近くの公園で、その人たちのためのパーティなどが頻繁に催され、個人主義の弱点が補強されている。個人だけではできない、グループとしての楽しみを、社会がシステムとしてもっているようだ。

振り返って、集団主義的社会、とくに日本社会はどうだろう。

集団主義の良い点は、一々言葉に表現しなくても、相手の行動、行為、好意が自然と分かり、気持ちの良いほど、効率的にものごとが処理される。一方、集団生活で大切なのは、「和」であり、「個」の主張は極めて制限される。集団生活でのルールが口やかましく教え込まれる。例えば、公共交通機関では、うるさいほどの案内があり、公共の場所でも異常なほど、個人を守る安全対策(柵の設置など)が常態化している。会社組織を見ると、仕事上は和の流れに身を任せれば、いごこちよく仕事ができるが、逆に、革新的な仕事をしたい人間にとっては、伝統的なルールに
縛られ、なかなか新しいスタイルをとる事ができない。アイデアの創出など他との違いを強調することは、会社組織ではまだまだ価値が置かれない方が多く、ともあれ、従順な性格の方が無難に仕事を進められる。

集団主義での生活レベルではどうなっているか。日本社会は、ある意味で監視社会的な習慣があり、常に、他者は見られる存在であり、とくに目立つ行為は疎まれ、やっかまれ、好まれない。一方、利己的行為が少しずつ増えはじめ、自分の殻に閉じこもりがちな者も増えており。彼らは、伝統的な「和」の社会スタイルになじめない。ただ、生活レベルでの長所をあげると、長年しみついた日本的環境や生活スタイルが、特に海外生活(個人主義の世界)から戻ってきた日本人を、よりリラックスさせることは言うまでもない。

個人主義社会での伝統マナー

メルボルンで経験して、これはいいなと思うことがある。
トラム(電車)で、重い荷物をもっている婦人には、自然と誰か(男性)が手を差し伸べる。
重い荷物だけでなく、ベビーカーなど困っているひとには、手を差し伸べる余裕がある。座席も、当たり前のように老人にゆずる。
個人主義だからこそ、殻に閉じこもらないように、この種の社会的習慣やルールが存在するのかもしれない。
大人が自然とやるから、子供もそれを見て、育ち、自分も手を貸すようになる。
大学構内でも、勤め人のひとにもよるが、ドアを手で押さえて、レディファーストの習慣を見ることも、一度や二度ではなかった。

でも、考えてみると、これは、個人主義や集団主義の習慣・ルールというよりも、成熟した社会の基本的なマナーじゃないんだろうか、と思い直した。

他者への気配りは、大切な社会生活のマナーであって、数10年前までは、日本人も普通にやっていたような気がする。今では、そういった気配りの習慣は、地方都市、それも伝統的な田舎のなかだけでしか経験できなくなってしまった。

いつから、日本では、このマナーが忘れられた、捨てられたのだろうか。

核家族化して、家族、一族のつながりが薄くうすくなっている日本。同じ、集団主義や家族主義の伝統をもつ、他のアジア諸国、たとえば、中国や台湾、韓国などでは、大都会をのぞいて、まだまだ、お年寄りを大切にする伝統は残っているようだ。

高度経済成長、バブルを経て行き着いたところが、他者への気配りも喪失したマナー棄却の国、となると、ますますもって、将来の日本のゆくえに不安がよぎってしまう。ここのところの出生率の減少もこういうところから来ているのでしょうか。

さて、嘆きを入るのはこのくらいにして、どうやって日本的な個人主義社会を見出していくかを考えてみたい。

個人が自己実現を求めるのは自然な人間の感情だと思う。一方、国は、(日本では)、まだまだ統治しやすい個人を求める。つまり、これまでのような大きな政府で、行政側のパワーは以前と同じく持たされたままで、未来の時代を生き抜こうとしているかのようである。

地方自治体では、参加型のセミナーが以前より増えていることは確かだ。また、情報の扱い方、情報の入手面でも、インターネットの普及とともに、情報の非対称性(例えば、行政とそのサービスを受ける市民の持っている情報の量と質の差があるということ)が少しずつではあるが、情報公開法の施行などによって、そのギャップが解消されてはいる。

けれども、冷静に考えてみれば、参加型、情報の非対称性の解消なども、上から下へ(お上の行政からしもじもの市民へ)の流れが基本的に変化していることでは、ない。つまり、企画のアイデアは、市民からもらいましょう、でも、実施や評価は、そもそも、行政側のパワーに属するもので、あくまでも、市民、住民は、参加の一部であって、主体ではないのです。

バブル崩壊以降、政府も自信をなくしたように思われる。なにせ、知的レベルの最も優れた人たちに、国の舵取りをまかせ、結果として、経済面で失敗してしまった。でも、誰もその責任は問うていない。あたかも、地震のように、天から降ってきた天災の部類で、誰もこれが人災だとは思いもしない。経済面での失敗も、お上=天から与えられたもので、責任はひとにはない、かのようである。

さて、日本的な個人主義社会を見出すためには、

まず、身近な個人レベルでは、他者に対する気配りを、例えば、お年寄りに対する優しさを、大人自ら実行していく風潮をつくることである。

次に、社会レベルでは、お上に頼ろうとする、その依存心を捨てなければならない。これは、個人も、企業も、そしてマスコミもである。自己責任、自律/自立心を持とうでないか、ということである。
ここから、少しずつ、日本的な社会の個人主義が芽生えてくる可能性もありそうだ。

今の日本は、なんだか得たいの知れない「閉塞感」に覆われているようだ。この「閉塞感」のみなもとの一部は、どうも、このお上への依存心や他者に対する気配りの喪失から来ているのかも知れない。

知的レベルの最も優れた人たちに国を動かす権力を与え、知らず知らずのうちに、日本という国が過去の一定期間成功し、その美酒に酔っているあとで、失敗が繰り返され、最終的に、自信をすっかり喪失し、閉塞感に囚われた。

これはどうしてなんだろう。

エコノミック・アニマルだと揶揄されながらも、日本企業は西欧世界にチャレンジを繰り返し、その結果、闘いとった経済的繁栄は、確かに素晴らしかった。それに、市民レベルでも、海外へ行ったときほど、円のチカラを実感することはない。
これは、政府、企業のなせる業であった。

経済的に失われたこの15年の責任を、もちろん、政府と企業だけに押し付けるわけにはいかない。

しかし、

失われたこの15年間に、

何か、

大事ななにかが、

あらゆる日本人のこころから忘れ去られたように思われる。

それは、なんだろう。



もしかしたら、

未来を恐れず、

未知なるものへ挑戦する

『気概』や『勇気』

なのかも知れない。


【参考】
右上の詩は、Piet HeinのCollected Grooks より。

「勇気がある」ということは、心が挫けた時にそれをものともせず立ち向かうこと。
だから、実際にあなたが勇敢でないときだけ、ほんとうの勇気ある人になれるんだよ。

彼は、オランダ人の詩人/科学者/建築家(1905-1996)。
Grookとは、オランダ語のgrukのことで、警句的詩を意味する。
http://chat.carleton.ca/~tcstewar/grooks/grooks.html

●第20回「優秀な官僚大国による日本とは?(改訂版)」

2007-09-19 21:55:35 | ■日本人はどこへ往く?

■優秀な官僚大国による日本とは?(改訂版)

日本で数少ないジャーナリストの一人、田原総一朗氏が、「公務員制度改革(行政改革)」と安倍政権倒閣の関係について、官僚と新聞の役割を中心に分析している。

社会保険庁の解体と民営化、公務員の天下り改革については、当然のごとく、官僚は反対している。そのため、公務員制度改革を進めようとしている安倍政権を倒すために、官僚自らが、社会保険庁のお粗末な年金記録管理の実態を、野党、週刊誌、新聞に「自爆テロ的に」リークしたのだという。その理由は、参議院選挙で自民党が負けて安倍首相が退陣すれば、社会保険庁改革が消えるというわけになる。

 もう一つが天下り。『渡辺喜美行革担当大臣が提示してこれからやろうとしている「官民人材交流センター(新・人材バンク)」は、官僚の天下りの権限を官房長から取り上げるものだ。』つまり、官房長という官僚の権限を取り上げ、人材バンクが斡旋する。『人材バンクの設置は、現役を去った以後の官僚のサイクルを断ち切ることになる。これは大変な問題だ。』と、田原氏は述べる。

『官僚が公務員改革に反対するのはわかるが、なぜメディアも反対するのか。』

田原氏は、続ける。『ある新聞社の幹部は、「そんな改革をやったら優秀な人間が官僚にならなくなる。そうなると日本の行く末が思いやられる。だから断固反対する」と僕に語った。また、マスコミはなんだかんだいっても主な情報源は官僚たちだから、官僚たちが反安倍政権になるとマスコミも安倍不支持となるのだ。』

おう、これは、マスコミの権力の乱用なのではないかしらん、と思ってしまう。
政治家や官僚以上に、マスメディアには、お上(権力者、支配者)意識があるようだ。

次に、猪瀬直樹氏の最新記事だ。
彼の論旨はこうだ。
まず、日本の権力構造を分析する。
「日本の権力構造には中枢が存在しない。1府12省がそれぞれ権力を持ち、13の小政府を形成している。だが統一政府は存在しない。」
次に、官邸の役割を述べる。小泉元首相は、官邸主導の政治を推進し、統一政府を目指した。安倍前首相もそれを引き継ぐはずだったが、意志半ばにして挫折。

「官邸を権力の中枢として確立するためには、情報と権限を独占している官僚機構と戦わなければならない。」
それができなくなった今、
再び中枢不在の「官僚主権」が台頭する、と予言している。

また、「いまも昔も官僚は、改革に対する「抵抗勢力」だ」と。
(この記事は同時に、中世から明治維新後の政治家と官僚との歴史が述べられている)

日本の権力構造には中枢が存在しないという説は、今年7月に亡くなられた河合隼雄さんの日本文化の「中空構造」(日本人の心の深層を解明するモデルとしての『古事記』神話における中空・均衡構造)とまさに同じ特徴になっている。

なんと、とても長~い時代、日本の権力は、しもべ(市民)にはわからないようになっているんですね。
田原氏の言われる、「マスコミの主な情報源は官僚だ」をあわせて考えると、どうも、この情報社会の真っ只中で、日本国を最終的に動かしているのは、情報を握っている「官僚超大国」ということになってしまいますが、どうなのでしょう。


官僚主導で失敗した石油開発について、産経新聞の田村秀男は、執拗に天下り官僚の責任を問うている。

たとえば、「1900億円の欠損を出して2000年に解散した日中石油開発は中国・渤海鉱区を放棄した。そこで日本のパートナーだった中国海洋石油総公司(CNOOC)が有望油田を相次いで発見し、増産にわいている」ことを石油開発会社の首脳(経産省の天下り)に問う。首脳は、一様に「そりゃ、初耳だ」。
旧石油公団の技術専門者によれば、「当時の探鉱技術は深層域が対象。日本には浅層域の探査技術が乏しかった」。CNOOCは、日本が中国・渤海鉱区を放棄したあと、欧米の民間企業の探鉱技術を使い、浅層域で掘り当てた、ということです。

官僚の縦割り行政の弊害を書いているのが、同じく産経新聞の高畑昭男だ。

海の監視システム整備のため、日本版国家安全保障会議(NSC)創設をめざす、小川和久氏(軍事アナリスト)についてのレポートだ。船のチェックポイント、無人電子ブイによる電子認証と衛星によるチェックシステムを提唱している。こうした発想は、現在の縦割り行政の仕組みの中では、出てこないし、官僚自身も、そのような「柔軟な発想ができない」ともらしている。

いつから日本人は、伝統的な「謙虚さ」という徳をなくしてしまったのだろうか。

これも、古事記時代から脈々と続く、日本的権力構造の結果であり、西欧的な権力の中心統合を望むのは、夢なのだろうか。

【参考】
■田原総一朗の政財界「ここだけの話」
第20回 安倍政権の倒閣を企てた官僚たちの二重クーデター (2007/07/19)
http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/column/tahara/070719_20th/

■猪瀬直樹の「眼からウロコ」安倍首相の辞任で再び中枢不在の「官僚主権」が台頭する(2007年9月18日)
http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/inose/070918_8th/

■『中空構造日本の深層』(中公文庫・中央公論新社)
http://www.amazon.co.jp/%E4%B8%AD%E7%A9%BA%E6%A7%8B%E9%80%A0%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E6%B7%B1%E5%B1%A4-%E4%B8%AD%E5%85%AC%E6%96%87%E5%BA%AB-%E6%B2%B3%E5%90%88-%E9%9A%BC%E9%9B%84/dp/4122033322

■【やばいぞ日本】第2部 資源ウオーズ(10)官僚がつぶす石油開発(産経新聞SankeiWEB)
http://www.sankei.co.jp/keizai/sangyo/070829/sng070829001.htm

■【やばいぞ日本】見えない敵(9)官僚自ら「柔軟な発想無理」 (産経新聞SankeiWEB)
http://www.sankei.co.jp/seiji/seisaku/070724/ssk070724000.htm